教育訓練給付に関する処分とは実際に給付金を支給する決定または支給されないという決定のことであり、支給要件照会に対する回答は処分ではありません。
1.教育訓練給付に関する不服申し立て
審査請求
教育訓練給付に関する処分に不服がある場合は、その処分のあったことを知った日の翌日から3か月以内に、雇用保険審査官に対して審査請求をすることができます。また、雇用保険審査官の決定に不服のある場合は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます。
審査請求に対する雇用保険審査官の決定が無ければ取消訴訟を提起することはできません。
教育訓練給付に関する処分とは
「教育訓練給付に関する処分」とは、例えば、ある金額の教育訓練給付を支給する旨の処分または支給しない旨の処分のように、直接かつ具体的に法律効果を生ずる処分のみが審査請求の対象となります。
教育訓練給付金の支給要件事実の判断は審査請求の対象となる処分ではありません。
2.審査請求できる処分の例
給付金の支給決定・不支給決定
給付金の支給申請に対する、「金○○円の教育訓練給付金を支給する」といった支給決定、または「教育訓練給付金を支給しない」といった不支給決定は、当然、教育訓練給付に関する処分に該当します。金額が不服である場合も審査請求をすることができます。
支給決定・不支給決定の通知書の裏面には審査請求の記載があります。
専門実践教育訓練給付金、教育訓練支援給付金は、支給単位期間ごとに給付金を計算するので、ある支給単位期間で算定された支給額について不服がある場合は、その支給決定処分に対して審査請求をします。受講状況が適切でないことを理由として支給単位期間全部について不支給となった場合もその不支給決定処分に対して審査請求をします。
受給資格の否認
特定一般教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付金、教育訓練支援給付金は、原則として受講開始の1か月前までに受給資格確認の手続きをします。このとき、ハローワークが受給資格がないものと決定したときは「受給資格否認通知書」を交付します。
受給資格を否認されると、その後の手続きを拒否され給付金の支給申請をすることができないので、受給資格否認の決定は教育訓練給付を支給しない旨の教育訓練給付に関する処分に該当します。受給資格否認通知書の下部に審査請求の記載があります。
適用対象期間の延長の不承認
教育訓練給付金は、離職後1年以内に教育訓練を開始することができない事由がある場合は、適用対象期間の延長を申請することができます。このとき、ハローワークが「延長が認められる理由に当たらない」として延長措置を認めない場合には、延長申請書欄外に「不承認」の表示をするとともに申請者に対して文書でその旨を通知します。
本来なら、延長が認められなかった期間に教育訓練の受講を開始し、当該教育訓練修了後に支給申請をすると教育訓練給付金が不支給となるので、その不支給の決定に対して審査請求をするべきです。しかし、適用対象期間の延長は最大20年まで認められ長期にわたるため、延長措置の「不承認」の段階で不服を申し立てることが認められています。
当該不承認の決定の通知を受けた日の翌日から3か月以内に「教育訓練給付の適用対象期間の延長はしない」という処分を対象として審査請求をすることができます。
教育訓練支援給付金
支給決定
教育訓練支援給付金は、最初の支給単位期間について失業認定を経て教育訓練支援給付金を支給する時にはじめて「金○○円の教育訓練支援給付金を支給する」という処分がなされます(後述)。
したがって、教育訓練支援給付金受給資格者証に記載された支給日額に不服のある場合は、最初の支給単位期間についての教育訓練支援給付金の支給決定を受けた日の翌日から3か月以内に、支給金額が不服であることを理由として審査請求をします。
失業不認定
待期期間に係る失業不認定については、それ自体が「○月○日から○月○日までの間は失業と認定しない」という教育訓練支援給付金の支給に関する処分です。待期期間7日間の算定に対する不服は審査請求の対象です。
待期期間満了後の失業不認定については、当該支給単位期間について「金○○円の教育訓練支援給付金を支給する」または「○月○日から○月○日までの教育訓練支援給付金を支給しない」という処分を対象として審査請求をします。支給決定のあった金額、または支給単位期間全部について不支給とする決定に対して審査請求をします。
不正受給処分
支給停止処分
偽りその他不正の行為により教育訓練給付の支給を受け、または受けようとした者に対する支給停止処分は、「○月○日以降教育訓練給付を支給しない」という教育訓練給付の支給に関する処分に該当します。
なお、雇用保険法第60条の3第1項但書のやむを得ない理由があることを理由としても審査請求ができます。
返還命令または納付命令
返還命令は不正行為により支給を受けた教育訓練給付の返還を命ずる処分です。また、納付命令はその不正行為が特に悪質と認められるときに受給した教育訓練給付の額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命ずる処分です。いずれも教育訓練給付の支給に関する処分に該当します。
不正受給者が単独で不正行為をし、返還命令または納付命令を受けた場合は不正受給者本人が審査請求人となります。
事業主、職業紹介事業者等、募集情報等提供事業を行う者または指定教育訓練実施者による虚偽の届出、報告または証明によって不正受給をした場合、事業主等は不正受給者と連帯して返還命令または納付命令を受けます(連帯返還命令、連帯納付命令)。この命令に不服がある場合、不正受給者本人と事業主等はそれぞれ単独で審査請求をすることができます。また、共同して審査請求人となることもできます。
3.審査請求ができない例
支給要件照会の回答
教育訓練給付金支給要件照会票を提出すると、ハローワークは、受講開始予定日において支給要件を満たしているか否かを回答します。
支給要件期間が不足している(支給要件を満たしてない)ことを回答した場合、この回答は教育訓練給付に関する処分ではありません。したがって、審査請求の対象ではありません。教育訓練給付金支給要件回答書にも不服申し立ての記載はありません。
それは、教育訓練給付金支給要件回答書は、当該受講開始予定日について支給申請がなされても支給要件を満たさないであろうことを示したにすぎず、その後の支給申請手続きを拒否されるものではないからです(支給要件照会をしなくても支給申請できる)。
なお、支給要件期間は雇用保険の被保険者であった期間で算出しますが、過去の被保険者資格の得喪について不服があればそれを理由として審査請求をすることができます(後述)。
教育訓練支援給付金の支給日額の決定
教育訓練支援給付金受給資格者証には離職時賃金日額と支給日額が記載されています。
支給日額は、教育訓練支援給付金が支給される場合はその日額の教育訓練支援給付金を支給するであろうということを示したにすぎず、教育訓練支援給付金受給資格者証が交付されたときにはまだ処分は行われていません。したがって、教育訓練支援給付金受給資格者証の支給日額の記載を理由として審査請求をすることはできません。
上記のとおり、最初の支給単位期間についての教育訓練支援給付金の金額が決定されたときにはじめて審査請求をすることができます。
4.被保険者資格の得喪に不服がある場合
被保険者資格の得喪が先
支給要件期間や適用対象期間は雇用保険に加入していた期間で計算します。このように、教育訓練給付に関する処分は、本人の過去の被保険者資格の加入履歴に基づいて行われることがあります。
教育訓練給付の金額や不支給の決定についてその決定に対する不服の理由として、被保険者資格の得喪に誤りがあることを主張する場合は、教育訓練給付に関する処分について争う前に、被保険者資格の得喪の確認に関する処分の取り消しを求めて審査請求をします。
例えば、一般被保険者でなくなってから1年以内に教育訓練の受講を開始したものでないことの理由をもって不支給の決定をした場合で、不服の理由として被保険者資格の得喪の年月日が誤りであることを主張する場合は、まず被保険者資格の得喪の確認処分の取り消しを求めて審査請求をします。
前述の支給要件照会の回答についても、被保険者資格の得喪について審査請求をします。
得喪が確定している場合
確定した資格得喪を不服の理由として、教育訓練給付に関する処分についての審査請求がなされた場合は、雇用保険法第70条により審査請求却下となります。
なお、「確定」とは、審査請求を提起することのできる期間が経過し、もはや当該処分について審査請求をすることができなくなった場合、審査請求の決定や再審査請求の裁決が確定した場合、または裁判の判決が確定した場合をいいます。
雇用保険の被保険者資格の得喪について不服がある場合は、確定する前に不服申し立てをしなければなりません。
5.不正受給処分に対する不服申し立て
不正受給処分
偽りその他不正の行為により教育訓練給付の支給を受けた者がある場合には、政府は支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずること(返還命令)ができ、また、不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の2倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずること(納付命令)ができます。
指定教育訓練実施者が偽りの届出、報告又は証明をした場合は連帯して納付することを命ずることができます。(連帯返還命令、連帯納付命令)
不正受給処分も対象となる
雇用保険法第69条の規定は、返還命令、納付命令(連帯も含む)に対する不服申し立てにも適用されます。不服のある者は、雇用保険審査官に対して審査請求をします。
雇用保険法の不服申し立て(第69条)
- 第九条の規定による確認に関する処分【被保険者資格の得喪の確認】
- 失業等給付及び育児休業給付に関する処分
- 第10条の4第1項、第2項の規定による処分【不正受給】
その後の督促や滞納処分は行政不服審査法
雇用保険料の徴収、不正受給の返還命令、納付命令に対して納付を怠った場合(第10条の4第3項)の督促や滞納処分については、雇用保険法第69条が適用されません。
この場合は、行政不服審査法が適用されるので、審査請求は雇用保険審査官ではなく厚生労働大臣に対して行います。
6.審査請求に対する決定
雇用保険審査官は審査請求を受けたら審理を行い、処分の取り消し、審査請求の棄却、審査請求の却下のいずれかの決定を行います。決定は、決定書の謄本が審査請求人に送付された(到着した)時に効力が生じます。
雇用保険審査官の決定に不服がある場合には、決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内に労働保険審査会に再審査請求をすることができます。ただし、審査請求をした日の翌日から3か月を経過しても審査請求についての決定がない場合は、決定を経ないで、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます。
教育訓練給付に関する処分の取消訴訟は、審査請求の決定を経た後に、決定があったことを知った日から6か月以内に提起することができます。ただし、審査請求をした日の翌日から3か月経過しても審査請求についての決定がない場合等は、決定を経ないで、取消訴訟を提起することができます。
7.補足説明
社労士過去問
不服申し立てに関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。