教育訓練給付に関するハローワークの処分に不服がある場合は、その処分の取り消しを求めて審査請求、再審査請求、取消訴訟をすることができます。
1.不服申し立て手続の概要
教育訓練給付に関するハローワークの処分(原処分)に不服がある場合は雇用保険審査官に対して審査請求をすることができます。また、雇用保険審査官の決定に不服がある場合は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます。さらに、不服があれば国を被告とする行政訴訟(原処分の取消訴訟)を地方裁判所に提起します。
2.前置主義
処分取消しの審査請求
行政機関の行為に不服があるときは行政事件訴訟法によっていつでも行政訴訟を提起することができます。
しかし、教育訓練給付に関する処分については、最初に必ず雇用保険審査官に対して審査請求を行い、雇用保険審査官の決定を経た後でなければ行政訴訟(処分の取消しの訴え)を提起することができません。これを「前置主義」といいます。
このような審査制度が特別に設けられたのは、審査請求人が通常失業者であり、訴訟の手続きを求めるとその煩雑さと費用のために権利の行使をあきらめてしまうことがあるからです。また、雇用保険に関する処分は専門的技術的な性格を有し、かつ大量に行われるので、訴訟の前に専門の機関が迅速かつ公正に処理できるように定められています。
雇用保険審査官に対する審査請求と労働保険審査会に対する再審査請求は、「労働保険審査官及び労働保険審査会法」に基づく審査請求であり、行政不服審査法は適用されません。
不作為の審査請求
不作為の場合は前置主義ではありません。
不作為の場合とは、例えば、教育訓練給付に関する申請をしたのにハローワークが何の対応もしてくれなかったり、不服申し立ての対象となる処分をしたのに不服申立制度を教示されなかったなど、法令上、ハローワークが何らかの決定や行為をしなければならない義務があるのに無視された場合のことです。このようなことは滅多に無いです。
ハローワークが法令に基づく申請に対して、相当の期間(社会通念上申請に基づく行為をするのに必要とされる期間)内に、何らかの行為をすべきであるにもかかわらず、これをしない場合は雇用保険審査官や労働保険審査会ではなく、行政不服審査法に基づいて厚生労働大臣に対して審査請求をすることができます。
また、厚生労働大臣に対する審査請求をすることなく、行政訴訟(不作為の違法確認の訴え)を提起することもできます。
3.雇用保険審査官に対する審査請求
ハローワークが行った処分(不作為を除く)に対して不服がある場合には、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に、各都道府県労働局の雇用保険審査官に対して審査請求をします。審査請求書を郵便で提出する場合は消印日が審査請求期間内であれば良いです。
処分のあったことを知った日とは、原処分の存在を現実に知った日です。したがって、処分を記載した文書が住所に送達された場合は、通常はその文書が到着した日と考えて差し支えありませんが、当日旅行等のため不在であったような場合には後日現実にその処分の存在を知った日となります。
なお、教育訓練給付の審査請求の具体例について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
審査請求は、文書または口頭で直接雇用保険審査官に請求するほか、審査請求人の住居所を管轄するハローワークを経由してすることができます。雇用保険審査官は遠いところにいる可能性もあるのでハローワークを通じて審査請求をしたほうが良いでしょう(後述)。
審査請求に対する雇用保険審査官の決定に不服があるときは、次のいずれかを選択することができます。労働保険審査会へ再審査請求をした後で取消訴訟をすることもできます。
- 労働保険審査会へ再審査請求をする(2か月以内)
- 地方裁判所に取消訴訟を提起する(6か月以内)
4.雇用保険審査官はどこにいるのか?
雇用保険審査官とは
ハローワークで受けた処分に対して最初に不服申し立てをするのが「雇用保険審査官」です。
雇用保険審査官は各都道府県労働局に配置されることになっていて、厚生労働事務官の中から厚生労働大臣によって任命される国家公務員です。
雇用保険審査官は各都道府県労働局の職員ではありますが、審査請求について客観的に公正な判断を期するため、個々の事件については独立して権限を行使します。しかし、裁判官ではないため、法令や通達などの規定が正しいかどうかを判断する権限はありません。雇用保険審査官はこれらの規定に拘束され、ハローワークの処分が規定に違反していないかどうかを判断します。
雇用保険審査官の管轄
審査請求は、審査請求人の住所ではなく、処分を行ったハローワークを管轄する都道府県労働局の雇用保険審査官が審査を行います。雇用保険審査官は各都道府県労働局に置かれることになっていますが、47都道府県全部にいるわけではありません。
こちらの画像は、ハローワークのパンフレットに載っている「雇用保険審査官管轄一覧表」です。
分かりにくいとは思いますが、例えば、福岡市博多区にある福岡労働局の中には、福岡労働局雇用保険審査官のほかに、佐賀労働局雇用保険審査官と長崎労働局雇用保険審査官がいます。簡単に言えば、福岡担当と佐賀担当と長崎担当の3人が福岡にいるという意味です。
佐賀県内のハローワークの行った処分は「佐賀労働局雇用保険審査官」に対して審査請求をしますが、その佐賀労働局雇用保険審査官の席は福岡にあるのです。問い合わせをするときは福岡労働局に電話をかけます。
審査請求の書類を郵送する場合も福岡市博多区に送ります。住所が福岡労働局職業安定部(福岡市博多区)で、宛名が「佐賀労働局雇用保険審査官あて」となります。
雇用保険審査官管轄一覧表
- 北海道労働局=北海道
- 宮城労働局=青森、岩手、宮城
- 福島労働局=秋田、山形、福島
- 東京労働局=茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、山梨
- 神奈川労働局=神奈川、静岡
- 長野労働局=新潟、長野
- 石川労働局=富山、石川、福井
- 愛知労働局=岐阜、愛知、三重
- 京都労働局=滋賀、京都
- 大阪労働局=大阪、奈良、和歌山
- 兵庫労働局=兵庫、岡山
- 香川労働局=徳島、香川、愛媛、高知
- 福岡労働局=福岡、佐賀、長崎
- 熊本労働局=熊本、大分、宮崎、鹿児島
- 沖縄労働局=沖縄
5.審査請求の方法
審査請求は、文書または口頭でハローワークを通じて、または直接、都道府県労働局の雇用保険審査官に行います。
文書で審査請求をする場合は、労働保険審査官及び労働保険審査会法施行規則第2条に規定する審査請求書(様式第2号)に、所要の事項を記入し、審査請求人または代理人が記名押印して提出します。
審査請求書の内容
- 審査請求人の住所又は居所、氏名(審査請求人が法人であるときは住所、名称、代表者の住所又は居所、代表者の氏名)
- 代理人によって審査請求するときは代理人の住所又は居所、氏名
- 原処分を受けた者の住所又は居所、氏名又は名称
- 審査請求人が原処分を受けた者以外の者であるときは、原処分を受けた者との関係
- 原処分をした公共職業安定所又は地方運輸局の長名
- 原処分のあったことを知った年月日
- 審査請求の趣旨
- 審査請求の理由
- 原処分をした公共職業安定所又は地方運輸局の長の教示の有無、内容
- 証拠(審理のための処分を必要とするときは、処分の内容並びにその処分を申し立てる趣旨及び理由)
- 法第8条第1項に規定する期間の経過後において審査請求をする場合においては、同項ただし書に規定する正当な理由
口頭による審査請求があったときは、雇用保険審査官または職員が聴取書を作成し、年月日を記載して審査請求人に読み聞かせたうえで審査請求人と共に記名押印します。
審査請求の方法等については、ハローワーク、都道府県労働局または雇用保険審査官にお問い合わせください。
6.労働保険審査会に対する再審査請求
審査請求に対する雇用保険審査官の決定に不服があるときは、決定書の謄本が送付された日(審査請求人に到着した日)の翌日から起算して2か月以内に、労働保険審査会に再審査請求することができます。 再審査請求は文書のみであり口頭は不可です。
労働保険審査会の事務局は、東京都港区の労働委員会会館の中にあります。
なお、雇用保険審査官に対して審査請求をした日から3か月を経過しても審査決定がない場合は、審査請求を棄却したものとみなすことができるため、この場合も労働保険審査会に再審査請求をすることができます。
7.行政訴訟
審査請求に対する雇用保険審査官の決定に不服がある場合は、決定の6か月以内に、地方裁判所に行政訴訟(原処分の取消しの訴え)を提起することができます。取消しの訴えは国を被告とし、訴訟において国を代表する者は法務大臣となります。
ただし、次の3つの場合は、雇用保険審査官の決定を待たずして取消訴訟を提起することができます。
- 審査請求があった日から3か月を経過しても雇用保険審査官の決定がないとき。
- 処分により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
- その他、雇用保険審査官の決定を経ないことにつき正当な理由があるとき。
また、再審査請求に対する労働保険審査会の裁決に不服がある場合は、裁決の6か月以内に行政訴訟(原処分の取消しの訴え)を提起することができます。なお、再審査請求を行った後、労働保険審査会の裁決を待たずして取消訴訟を提起することもできます。
ただし、決定または裁決したことを知った日のいかんにかかわらず、決定または裁決のあった日から1年を経過した場合、取消訴訟を提起することができなくなります。
8.補足説明
行政不服審査制度の改正
2016年(平成28年)3月31日までにハローワークの処分があった場合、雇用保険審査官に対する審査請求は60日以内です。また、2016年(平成28年)3月31日までに雇用保険審査官の決定書謄本を受け取った場合、労働保険審査会に対する再審査請求は60日以内です。
2016年(平成28年)4月1日以降は、審査請求は3か月以内、再審査請求は2か月以内となりました。
また、行政不服審査法に基づく審査請求は「厚生労働大臣」に対する審査請求に一本化されました。
社労士過去問
不服申し立てに関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。