離職者が教育訓練給付金の支給を受けるには離職して1年以内に教育訓練を開始しなければなりませんが、離職後1年以内に教育訓練を開始できない理由がある場合は最大20年まで延長することができます。
1.適用対象期間
ハローワークが実施する教育訓練給付は雇用保険に現在加入している在職者のほか、離職して1年以内の離職者も対象となります。離職してから受講開始日までの期間のことを「適用対象期間」といいます。
原則として離職後1年超を経過すると教育訓練給付を受けることができません。
2.適用対象期間の延長
離職した日から1年以内に妊娠、出産、育児等の理由により、連続して30日以上、対象教育訓練の受講を開始することができない日がある場合には、「離職後1年以内」の適用対象期間の延長が認められます(雇用保険法施行規則101条の2の5)。
延長される日数は、当該理由により対象教育訓練の受講を開始することができない期間であり、30日以上~最大19年まで加算することができます。
したがって、適用対象期間はもともとの1年とあわせて最大20年までとなります。離職後最大20年以内に受講を開始すれば教育訓練給付を受けることができます。
3.申請方法
ハローワークにある「教育訓練給付適用対象期間延長申請書」に必要事項を記入し、引き続き30日以上教育訓練を開始することができないことの事実を証明することができる書類を添えて、本人の住居所を管轄するハローワークに提出します(雇用保険法施行規則第101条の2の5第2項)。
4.適用対象期間の延長が認められる例
ハローワークが、やむを得ない事情により連続して30日以上教育訓練を受けることができないと認めた場合には、適用対象期間の延長が認められます。単に娯楽としての長期間の旅行や、刑の執行(当該刑の執行が不当であったことが裁判上明らかとなった場合を除く)のような場合は認められません。
なお、異なる2つ以上の理由による場合も、その期間の日数を加算することができます。
妊娠
産前6週間以内に限らず、本人が妊娠のために教育訓練が受けられない旨を申し出た場合には適用対象期間の延長が認められます。家族の妊娠は含まれません。
出産
出産した場合は、出産前後の期間について適用対象期間の延長が認められます。通常は、出産予定日の6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)前の日以後出産の日の翌日から8週間を経過する日までの間です。
出産は、妊娠4か月以上の分娩とし、生産、死産、早産を問いません。出産は本人の出産に限られ、家族の出産は含まれません(家族の出産は次の「育児」に含まれます)。なお、この場合の妊娠期間は1か月=28日として計算し、1日でも過ぎたら1か月とします。したがって、「妊娠4か月以上」というのは3か月+1日、つまり85日以上(28×3+1)のことです。
例えば、離職後1年以内に出産し、出産前6週間と出産後8週間のあわせて14週間に加え、出産する6週間前より前の90日についても妊娠のため教育訓練が受けられなかったとの申し出があった場合は、適用対象期間の延長は90日+14週間となります。この場合、1年+90日+14週間以内に教育訓練の受講を開始すれば教育訓練給付を受けることができます。
育児
育児の期間中は適用対象期間の延長が認められます。この場合の育児とは18歳未満の者の育児のことです。もちろん父親も含まれます。
通常、育児と言えば自分の子を育てることですが、申請者が社会通念上やむを得ないと認められる理由により、親族にあたる18歳未満の者を預かって育児を行う場合にも、適用対象期間の延長が認められます。例えば、親が育児ができない事情がある、被災した親戚の子を預かる、といった特別な事情です。
また、特別養子縁組を成立させるための監護(「監護」とは正式に特別養子縁組の申請をする前に、里親として、養子となる予定の子を試験的に半年程度養育して様子を見る制度のことです)を行う場合についても、法律上の子と同じように適用対象期間の延長が認められます。
疾病または負傷
疾病または負傷の場合も適用対象期間の延長が認められます。なお、疾病または負傷を理由として、雇用保険法上の傷病手当の支給を受ける場合であっても、教育訓練給付とは無関係なので延長が認められます。
例えば、離職後1年以内に50日間の負傷が2回あった場合、傷病手当の支給の有無にかかわらず100日間の延長が認められます。
不妊治療
離職後1年以内に30日以上の不妊治療を行い、さらに不妊治療を継続した結果、めでたく妊娠することができ、さらに出産、育児をした場合には、不妊治療、妊娠、出産、育児の期間が連続しているので、すべて加算の対象となります。
ただし、教育訓練支援給付金については離職後4年以内に受講を開始しなければ支給されませんので注意が必要です(後述)。
親族の疾病、負傷、看護
常時、本人の介護を必要とする場合の親族の疾病、負傷もしくは老衰または障害者の看護をする場合も、ハローワークがやむを得ないと認めた場合は適用対象期間の延長が認められます。この場合の親族には、内縁の配偶者、内縁の配偶者の親、内縁の配偶者の子、親族の配偶者も含まれます。
また、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する場合、負傷または病気の子を看護する場合も含まれます(当然、育児に含まれる)。
施設への入所
本人が、知的障害者更生施設または機能回復訓練施設へ入所する期間も適用対象期間の延長が認められます。
配偶者の海外勤務
配偶者の海外勤務に本人が同行する場合も適用対象期間の延長が認められます。この場合、配偶者には内縁の配偶者も含まれます。
海外派遣、社会貢献活動
青年海外協力隊その他公的機関が行う海外技術指導等に応募し、海外に派遣される場合も適用対象期間の延長が認められます。また、派遣前の訓練(研修)を含まれます。
また、海外に限らず、青年海外協力隊その他公的機関が募集し、実費相当額を超える報酬を得ないで社会に貢献する次に掲げる活動を行う場合も含まれます。ただし、専ら親族に対する支援となる活動を除きます。
適用対象期間の延長が認められる活動
- 地震、暴風雨、噴火等により相当規模の災害が発生した被災地又はその周辺の地域における生活関連物資の配布その他の被災地を支援する活動
- 身体障害者療護施設、特別擁護老人ホームその他の主として身体上若しくは精神上の障害がある者又は負傷し、若しくは疾病にかかった者に対して必要な措置を講ずることを目的とする一定の施設における活動
- その他、身体上若しくは精神上の障害、負傷又は疾病により常態として日常生活を営むのに支障がある者の介護その他の日常生活を支援する活動
5.講座が開始されなかった場合
上記の事情により適用対象期間の延長を申請したが、その後、受講を希望する教育訓練が開始されず、受講開始できなかった場合は、さらに延長をすることができます。ただし、離職日の翌日から起算して1か月以内に適用対象期間の延長を申請し、離職日の翌日から起算して2年以内に受講開始日が到来する講座に限られます。
6.延長が認められない例
引き続き30日以上でない場合
例えば、180日の負傷があり、そのうち30日間が離職後1年以内の範囲にある場合は180日の延長となります。
しかし、離職後1年以内のうち負傷によって教育訓練を受けることができないと認められる日数が29日しかなく、残りの151日は離職後1年超を経過している場合、離職後1年間に含まれる日数が「30日以上」に該当しません。したがって適用対象期間の延長はありません。
離職後1年以内に120日間の疾病Aと180日間の負傷Bがあった場合は両方とも加算対象となります。
しかし、離職後1年以内のうち負傷Bによって教育訓練を受けることができないと認められる日数が29日しかない場合、「30日以上」ではないので負傷Bの期間はすべて延長の対象外です。したがって疾病Aの120日間だけの延長となります。
19年を超える場合
延長措置が認められるのは上限19年までです。
離職後1年以内に疾病にかかり30日以上療養し、完治するのに全部で19年8か月を要した場合、延長が認められるのは疾病期間のうちの19年のみで、残りの8か月については除外となります。この場合、離職後1年+19年=20年までに教育訓練を開始すれば給付を受けることができます。
離職前の期間
離職前の期間は対象とはなりません。
在職中に疾病にかかったため150日間療養したが完治せず離職し、その後90日間療養した場合、疾病の期間は240日間ですが、延長の対象となるのは離職後の90日間だけです。また、離職後の疾病の期間が29日以内の場合は延長されません。
7.支給要件期間の計算とは無関係
支給要件期間の計算に「転職した人についてはその間の空白期間が1年以内であれば通算することができる」というのがありますが、この「1年以内」は適用対象期間とは無関係です。
適用対象期間は、直近の離職から受講開始日まで離職し続けている場合の期間です。適用対象期間の延長が認められたとしても、その延長された期間内に再就職した場合は支給要件期間の計算に影響があります。
適用対象期間にかからわず、直近の離職から1年を超えて新たに被保険者資格を取得した場合は、支給要件期間が通算されません。そのため、支給要件期間が満たされず、支給対象でなくなる場合があることに注意しなければなりません。
8.教育訓練支援給付金は最大4年
専門実践教育訓練給付金については、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から最大20年以内(適用対象期間の延長期間内)に受講を開始すれば、「教育訓練給付対象者」となります。そして教育訓練支援給付金の支給対象となりえます。
しかし、教育訓練支援給付金については、延長された適用対象期間が4年を超える場合は受給することができないこととなっています。したがって、やむを得ない事情があっても教育訓練支援給付金は離職後最大4年までです。
9.補足説明
基本手当との違い
延長期間の違い
教育訓練給付に係る延長は最大で20年までですが、基本手当、高年齢雇用継続給付及び教育訓練支援給付金に係る延長は、最大で4年までです。
育児を理由とする場合の年齢
教育訓練給付の適用対象期間延長の場合の育児は「18歳未満の者」です。基本手当に係る受給期間、高年齢雇用継続給付の延長の場合の育児は「3歳未満の乳幼児」です。教育訓練給付と基本手当では育児の対象が異なりますので注意しましょう。
傷病手当の傷病
教育訓練給付の適用対象期間の延長の場合は傷病手当が支給された傷病または疾病も対象となります。基本手当の受給期間の延長の場合は傷病手当が支給された傷病または疾病は対象外です。
親族とは
親族とは、民法第725条に規定する親族、すなわち6親等以内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族をいいます。
社労士過去問
適用対象期間の延長に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。