教育訓練給付金は現在一般被保険者または高年齢被保険者であるか、または離職して1年以内に教育訓練の受講を開始する場合に支給されます。離職してから受講開始までの期間を適用対象期間といいます。
1.教育訓練給付と教育訓練給付対象者
教育訓練給付対象者とは、ハローワーク(厚生労働省)が実施する教育訓練給付の支給対象者のことです(雇用保険法第60条の2第1項)。「教育訓練給付対象者」であることは教育訓練給付の支給を受けるための最低条件であって、教育訓練給付対象者であるだけで給付されるわけではありません。
教育訓練給付対象者が厚生労働大臣指定の教育訓練を受け、修了した場合において、支給要件期間が原則として3年以上であるときに、教育訓練給付金が支給されます。
教育訓練給付が支給される条件について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.教育訓練給付対象者とは何か
教育訓練給付対象者でなければ教育訓練給付は支給されません。
教育訓練給付対象者は、教育訓練の受講開始日において雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者である在職者か、または雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内の離職者です。
教育訓練給付対象者
- 教育訓練の受講開始日において、一般被保険者または高年齢被保険者である場合(在職者)
- 教育訓練の受講開始日において、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内である場合(離職後1年以内)
在職者
教育訓練給付金は在職者であっても対象となります。働きながら教育訓練給付金を受け取ることができます。教育訓練の受講開始日に、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者であれば教育訓練給付の対象となります。
受講開始日が基準日なので、受講開始日に被保険者であれば教育訓練の途中に離職しても「教育訓練給付対象者」です。逆に、受講開始日に被保険者でなければ、教育訓練の途中に被保険者になったとしても対象外です。
受講開始日とは、通学制の場合は対象教育訓練の所定の開講日です。必ずしも本人の出席第1日目とは限りません。通信制の場合は受講申込み後初めて教育訓練施設が教材等を発送した日です。いずれの場合も教育訓練実施者が受講開始日として証明する日が、受講開始日となります。
雇用保険の被保険者のうち、一般被保険者または高年齢被保険者だけが対象であり、短期雇用特例被保険者と日雇労働被保険者は対象外です。
雇用保険の被保険者の種類について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
離職後1年以内の離職者
雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者であった人が、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内(離職後1年以内)に教育訓練を開始する場合も教育訓練給付の対象となります。
「教育訓練給付対象者」を考えるときの「離職」とは一般被保険者または高年齢被保険者の資格を喪失したことを意味しています。短期雇用特例被保険者と日雇労働被保険者は無関係です。
したがって、会社を退職したことによって一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった後、再就職して短期雇用特例被保険者または日雇労働被保険者になったとしても「離職」の状態が続いていることになります。
3.教育訓練給付対象者でない者
原則として一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年超を経過すると教育訓練給付の対象外となります。一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから、短期雇用特例被保険者または日雇労働被保険者になったとしても対象外です。
ただし、後述の「適用対象期間の延長」をすれば1年超でも教育訓練給付対象者となります。
4.適用対象期間とは何か
受講開始日において一般被保険者または高年齢被保険者でない離職者が、その一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から受講開始日までの期間のうち、教育訓練給付対象となりうる期間(原則1年間)のことを「適用対象期間」といいます。
簡単に言えば、直前の離職から受講開始日までの期間のことです。
在職者の場合
在職者は、適用対象期間は存在しません(一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から受講開始日までの期間が無い)し、考慮する必要もありません。
離職者の場合
一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年間(離職後1年間)が「適用対象期間」です。適用対象期間内に受講を開始している場合は教育訓練給付対象者となります。
適用対象期間(離職後1年間)を超えて受講を開始した場合は、教育訓練給付対象者となりません。
5.適用対象期間の延長
延長措置の概要
本来の適用対象期間である「一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内」に、妊娠、出産、育児等があった場合、給付対象を「離職後1年以内」だけに限るのは酷です。
このように、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内にやむを得ない事情(妊娠、出産、育児等)により、引き続き30日以上教育訓練の受講を開始することができない期間がある場合には、適用対象期間の延長が最大20年まで認められます(雇用保険法施行規則101条の2の5)。
適用対象期間の延長申請は、住居所を管轄するハローワークに「教育訓練給付適用対象期間延長申請書」を提出します。適用対象期間の延長申請の手続や、妊娠、出産、育児以外に延長が認められる例などについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
延長措置の効果
適用対象期間の延長の手続きによって延長が認められた場合、その延長期間内に受講を開始すれば「教育訓練給付対象者」となります。
教育訓練給付対象者
- 教育訓練の受講開始日において、一般被保険者または高年齢被保険者である場合(在職者)
- 教育訓練の受講開始日が、適用対象期間内またはその延長期間内である場合(離職者)
6.教育訓練支援給付金は最大4年
教育訓練支援給付金は、専門実践教育訓練給付金の受給資格者のうち一定の条件を満たす場合に支給されるものです。
専門実践教育訓練給付金については、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から最大20年以内(適用対象期間の延長期間内)に受講を開始すれば、「教育訓練給付対象者」となります。そして、「教育訓練給付対象者」が要件を満たせば、教育訓練支援給付金の支給対象となりえます。
しかし、雇用保険法施行規則附則第25条の規定により、教育訓練支援給付金については、延長された適用対象期間が4年を超える場合は受給することができないと定められています。
そのため、教育訓練支援給付金の支給を受けるには、離職後4年以内に受講を開始しなければなりません。
専門実践教育訓練給付金について適用対象期間の延長(最大20年)が認められたとしても、離職後4年を超えて受講を開始した場合は、教育訓練支援給付金の支給を受けることはできません。専門実践教育訓練給付金のみの支給となります。
7.補足説明
適用対象期間と支給要件期間
適用対象期間の延長措置と、支給要件期間の計算は無関係です。延長措置が認められたとしても支給要件の計算に影響はありません。
雇用保険法施行規則の改正
適用対象期間が最大20年まで延長可能になったのは、2018年(平成30年)1月1日の雇用保険法施行規則の改正によるものです。改正前は最大4年でした。
なお、最大20年までの延長が認められるのは、離職日の翌日の20年後が2018年(平成30年)1月1日以降になる場合、つまり、直前の離職日が1998年(平成10年)1月1日以降の場合です。
社労士過去問
教育訓練給付対象者と適用対象期間に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。