一般教育訓練の対象となっている中小企業診断士養成課程を受講して、修了認定を受けると一般教育訓練給付金が支給されます。また、中小企業診断士養成課程を含む専門実践教育訓練を修了すると専門実践教育訓練給付金が支給されます。
1.試験対策講座と養成課程の違い
中小企業診断士試験対策講座の場合
中小企業診断士になるためには中小企業診断士試験の第1次試験の合格は必須ですが、第2次試験の合格は必須ではありません。
中小企業診断士試験の受験対策を目的とする講座で、訓練期間が1年未満のものは一般教育訓練の指定の対象となります。中小企業診断士試験対策講座と教育訓練給付金の関係について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
中小企業診断士養成課程(登録養成課程)の場合
中小企業診断士試験の第1次試験に合格後、中小企業基盤整備機構(中小企業大学校)または経済産業大臣登録養成機関が実施する養成課程を修了することによって、中小企業診断士として登録を受ける要件を満たします。「養成課程」を修了すると第2次試験と15日間の実務補習(または実務従事)が免除されます。
中小企業診断士養成課程(登録養成課程)も教育訓練給付金の対象となります(後述)。
2.中小企業診断士養成課程(登録養成課程)の概要
中小企業診断士養成課程を受講するには、まず中小企業診断士第1次試験に合格し、さらに、登録養成機関独自の入学試験があります。入試は、おもに書類審査(履歴書、推薦書、小論文等)と面接審査(コミュニケーションスキル)です。
中小企業診断士養成課程は、事例に基づく演習と企業診断実習で構成されるカリキュラムです。フルタイムの通学をすれば最短で6か月、夜や週末のみの場合は修了するのに1年~2年かかります。
- 演習:コンサルティングスキル、経営戦略、創業・ベンチャー支援、企業再生、経営革新などの知識
- 実習:実際の3つの中小企業の企業診断、パソコンを使っての数値分析や図表作成、報告書作成
3.厚生労働大臣指定の講座に限られる
経済産業省と厚生労働省
中小企業診断士養成課程を実施する登録養成機関は経済産業大臣が指定しますが、教育訓練給付金の支給を受けるにはさらに厚生労働大臣の「教育訓練給付対象講座」の指定を受けた講座のみが対象となります。
そのため、希望する養成課程が厚生労働大臣指定の教育訓練に指定されているかを、申し込みをする前に確認しておく必要があります。
また、一般、特定一般、専門実践教育訓練のいずれの指定を受けるかについても各登録養成機関がどれか1つを選択して、厚生労働省に対して申請することができます(申請しないこともできます)。一般、特定一般、専門実践教育訓練の種類についても確認しておく必要があります。
ハローワークで申請すること
教育訓練給付金は講座の割引特典ではありません。また、登録養成機関から返金されるものではありません。
まず、受講申し込みをする際にはその費用を全額(100%)支払います。このとき教育訓練給付金に相当する額を差し引いて支払ってはいけません。全額支払わなければ受講することができません。そして、養成課程を修了した後で、ハローワークに行って支給申請するとその一部が給付されます(ハローワークで給付金の振込先口座を届け出る)。
4.養成課程を受講する方法と教育訓練給付金
中小企業診断士養成課程(登録養成課程)は単独で養成課程のみを受講する場合と、大学院等で修士、博士、専門職学位などの学位を取得するコースに養成課程が含まれている場合があります。受給できる教育訓練給付金の種類が異なりますので注意が必要です。
登録養成課程の種類
- 単独で登録養成課程のみを実施しているコース
- 学位の取得等のコースに登録養成課程が含まれる場合(ダブルライセンス)
養成課程のみ受講する場合
経済産業大臣登録養成機関が「中小企業診断士登録養成課程」として単独で養成課程のみを実施する場合(中小企業診断士登録養成課程のみ受講できる場合)は、中小企業診断士試験対策講座(第2次試験のみ)に代わるものとして一般教育訓練給付金の対象となります。
この場合、登録養成課程を修了することによって一般教育訓練給付金の支給を受けることができます。なお、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練給付金は対象外です。
学位の取得等に含まれる場合(ダブルライセンス)
大学院の修士課程のなかに中小企業診断士養成課程を含む場合があります(学位の取得と同時に中小企業診断士の登録資格も得られる)。大学院等において行われる高度な社会人向け教育訓練で修士または博士の学位等の取得を訓練目標とするものは一般教育訓練給付金の対象となります。
さらに、専門学校の職業実践専門課程、キャリア形成促進プログラムや大学等の職業実践力育成プログラム(BP)として文部科学大臣が認定した課程や、専門職大学院の専門職学位(MBA、MOTなどの経営修士等)の課程に含まれる場合は特定一般教育訓練または専門実践教育訓練の対象となります。
中小企業診断士の資格とMBAなどの経営学の学位を同時に取得するダブルライセンスのコースですが、教育訓練給付の対象となるのは学位の取得です(中小企業診断士の登録資格だけでは給付の対象とはならない)。そのため、登録養成課程の修了だけでなく、学位等を取得するなどしてプログラム全体を修了しなければ教育訓練給付金は支給されません。
5.教育訓練給付金の金額
一般または特定一般教育訓練の場合
登録養成課程が一般または特定一般教育訓練の指定を受けている場合、養成課程を受講して修了すると、教育訓練経費の20%(特定一般教育訓練の場合は40%)に相当する額が支給されます。
なお、キャンペーン等の特典を利用して割引を受けた場合は割引後の価格が教育訓練経費となります。また、修了試験に合格できなかった場合に受ける補講の費用や、勤務先の会社が負担した費用は対象外です。
専門実践教育訓練の場合
登録養成課程が専門実践教育訓練給付金対象講座に含まれる場合、その講座を受講することにより6か月ごとに教育訓練経費の50%に相当する額が支給されます。このときの給付金の1年間の上限は40万円までです。専門実践教育訓練給付金の対象となる教育訓練経費(1年分)が80万円を超える場合、支給される給付金は40万円(80万円×50%=40万円)となります。
また、専門実践教育訓練給付金対象講座の全課程を修了し、学位の取得等をした日の翌日から起算して1年以内に一般被保険者または高年齢被保険者として雇用された者または雇用されている者は、教育訓練経費の70%に相当する額が支給されます(追加給付)。このときの給付金の1年間の上限は56万円までです。専門実践教育訓練給付金の対象となる教育訓練経費(1年分)が80万円を超える場合、支給される給付金は56万円(80万円×70%=56万円)となります。
- 専門実践教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付制度をわかりやすく解説します
- 専門実践教育訓練給付金が70%となる条件、追加給付を受けられない例
- 専門実践教育訓練給付金の支給金額の計算方法【教育訓練経費の50%、70%】
6.教育訓練給付金の受給条件
教育訓練給付金は、労働者が一定期間雇用保険に加入し、雇用保険料を支払っている場合に給付される雇用保険給付です。まったく働いたことが無く雇用保険に加入したことが無ければ対象外です。
教育訓練給付対象者
教育訓練給付対象者とは、受講開始日の時点で、職場で勤務していて雇用保険に加入している人(在職者)または会社を1年以内に離職した離職者のことをいいます(雇用保険法第60条の2第1項)。離職後、1年超経過している場合は対象外です。
教育訓練給付対象者
- 在職者:雇用保険に加入している一般被保険者または高年齢被保険者
- 離職者:一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内
この場合の「在職」「離職」は、雇用契約の有無ではなく、雇用保険の加入で判断します。アルバイト、パート、契約社員等であっても雇用保険の被保険者であれば受給することができます。逆に、正社員であっても雇用保険に加入していなければ対象外です。
なお、離職後1年以内の「1年」は延長することができます(適用対象期間の延長)。適用対象期間の延長について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
支給要件期間と受給制限
前述の教育訓練給付対象者が支給要件期間1年以上(専門実践教育訓練の場合は2年以上)を満たしたときに教育訓練給付金が支給されます。この「支給要件期間」とは受講開始日までに雇用保険に加入していた期間のことです。転職した場合は転職前の期間も通算することができます。
- 【一般、特定一般教育訓練給付金】初めての場合は支給要件期間1年以上でよい
- 【専門実践教育訓練給付金】初めての場合は支給要件期間2年以上でよい
- 教育訓練給付の支給要件期間の詳細な計算方法と具体例、転職した場合の例
なお、過去に教育訓練給付金の支給を受けたことがある場合は、その教育訓練の受講開始日以降の支給要件期間が3年以上で、かつ支給決定日から3年経過している必要があります。なお、雇用保険の基本手当や傷病手当の支給を受けていても無関係です。
登録養成機関には分からない
教育訓練給付対象者で支給要件期間を満たしている人でなければ、教育訓練を申し込んではいけません。
ところで、雇用保険の加入手続きは事業主がハローワークで行うため、雇用保険の加入実績はハローワークしか把握していません。登録養成機関(登録養成機関)側では申し込みをしようとしている人が本当に受給資格者かどうかを判断することができません。また、個人情報であるため登録養成機関からハローワークに問い合わせすることもできません。
そのため、実際には、受給資格が無いにもかかわらず、教育訓練給付対象の養成課程を申し込むことは可能です。しかし、それを受講しても教育訓練給付金の支給を受けることができません。この場合、講習料金は全額自己負担になります。
事前の受給資格確認
特定一般教育訓練または専門実践教育訓練を受講するには、受講開始日の1か月前までにハローワークでキャリアコンサルティングを受けるとともに、ハローワークの職員が受給資格の確認を行う事前の手続きをしなければなりません(一般教育訓練の場合は不要)。これを怠ると給付金は1円も支給されません。
受給資格確認について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
7.受講から給付金申請までの流れ
養成課程を探す
厚生労働大臣の指定を受けた養成課程を検索するには、厚生労働省の指定教育訓練講座検索システムを使います。支給申請には各講座の「指定番号」が必要です。
支給要件照会
教育訓練給付金が支給されるかどうかはハローワークにしか分からないのですから、念のためハローワークに行ってその確認(支給要件照会)をしておきましょう。
支給要件照会は必須の手続きではありませんが、事前に行っておくことをおすすめします。このとき、受講する予定の養成課程が厚生労働大臣の有効な指定を受けた講座かどうかも調べてくれますから、検索システムでその養成課程「指定番号」も調べておくとよいでしょう。
支給要件照会で確認できること
- 自分が受給資格があるか
- 希望する養成課程が厚生労働大臣の指定を受けているか
- その教育訓練が「一般」か「特定一般」か「専門実践」か
受給資格確認
前述のとおり、特定一般教育訓練または専門実践教育訓練の場合、受講開始の1か月前までにジョブ・カードの作成、訓練前キャリアコンサルティング、受給資格確認の手続きを済ませておく必要があります。
申し込み、講習費用の支払い
教育訓練給付金の制度を利用することを伝えて、教育訓練給付対象の講座を申し込みます。申し込み時には講習費用を全額(100%)支払います。教育訓練給付金は修了を認定された場合に、ハローワークから支給されるものですから、申し込み時に給付金相当額を差し引いて申し込んではいけません。
申し込みは本人名義で申し込みをし、講習費用のうち少なくとも教育訓練経費については全額本人名義で支払いをしなければなりません。本人名義でない申し込みや、本人名義でない支払いは不可です。家族や勤務先の名義は不可です。クレジットカード払いの場合は本人名義のカード、銀行振り込みの場合は本人名義の振り込み、ローンを組む場合も本人がローン契約をしなければなりません。
受講、修了認定
所定の出席率を満たすとともに実習の評価が所定の基準に達したと認められ、登録養成機関に「修了」を認定されると「教育訓練修了証明書」と「領収書」が交付されます(これらはハローワークに提出する書類です)。修了できなかった場合は給付金が支給されません。また、支払った授業料は返還されません。
修了後に「教育訓練給付指定講座修了者アンケート」へ回答します。このアンケートは集計して登録養成機関が厚生労働省へ報告することが義務付けられています。
支給申請
教育訓練給付金の支給申請手続きは、修了後1か月以内に本人の住所を管轄するハローワークに「支給申請書」を提出することによって行います。ただし、専門実践教育訓練で訓練期間が6か月を超える場合は、最初の支給単位期間6か月の末日の翌月から1か月以内に支給申請書を提出します。
支給申請書には登録養成機関が発行した「教育訓練修了証明書」「領収書」を添付します。支給決定7日以内にハローワークから指定の口座に給付金が振り込まれます。
8.補足説明
専門実践教育訓練に関する補足
専門実践教育訓練を修了した日の翌日から起算して1年以内に一般被保険者または高年齢被保険者として雇用された者または雇用されている者は、専門実践教育訓練給付金が教育訓練経費の70%となり、計算しなおしてその残額(20%に相当する額)が支給されます。なお、雇用されていることについては事業主の証明が必要です。
教育訓練支援給付金は、離職中の人が専門実践教育訓練を受ける場合に支給されます。ただし、昼間の通学制の場合に限られ、通信制や夜間の講座は対象外です。
養成課程と登録養成課程の違い
正確には、中小企業診断士養成課程のうち、中小企業大学校(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が実施するものを「養成課程」、その他の登録養成機関が実施するものを「登録養成課程」といいます。内容は同じです。
なお、中小企業大学校の養成課程は教育訓練給付金の対象外です。
- 養成課程:中小企業大学校が実施する課程(教育訓練給付対象外)
- 登録養成課程:中小企業大学校以外の登録養成機関が実施する課程