中小企業診断士は中小企業向けの経営コンサルタントであり、経営者の相談を受け、中小企業の経営課題に対応するための適切な経営の診断と経営に関する助言を行う専門家です。不動産関係では必須となる資格で、教育訓練制度が適用される公的職業資格です。
1.中小企業診断士について
中小企業診断士(Registered Management Consultant)は、中小企業に対して適切な経営の診断及び経営に関する助言を行うコンサルティングの資格です。中小企業の経営者が中小企業向けの経営コンサルタントを探すのを容易にするため、国家資格として登録するための制度です。
中小企業は労働条件や生産性などの面で大企業と比べて競争力が弱く、経営の問題が多く生じるため、行政による中小企業支援施策の実施を助けることを目的として、1948年(昭和23年)に「中小企業診断士」の制度が始まりました。
中小企業の経営者からの依頼に応じて経営内容を診断し、改善方法を提案するだけでなく、行政による中小企業支援施策の活用をアドバイスすることにより中小企業を支援します。金融機関の融資を受ける際に中小企業診断士の経営診断を義務付けている場合もあります。
中小企業診断士の主な業務
- 経営コンサルティング、診断報告書の作成
- 経営改善計画書と経営診断書の作成
- 講演、窓口経営相談、創業支援
2.中小企業診断士の登録要件
国家資格
中小企業診断士は、中小企業の経営診断の業務に従事する者で、一定の水準以上の知識を有すると認められ、経済産業大臣の登録を受けた者のことをいい、中小企業支援法で定められた国家資格の一つです。
中小企業診断士の登録
中小企業診断士としての登録を受けるためには、まず、中小企業診断士試験の第1次試験(マークシート方式)に合格することが必要です。
その後、第2次試験(筆記・口述)に合格するかまたはそれに代わる中小企業診断士養成課程を修了することで中小企業診断士としての登録を受けることができます。
中小企業診断士の登録要件
- 1次試験+2次試験合格後、3年以内に実務従事要件を満たすか、実務補習を修了
- 1次試験に合格した年度とその翌年度に中小企業診断士養成課程修了
なお、中小企業診断士の有効期間は5年間で、更新するには更新研修や論文審査など一定の要件を満たす必要があります。
3.中小企業診断士試験の概要
試験実施機関(経済産業大臣指定試験機関)
中小企業診断士試験は、中小企業支援法第12条の規定に基づき国(経済産業省)が実施する国家試験であり、試験事務は経済産業大臣指定試験機関である一般社団法人中小企業診断協会が実施しています。受験資格は特にありません。年齢、学歴等に関係なく、誰でも受験できます。
第1次試験
中小企業診断士試験の第1次試験は、中小企業診断士になるのに必要な学識を有しているかどうかを判定することを目的として、企業経営に関する7科目について、筆記試験(多肢選択式、マークシート方式)を行います。全国10地区(札幌、仙台、東京、名古屋、金沢、大阪、広島、四国、福岡、那覇)で、8月上旬の土日2日間にわたって行われます。
第1次試験の出題科目
- 経済学・経済政策:60分
- 財務・会計:60分
- 企業経営理論:90分
- 運営管理(オペレーション・マネジメント):90分
- 経営法務:60分
- 経営情報システム:60分
- 中小企業経営・中小企業政策:90分
各科目100点満点、合計700点満点で、すべての科目で40%以上の得点が必要で、かつ合計の60%以上の得点率で第1次試験合格となります。合計で60%以上を取っていても、1科目でも40点未満があると不合格です。
第1次試験の合格基準
- すべての科目で40%以上の得点率(40点以上)
- 合計で60%以上の得点率(420点以上)
ただし、60%以上(60点以上)の得点率であった科目については「科目合格」として、翌年度と翌々年度の第1次試験を受験する際、申請すれば当該科目が免除されます。免除された場合、残りのすべての科目で40%以上で、かつ残りの科目の合計の60%以上の得点率で第1次試験合格となります。科目合格の有効期間は3年間なので、3年以内に7科目合格すれば第1次試験合格となります。
第1次試験の合格基準(科目合格による免除の場合)
- 残りのすべての科目で40%以上(40点以上)
- 残りの科目の合計が60%以上(60点×科目数以上)
第2次試験
中小企業診断士試験の第2次試験は、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を有するかどうかを判定することを目的とし、前年度と当年度の第1次試験合格者が受験することができます。10月に4科目の筆記試験(各80分、論述式)が行われ、筆記試験合格者に対して12月に面接形式の口述試験が行われます。
第2次試験(筆記試験)の出題科目
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例I(組織・人事):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例II(マーケティング・流通):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例III(生産・技術):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例IV(財務・会計):80分
第2次試験(筆記試験)はすべての科目で40%以上の得点が必要で、かつ合計の60%以上の得点率で合格となります。1科目でも40%未満があると不合格です。口述試験は評定が60%以上であれば合格です。
4.中小企業診断士「試験対策講座」と教育訓練給付制度
一般教育訓練の対象となる
教育訓練給付金は、厚生労働省の指定基準に従って、「厚生労働大臣が教育訓練給付対象講座として指定した講座」を修了した場合に支給されます(雇用保険法第60条の2)。
厚生労働大臣が指定する教育訓練には、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3種類があり、国家資格(公的職業資格)の取得を訓練目標とする講座で、かつ、訓練期間が1年未満の講座は一般教育訓練の対象となります。
前述のとおり、中小企業診断士になるためには中小企業診断士試験の第1次試験の合格は必須ですが、第2次試験の合格は必須ではありません。そのため、「中小企業診断士試験対策講座」も第1次試験・第2次試験の両方に合格するための講座のほか、それぞれの試験の対策講座もあります。訓練期間が1年未満であればいずれも一般教育訓練の指定の対象となります。
中小企業診断士試験対策講座(一般教育訓練指定対象)
- 中小企業診断士試験(1次・2次総合)
- 中小企業診断士試験(第1次試験のみ)
- 中小企業診断士試験(第2次試験のみ)
試験に合格しなくても教育訓練給付金はもらえる
教育訓練給付金は、「厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合」に支給されます。この場合の「修了」とは、教育訓練給付対象講座の指定を受けている中小企業診断士試験対策講座を適切に受講して、教育訓練施設が独自に定める修了認定基準(修了試験やレポートなど)によって修了が認定されることをいいます。
中小企業診断士試験対策講座を途中でやめた場合は支給対象外ですが、対策講座を修了すれば教育訓練給付金の支給を申請することができます(修了した時点で支給を受ける権利が発生する)。
その後の中小企業診断士試験に合格しなくてもかまいませんし、合格したかどうかをハローワークに報告する義務もありません。また、不合格だったからといって給付金を返還しなくてもよいですし、受験しなかったとしても給付金の支給を受ける権利はあります。
教育訓練給付金の支給とは無関係(支給を受けられます)
- 中小企業診断士試験(1次または2次)に合格しなかった
- 中小企業診断士試験を受験しなかった
- 中小企業診断士としての登録をしなかった
- 中小企業診断士試験を受験する前に申請するのもOK
- 中小企業診断士試験の合格発表の前に申請するのもOK
教育訓練給付金の受給資格と支給申請手続き
中小企業診断士試験対策講座について、教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
特定一般教育訓練、専門実践教育訓練は対象外
中小企業診断士は国家資格ではありますが、法律上は名称独占資格(資格がなければ名称を使用してはならない)とする規定はありません。教育訓練制度において、業務独占資格、名称独占資格、必置資格のいずれにも該当しないとされているため、特定一般教育訓練の対象とはなりません。
- 業務独占資格:法令の規定により当該資格を有しない者による当該資格に係る業務への従事が禁止されている資格
- 名称独占資格:法令の規定により当該資格を有しない者の当該資格の名称の使用が禁止されている資格
- 必置資格:業務独占資格及び名称独占資格以外のものであって、法令の規定により当該資格を有する者を業務のために使用される場所等に配置することが義務付けられている資格
また、国家試験等の受験対策のみを目的とした教育訓練については、専門実践教育訓練の対象とはなりません。
5.中小企業診断士「養成課程」と教育訓練給付制度
中小企業診断士養成課程の概要
中小企業診断士試験の第2次試験を受験しなくても、中小企業診断士「養成課程」を修了することによって中小企業診断士になることができます。「養成課程」を修了すると第2次試験と15日間の実務補習(または実務従事)が免除されます。なお、中小企業診断士第1次試験に合格しなければ養成課程を受講することはできません(受講資格が無い)。
中小企業診断士養成課程は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小企業大学校)または経済産業大臣登録養成機関が実施します。
中小企業診断士養成課程(登録養成課程)について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://kyoikukunren.jp/a/7209
一般、特定一般、専門実践教育訓練の対象となる
中小企業診断士養成課程は、前述の「中小企業診断士試験対策講座(第2次試験のみ)」に代わるものとして一般教育訓練給付金の対象となります。
また、大学院の修士課程のなかに中小企業診断士養成課程を含む場合があります(学位の取得と同時に中小企業診断士の登録資格も得られる)。大学院等において行われる高度な社会人向け教育訓練で修士または博士の学位等の取得を訓練目標とするものは一般教育訓練給付金の対象となります。
さらに、中小企業診断士養成課程は単独では特定一般教育訓練または専門実践教育訓練の対象となりませんが、専門学校の職業実践専門課程、キャリア形成促進プログラムや大学等の職業実践力育成プログラム(BP)として文部科学大臣が認定した課程や、専門職大学院の専門職学位課程に含まれる場合は特定一般教育訓練または専門実践教育訓練の対象となります。ただし、この場合は登録養成課程の修了だけでなく、学位等を取得するなどしてプログラム全体を修了しなければ教育訓練給付金は支給されません。
6.厚生労働大臣の指定を受けた講座に限られる
厚生労働大臣指定講座
中小企業診断士試験対策講座または中小企業診断士養成課程がすべて教育訓練給付制度の対象となるわけではありません。
教育訓練給付金は、「厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合」に支給されます。中小企業診断士試験対策講座または中小企業診断士養成課程であっても、厚生労働大臣の「教育訓練給付金対象講座」の指定を受けていなければ、教育訓練給付制度の対象とはなりません。
また、教育訓練給付金を受給できるのは「最初に教育訓練給付制度を利用することを申し出て、講習を申し込んだ人」だけです。それ以外の人はすべて給付の対象外です。
禁止されていること
- 講習の途中に教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
- 卒業した後で教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
教育訓練施設が申請したものに限られる
厚生労働大臣の「教育訓練給付金対象講座」の指定を受けるには、教育訓練施設はあらかじめ厚生労働省に対して教育訓練給付対象講座の指定を申請し、厚生労働大臣から「講座指定通知書」の交付を受けなければなりません。
中小企業診断士試験対策講座または中小企業診断士養成課程は、教育訓練給付金の対象ではありますが、教育訓練施設が厚生労働省にその申請をしていなければ教育訓練給付金の対象とはなりません。
教育訓練を探す方法
教育訓練給付対象講座の指定を受けている中小企業診断士試験対策講座または中小企業診断士養成課程は、厚生労働省の「厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム」で検索することができます。
2023年(令和5年)4月1日現在で、中小企業診断士を訓練目標とする教育訓練を実施している教育訓練施設は次のとおりです。第1次試験のみ、第2次試験のみの対策講座や中小企業診断士養成課程も含まれていますのでご注意ください。なお、この一覧表は当サイトが研究および分析のために独自に取得したデータであり、内容は一切保証しません。
7.補足説明
中小企業診断士実務補習
中小企業診断士第2次試験合格者が中小企業診断士として登録を受けるには、「診断・助言業務の実務に従事すること」または「15日以上の実務補習の修了」が必要です(養成課程修了者は不要)。
- 実務補習:中小企業基盤整備機構、都道府県等中小企業支援センター、登録実務補習機関による15日間の実務補習
- 実務従事:国、都道府県、中小企業基盤整備機構等が行う診断・助言業務や窓口相談などの業務
実務補習は、指導員の指導のもと、受講者6名以内のグループワークにより、実際の企業に対して経営コンサルティング(現場診断と調査)を実施します。そして資料分析、診断報告書の作成、報告会を行います。ちなみに、実務補習は教育訓練給付制度の対象外です。
必要なスキル
中小企業診断士は経済産業省の登録を受けることで業務をすることが可能ですが、実際には資格を取得しただけで業務を行うことは不可能です。
中小企業に対して経営コンサルティングを行いますから、少なくとも数年間の就業経験がなければ説得力がありません。また、経営にかかわる資料を分析するだけでなく、経営者に対して診断結果を分かりやすく報告します。そのため、経理、会計の知識のほか、パソコンの文書作成、表計算、プレゼンテーションの各ソフトを使いこなせる必要があります。