雇用保険の被保険者のうち「短期雇用特例被保険者」は教育訓練給付の対象とはなりませんが、教育訓練給付の支給要件である支給要件期間には短期雇用特例被保険者であった期間も含まれます。
1.雇用保険の短期雇用特例被保険者
短期雇用特例被保険者は、雇用保険法の被保険者のうちの一つです。
短期雇用特例被保険者は、雇用保険の被保険者であって、季節的に雇用される労働者のうち、次の3つに該当しない者をいいます。単に「特例被保険者」ということもあります。
なお、雇用された時の年齢を問いません。短期雇用特例被保険者が65歳に達しても労働条件が変わらない限り短期雇用特例被保険者のままです。
短期雇用特例被保険者に該当しない
- 4か月以内の期間を定めて雇用される者
- 1週間の所定労働時間が30時間未満の者
- 日雇労働被保険者
2.短期雇用特例被保険者と教育訓練給付
教育訓練給付対象者に含まれない
教育訓練給付対象者は、現在雇用保険に加入している一般被保険者または高年齢被保険者である在職者と、一般被保険者または高年齢被保険者であった離職者に限られます。短期雇用特例被保険者は、教育訓練給付対象者に含まれません(雇用保険法60条の2第1項)。
現在、短期雇用特例被保険者であっても(または短期雇用特例被保険者であった期間があったとしても)、教育訓練の受講開始日の1年前までに一般被保険者または高年齢被保険者であった場合は教育訓練給付の対象となります。
支給要件期間に含まれる
教育訓練給付金の支給を受けるための要件である「支給要件期間」には、短期雇用特例被保険者であった期間も含まれます。
3.短期雇用特例被保険者となる条件
季節的に雇用されること
「季節的に雇用される者」とは
「季節的に雇用される者」とは、季節的業務に期間を定めて雇用される者または季節的に入離職する者をいいます。季節的業務とは、その業務が季節、天候その他自然現象の影響によって一定の時季に偏して行われるものをいいます。
季節的に雇用される者
- 季節的業務に期間を定めて雇用される者
- 季節的に入離職する者
なお、「季節的業務に期間を定めて雇用される者」と「季節的に入離職する者」のいずれに属するかを厳格に区別する必要はなく、雇用期間が1年未満であるかどうか、および、季節の影響を強く受けるかどうかで判断します。期間を定めないで雇用された場合であっても、季節の影響を受けることにより雇用された日から1年未満の間に離職することが明らかである者は「季節的に雇用される者」に該当します。
1年以上継続して雇用した場合は「季節的」とは言えません(後述)。
雇用期間を定めた理由が季節の影響によるものであれば季節的業務と言えます。業種自体に季節性のないものについては、地域性(例えば、積雪寒冷地であるかどうか。)または職種を考慮して、季節的業務に該当するかどうかを判断します。
船員の場合
漁船に乗り組むために雇用されている船員は「季節的に雇用される者」ではありません。年間稼働か否かにかかわらず、漁船の船員は短期雇用特例被保険者になりません。
漁船の船員
- 一般に、漁船は年間稼働でないため、原則として雇用保険法の対象外です(雇用保険法第6条第5号)。
- 特定漁船の船員は、特定漁船の労働の実態が年間稼働とみなされるため適用されるものであり、「季節的に雇用される者」ではありません。
- 特定漁船以外の漁船の船員も、1年を通じて船員として雇用される場合のみ適用されるものであることから「季節的に雇用される者」ではありません。
漁船以外の船舶に乗り組む船員については、特定の時季にしか航行できない海域である、特定の時季にしか操業できない等当該航行に季節性があるかどうかを判断します。
ただし、予備船員制度がある場合は、雇止め(雇入契約の終了)によって直ちに離職することとはならないので、雇入契約自体に季節性があったとしても「季節的に雇用される者」とは認められません。詳しくは次の記事をご覧ください。
4か月を超えて雇用されること
雇用開始時から被保険者になる場合
季節的に雇用される者で、雇用期間が4か月以内なら適用除外(被保険者にならない)、雇用期間が4か月を超えたら短期雇用特例被保険者となります。4か月を超える雇用期間で適用事業に雇用された者は、原則として、雇用関係に入った最初の日から被保険者資格を取得します。
期間を定めないで雇用された者であっても、季節の影響を受けることにより、雇用された日から1年未満の間に離職することが明らかな場合は「季節的に雇用される者」に該当し、雇用開始時から被保険者になります。
ちなみに、「4か月以内の期間を定めて雇用される者」が除外されるのは、制定当時、農閑期において出稼ぎに出る農業労働等は、別に農業という本職があり、季節が過ぎて事業主から離職しても、何ら失業者となる危険がないと考えられたからです。
延長によって被保険者になる場合
季節的に雇用される者が、当初4か月以内の期間を定めて雇用されていた(適用除外)が、その定められた期間を超えて引き続き同一の事業主に雇用され、通算して4か月を超えた場合は、その定められた期間(当初の雇用期間)を超えた日から被保険者資格を取得します。当初4か月を超える予定でなかったのに4か月を超えるに至った場合も同じです。
4か月以内の契約で雇用されていた(X)が、引き続き同一の事業主に雇用され(Y)、XとYを合算して4か月を超えた場合、当初定められた期間であるXを超えた日(Yの初日)から被保険者資格を取得します。4か月を超えた日ではないことに注意します。また、雇用開始にさかのぼって被保険者となるものではないことに注意します。
当初定められた期間を超えて、同一の事業主に延長の雇用契約をした場合、当初の雇用開始から通算して4か月を超える予定であれば、延長期間の初日から被保険者資格を取得します。
例えば、3か月契約で雇用された者が引き続き3か月契約で雇用される場合は、4か月目の初日から被保険者資格を取得します(実際に4か月を超えるのは5か月目以降ですが、延長の契約の時点で4か月を超えるのは明らかなので、延長の契約の初日に被保険者資格を取得する)。
ただし、当初定められた期間を超えて引き続き雇用される場合であっても、通算して4か月を超えないことが明らかな場合には、被保険者資格を取得しません(適用除外)。
1週間の所定労働時間が30時間以上
1週間の所定労働時間が20時間未満である場合は、季節的でなくても雇用保険の適用除外です(雇用保険法第6条第1号)。季節的に雇用される者については、1週間の所定労働時間が30時間未満である者は、適用除外となります。30時間以上であれば短期雇用特例被保険者となります。
ただし、当該者が同一の事業主に引き続いて1年以上雇用されるに至った場合(後述)において、当該1年以上となるに至った日において1週間の所定労働時間が20時間以上である場合には同日から、また、同日後に1週間の所定労働時間が20時間以上となったときには、その日から一般被保険者または高年齢被保険者となります。
なお、所定労働時間の計算についてはこちらの記事をご覧ください。
4.同一の事業主に1年以上雇用された場合
短期雇用特例被保険者として雇用された労働者が、同一の事業主に引き続いて1年以上雇用されたときは「季節的」とは言えないので短期雇用特例被保険者でなくなります。
一般被保険者、高年齢被保険者に切り替わる
短期雇用特例被保険者が同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上となるに至ったときは、1年以上雇用されるに至った日以後は、65歳未満であれば一般被保険者、65歳以上の場合には高年齢被保険者となります。雇用開始にさかのぼって切り替えるのではなく、1年経過した日以降に切り替えとなります。
一般被保険者または高年齢被保険者への切替えは、同一の事業主に引き続いて雇用された期間が1年以上となることにより当然に行われるものであり、ハローワークでの事務手続きは不要です。
ただし、当該1年以上となるに至った日において1週間の所定労働時間が20時間未満である場合には、その後、1週間の所定労働時間が20時間以上となった日から一般被保険者または高年齢被保険者となります。
1年以上雇用されるに至った日
同一の事業主に引き続いて「1年以上雇用される」とは、被保険者資格の取得の日から起算して1年以上雇用されることをいい、翌年における取得日に対応する日の「前日」まで雇用されている場合はこれに該当します。例えば、4月1日から翌年3月31日(当日離職した場合を含む。)まで雇用される場合は「1年以上雇用される」に該当します。
「1年以上雇用されるに至った日」とは、ちょうど1年間雇用したことになる日、つまり被保険者資格の取得日に対応する1年後の日の「前日」のことです。
例えば、4月1日に就職した短期雇用特例被保険者は、翌年3月30日(応当日の前々日)までが短期雇用特例被保険者です。翌年3月31日(応当日の前日)も引き続き雇用されていればちょうど1年間雇用したことになるので、翌年3月31日に一般被保険者または高年齢被保険者に切り替わります。4月1日に切り替わるわけではありません。
ただし、雇用保険法第39条第1項の規定により受給要件の緩和が認められる期間があった場合は、受給要件の緩和理由によって賃金の支払を受けることができなかった期間を除いた雇用期間が1年以上となった日以後に一般被保険者または高年齢被保険者となります。
5.入離職を繰り返している場合
同一事業所に継続して雇用されることが十分に可能であるにもかかわらず、雇用を区切って極めて短期間の離職期間で入離職を繰り返し、その都度特例一時金を受給しているような労働者については、これを短期雇用特例被保険者とすることは、制度の趣旨からみて適当ではありません。
原則3回目から切り替え
同一事業所に2回連続して1年未満の雇用期間で雇用され、それぞれの雇用に係る離職の日の翌日から起算して次の雇用に入った日の前日までの期間(以下「離職期間」という。)がいずれも30日未満であり、その都度特例一時金を受給しており、かつ、3回目も同一事業所に1年未満の雇用期間で雇用された者については、原則として3回目から一般被保険者または高年齢被保険者となります。
4回目以降について
3回目で一般被保険者または高年齢被保険者とされた者については、4回目以降も労働者側には期間を限って雇用される事情が新たに発生するとは通常考えられないため、「季節的に雇用される者」に該当せず、一般被保険者または高年齢被保険者となります。
ただし、一般被保険者または高年齢被保険者とされた後に、労働者の生活実態等が変化したことにより、新たに季節的業務に期間を定めて雇用される場合や季節的に入離職する者に明らかに該当するようになった場合など、特段の事情があると認められる者については短期雇用特例被保険者となります。
例えば、ほぼ通年にわたり出稼ぎをしていた者(一般被保険者または高年齢被保険者)が、新たに農業に従事せざるを得ない事情が生じたため冬季のみ出稼ぎをすることとなった場合は短期雇用特例被保険者となります。
6.短期雇用特例被保険者の確認
被保険者が短期雇用特例被保険者に該当するかどうかの確認は厚生労働大臣が行うことになっていますが、この権限は都道府県労働局長、公共職業安定所長に委任されており、実際には、当該被保険者を雇用する適用事業の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長が行うこととされています(雇用保険法施行規則第1条)。
通常、公共職業安定所長が被保険者となったことの確認を行った際に同時に短期雇用特例被保険者に該当するかどうかの確認も行います。また、被保険者の申出または職権による調査により、短期雇用特例被保険者に該当することを公共職業安定所長が知った際に行うこともあります。
公共職業安定所長は、当該被保険者が短期雇用特例被保険者に該当することを確認したときは、事業主及び被保険者に対してその旨の通知を行います。
7.補足説明
社労士過去問
短期雇用特例被保険者の定義に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。