船員も労働者なので原則として雇用保険に加入します。ただし、漁船によっては1年のうち一定期間就労しないことを前提とした賃金水準となっていることから雇用保険法が適用されない場合があります。
1.船員について
船員と雇用保険
雇用保険法上の船員とは、船員法第1条に規定する船員(小型の船舶を除く)のことですが、原則として船員でない労働者と同様の取扱いとなります。船員は雇用保険の被保険者となります。
船員保険との関係
船員法第1条に規定する船員(予備船員を含む)は、原則として船員保険の被保険者です。
船員保険法が制定された当初は、この船員保険で、船員労働の特殊性を考慮した社会保障全般をカバーしていたため雇用保険の適用除外とされていましたが、その後、法律が改正され、厚生年金、労災、雇用保険の機能はそれぞれ厚生年金法、労災法、雇用保険法に吸収されました。現在では、船員保険特有の給付のみ引き続き船員保険から給付されています。
そのため、船員保険の被保険者であっても、雇用保険法の適用を受ける船員は雇用保険にも加入することとなります。
なお、2010年(平成22年)に船員保険の失業部門が雇用保険に統合される前の旧船員保険に加入していた場合の支給要件期間の計算について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.漁船に乗り組む船員
海運会社などの商船の場合は被保険者となりますが、漁船の場合は被保険者とはなりません。
漁船は原則適用除外
漁船のなかには年間稼働ではない漁船があります。そのような漁船に乗り組む船員については、1年のうち一定期間就労しないことを前提とした賃金水準となっている場合があります。
そのため、漁船に乗り組むために雇用されている船員については原則として雇用保険法は適用除外であり、被保険者とはなりません(雇用保険法第6条第5号)。
1年を通じて雇用される場合は適用
漁船に乗り組む船員であっても、年間を通して稼働する漁船に乗り組む船員として1年を通じて雇用される場合は被保険者となります。ちなみに、「1年を通じて」とは雇用期間を表しているのではなく、年間稼働の漁船に乗り組むことを前提とした船員(季節に関係なく1年を通じて稼働する漁船の適用事業に雇用される)という意味です。契約上の雇用期間は1年未満でも良いです。
特定漁船は適用
漁船のうち、雇用保険法施行令第2条に規定する特定漁船(時季に関係なく稼働している特殊な漁船)については、船員の労働の実態が年間稼働とみなされます。そのため、特定漁船に乗り組むために雇用されている船員については、雇用保険法が適用されます。
特定漁船(雇用保険法施行令第2条)
- 雇用保険法施行規則第3条の3で定める漁業(以西底びき網漁業、遠洋底びき網漁業、基地式捕鯨業、母船式捕鯨業)に従事する漁船
- 専ら漁猟場から漁獲物又はその加製品を運搬する業務に従事する漁船
- 漁業に関する試験、調査、指導、練習又は取締業務に従事する漁船
時季に関係なく年間を通じて稼働する船員が適用対象となります。したがって、船員は、雇用保険法上の「季節的に雇用される者」とはなりません。
強制適用事業
船員を雇用する事業は、農林水産業の事業か否かを問わず強制適用事業となります(雇用保険法附則第2条、雇用保険法施行令附則第2条)。ただし、前述の適用除外の船員のみを雇用する場合は適用事業ではありません。
3.船籍と航行領域
船籍は無関係
日本法人が支配する外国船籍の船舶に乗り組む日本人船員は、日本法人と雇用関係にあるので被保険者となります。船籍(船舶の国籍)は無関係です。
また、船員職業安定法により外国船舶に派遣される派遣船員で予備船員とみなされる船員も雇用保険の適用対象となります。
事業主である日本法人が日本船籍の船舶を所有し、外国法人にその船舶を貸し出している場合(いわゆるマルシップ)であっても、日本人船員が乗り組む場合は船員法で規定する船員にあたります。船員の事業主(船舶所有者)が日本法人であれば雇用保険の対象となります。事業主(船舶所有者)が外国法人の場合は適用対象外です。
航行領域も無関係
適用事業に雇用される船員は、乗船している船舶の航行する領域に関わりなく(日本国の領海内か否かを問わない)、雇用保険の被保険者となります。
4.船員と船員以外の労働者
船員について雇用保険を適用する場合は、船員の雇用主である船舶所有者(または船舶の管理者)が事業主となります。船員を雇用する事業は、それ自体を独立した事業として取り扱います。
したがって、1つの事業所において、船員と船員でない労働者が混在して被保険者とすることはできません。同じ事業主との雇用契約の下、船員と船員でない労働者との雇用管理が1つの施設内で行われている場合であっても、適用事業所としてはそれぞれ別々に設置し(便宜上、事業所を2つに分ける)、船員を雇用する事業を独立した事業としなければなりません。
5.雇入契約、雇用契約、予備船員制度
船員の雇用関係については、船員法上、船員と使用者間で結ばれる労働契約には、雇入(やといいれ)契約と雇用契約の2つが存在します。雇入契約は船舶に乗るたびに結ぶ契約で、雇用契約は船舶に乗らない期間も含めて包括的に結ぶ契約のことです。
雇入契約と雇用契約
- 雇入契約(乗船契約):特定の船舶に乗船することを前提として、一航海ごとに船舶の航行区域、航行期間、航行中の職務等の労働条件に関して締結する契約
- 雇用契約(包括契約):船舶に乗り組むために雇用されているものの船内で勤務していない予備船員の期間も含む包括的な契約
包括的な雇用契約を結ぶ場合と結ばない場合が有ります。
包括的な雇用契約を結ぶ場合
予備船員制度とは、まず、船舶を特定せずに船員の継続的雇用を前提として雇用契約を締結し、その後、事業主の乗船命令によって雇入契約を締結して特定の船舶に乗り組むという雇用形態のことです。乗船していない自宅待機の期間が「予備船員」です。ただし、労働契約としてはあわせて一つの契約です。
予備船員制度がある事業所に雇用される船員については、一航海ごとに交わされる雇入契約ではなく、雇用契約の下で雇用される間は継続して被保険者となります。労働契約としては雇入契約と雇用契約を区別しないからです。
包括的な雇用契約が無い場合
予備船員制度がない事業所に雇用される船員(包括的な雇用契約が無い場合)については、一航海ごとに交わされる雇入契約の下で雇用される間、つまり雇入れから雇止めまでの間において被保険者となります。ただし、1週間の所定労働時間が20時間未満である船員は適用除外なので、被保険者となりません。
予備船員とみなされる者
予備船員は、船舶に乗り組むため雇用されている者のうち船内で使用されていないものをいいます。
この予備船員には、船員職業安定法(昭和23年法律第130号)第92条第1項及び船員の雇用の促進に関する特別措置法(昭和52年法律第96号)第14条第1項の規定により「予備船員とみなされる者」も含まれます。
予備船員とみなされる者
- 船員職業安定法第92条第1項:船員派遣元事業主が雇用する派遣船員であって船員法第1条第1項に規定する船舶以外の船舶に派遣するもの(同居の親族のみを使用する船員派遣元事業主に使用される者及び家事使用人を除く。)
- 船員の雇用の促進に関する特別措置法第14条第1項:船員労務供給の対象となる船員(労務供給船員)として船員雇用促進センターが雇用する者
6.補足説明
教育訓練給付について
教育訓練給付を受けられるのは雇用保険に加入している労働者(被保険者)もしくは加入したことがある人だけです。雇用保険法適用除外の船員は、被保険者とはならないので教育訓練給付金を受けることができません。
ただし、現在被保険者でない場合であっても、過去1年以内に被保険者であった人は教育訓練給付を受けられる場合があります。
社労士過去問
適用除外の学生・船員に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。