TOEIC(トーイック)は英語能力の測定、評価する世界共通の試験であり、最近は就職や転職活動においてもTOEICスコアが活用されています。TOEIC対策講座も教育訓練給付制度の対象ですが、高等学校の普通課程で修得できるレベルは職業に役立つとは言えないので対象とはなりません。
1.TOEIC試験の概要
TOEICの主催者
TOEIC(トーイック)は、Test of English for International Communication(国際コミュニケーション英語能力テスト)の略称であり、ビジネスや日常生活での英語によるコミュニケーション能力を判定する検定試験です。
TOEIC試験はアメリカの非営利団体であるエデュケイショナル・テスティング・サービス(ETS)によって開発、制作されています。「TOEIC」「トーイック」はETSの登録商標です。
TOEICは英語を母国語としない人を対象とした世界共通の試験であり、世界各国で実施されています。日本国内におけるTOEIC試験の主催者は、一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)です。民間団体によって実施、運営されていることから、TOEICは公的資格ではなく「民間」の能力評価試験に分類されています。
TOEICスコア
TOEICには合格・不合格の判定はなく、TOEICスコア(得点)を認定することで能力を評価する制度を採用しています。試験日から30日以内に受験者本人宛に公式認定証(Official Score Certificate)が送付されます。何回受験しても英語能力に変化がなければ、TOEICスコアも一定に保たれるように設計されているため、英語能力を示す指標として利用することができ、公式認定証によってそれを証明することができます。
多くの企業や官公庁が幅広い目的でTOEICを活用しており、就職・転職活動における採用、入社後の昇格、昇進、海外出張の条件に一定のTOEICスコアが求めている企業もあります。TOEICでハイスコアを取ればキャリアアップにもつながります。
2.一般教育訓練給付金について
一般教育訓練の指定
教育訓練給付金は、厚生労働省の指定基準に従って、厚生労働大臣が教育訓練給付対象講座として指定した講座を修了した場合に支給されます(雇用保険法第60条の2)。
厚生労働大臣が指定する教育訓練には、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3種類があり、民間機関等の第三者が実施する能力評価試験(検定試験)の準備または対策のための教育訓練は「一般教育訓練」の指定を受けます。
そして、一般教育訓練の指定を受けたTOEIC試験対策講座を受講して、修了すると「一般教育訓練給付金」が支給されます。一般教育訓練給付金の金額は、教育訓練施設に支払った経費の20%です。
教育訓練給付金の受給資格と支給申請手続き
教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
職業に役立つ講座に限られる
雇用保険給付の一つである教育訓練給付は、労働者の能力の開発、労働者の生活と雇用の安定を図る目的で給付され、「労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合」に支給されます。そのため、一般教育訓練は職業に関する教育訓練であって、訓練目標が真に職業に役立つものとして明確であるものに限って指定されます。職業との関連が希薄なもの、職業に生かすことが困難なものは指定の対象とはなりません。
そのため、TOEIC試験対策講座についてはそのすべてが対象ではなく、明確に職業につながると考えられるスコア以上を目標とする講座のみが対象となります。
3.TOEICの種類と教育訓練給付制度の対象
Bridgeは教育訓練給付制度の対象外
日本国内におけるTOEIC試験は、現在5種類が実施されています。TOEIC L&R、TOEIC S&W、TOEIC Speaking Testは教育訓練給付制度の対象です。
TOEIC試験の種類
- TOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)
- TOEIC Speaking & Writing Tests(TOEIC S&W)
- TOEIC Speaking Test
- TOEIC Bridge Listening & Reading Tests
- TOEIC Bridge Speaking & Writing Tests
TOEIC Bridge(トーイック・ブリッジ)は、英語初級者、中級者にあわせて、通常のTOEICより問題の難易度が下げられた試験です。通常のTOEICは、ビジネスコミュニケーションの能力を測定する目的で開発されているため、就業経験の少ない中高生が学習するには適していません。TOEIC Bridgeは、より身近な日常生活を題材に基礎的な英語力を測定するために開発されました。初心者が学習するには適した試験です。
しかし、前述のように、教育訓練給付対象講座は訓練目標が真に職業に役立つものとして明確であるものに限って指定されるため、TOEIC Bridgeは教育訓練給付制度の対象外です。
IPテストは教育訓練給付制度の対象外
TOEICの受験制度には、国際ビジネスコミュニケーション協会が指定した全国各地の公開試験会場で実施する「公開テスト」と、企業や団体で随時実施される団体特別受験制度「IPテスト」があります。
TOEICの受験制度
- 公開テスト:通常の試験
- IPテスト(Institutional Program Test):団体特別受験制度
公開テストは主催者がTOEICスコアを正式に認定する試験方式であり、一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会の公式認定証が発行されます。証明書の提出を求められた場合は公式認定証の写しを提出します。公開テストは教育訓練給付制度の対象です。
これに対して、IPテストは、実施団体が実施する日時と会場を指定し、すべての問題が過去に出題された問題(過去問)で構成されているため、公式認定証は発行されません。IPテストは試験時間が短くスコアが即時に表示されるため、団体内の評価として利用するには非常に便利です。
しかし、教育訓練給付制度は、特定の団体所属者のみを対象として実施する能力評価試験を対象としないので(訓練効果の客観的な測定ができないものは対象外)、IPテストを訓練目標とする講座は対象外となります。
4.TOEICスコアと能力レベル
いっぱんに、単に「TOEIC」と言えば、最も受験者数の多い TOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)のことです。一部の都道府県を除き、全国の公開試験会場でほぼ毎月受験することができ、1年間で10回以上受験することも可能です。
TOEIC L&Rは、聞き取り(Listening、100問)、読解(Reading、100問)の計200問の試験です。聞き取り、読解それぞれ5点から495点までの5点刻みのスコアで評価され、合計で10点から990点までのスコアとなります。単に「TOEICのスコア」と言えば、990点満点の合計のスコアのことです。
設問ごとの配点は非公開であり、能力評価を一定にするための複雑な計算プログラムによってスコアが算出されています。
- Listeningスコア:5点~495点(5点刻み)
- Readingスコア:5点~495点(5点刻み)
- Totalスコア:10点~990点(5点刻み)
エデュケイショナル・テスティング・サービス(ETS)が実施した検証調査をもとに、TOEICスコアとコミュニケーション能力レベルの相関関係が5段階で公表されています。このなかで、英語の会話が理解でき、業務上ほぼ支障がない程度のコミュニケーションができる(外資系を除く)のは、レベルBの730点以上とされています。
- レベルA(860点以上):Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる。
- レベルB(730点以上):どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている。
- レベルC(470点以上):日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる。
- レベルD(220点以上):通常会話で最低限のコミュニケーションができる。
- レベルE:コミュニケーションができるまでに至っていない。
5.教育訓練給付制度の対象となるTOEICスコア
当初は470点以上だった
教育訓練給付制度は1998年(平成10年)12月1日に創設され、当初からTOEICは教育訓練給付制度の対象でした。当時は、レベルC(470点以上)を対象としていました。ハローワークの求人検索で使用される「免許・資格コード一覧」には、現在も「TOEIC(470点~)」と記載されています。
しかし、社会人受験者の平均スコアが600点前後であることや、大学生の就職活動で履歴書に書ける最低スコアが600点と言われていることなどを考えると、教育訓練給付制度の対象として470点はあまりにも低すぎるスコアと言えます。
650点以上に変更
1998年(平成10年)の教育訓練給付制度の開始直後から、趣味的に資格を取るだけの利用が多く、本来の目的である「労働者の生活と雇用の安定」に関係の無い給付が増えたことが問題となりました。そこで、厚生労働省は、2001年(平成13年)に教育訓練給付対象講座の指定基準を見直し、高等学校の普通課程で修得できる水準や最下級レベルの講座を「指定対象外」としました。
これに伴い、TOEICのレベルも引き上げられ「リスニング、リーディングテストについてはトータル650点以上」と変更されました。TOEICの650点というスコアは英検の2級から準1級の間に相当するレベルであり、高校卒業程度の英語能力である英検2級保持者が簡単に取ることができないスコアとして「650点以上」としたものと考えられます。
いっぱんにTOEICを学習するときには、500点、650点、750-800点台、900点台の順に目標を設定することがあり、最下級レベルにあたる500点を除いた、650点を最低目標ラインとしたのは妥当な変更と言えます。
現在は645点以上
現在は、TOEICの主催者である一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会が、645点から50点刻みでスコア分布を公表していることから、厚生労働省の基準も「トータル645点以上」に変更されています。
トータルスコア645点以上を目標とするTOEIC講座は教育訓練給付制度の対象であり、640点以下の講座は対象外となります。
ただし、この基準の変更はレベルを下げたものではなく、あくまでTOEICの最低訓練目標としては「600点台後半以上」という意味です。もちろん700点台、800点台、900点台を目標とする講座も教育訓練給付制度の対象です。
6.TOEIC Speaking & Writing Testsについて
TOEIC S&Wの概要
TOEIC Speaking & Writing Tests(TOEIC S&W)は、英語でビジネスコミュニケーションをするために必要な、話す、書く能力を測定するテストです。会話能力(Speaking)、作文能力(Writing)をそれぞれ0点から200点までのスコアで評価します。
通常のTOEICでは音声による会話やビジネスでの文章の作成能力を問うことができなかったため、それを補う目的で実施されています。日本の平均スコアは、Speaking110点前後、Writing130点前後です。
教育訓練給付制度の対象となるスコア
エデュケイショナル・テスティング・サービス(ETS)が受験者データをもとに予測したスコアによると、TOEICスコア640点がSpeakingスコア120点に対応するとされています。また、TOEICスコア655点がSpeakingスコア130点に対応するとされています。
前述のとおり、TOEICトータルスコア645点以上を目標とする講座が教育訓練給付制度の対象とされており、TOEIC S&Wについてもそれと同等のレベルが対象となります。厚生労働省では「スピーキングテストは120点以上、ライティングテストは130点以上の講座が指定対象」としています。
教育訓練給付制度の対象となるスコア(訓練目標)
- Listening & Reading:トータル645点以上
- Speaking:120点以上
- Writing:130点以上
7.教育訓練給付対象のコースに限られる
厚生労働大臣の指定を受けたものに限られる
前述のとおり、教育訓練給付金は「厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合」に支給されます。具体的には、厚生労働大臣が教育訓練施設に対して「講座指定通知書」を交付することによって指定を受けた講座に限られます。
教育訓練施設が厚生労働大臣に教育訓練給付対象講座の指定を申請しなければ、給付金の対象とはなりません。申請するかどうかは各教育訓練施設の自由です。そして、受給できるのは「最初に教育訓練給付制度を利用することを申し出て、講座を申し込んだ人」だけです。それ以外の人はすべて給付の対象外です。授業内容が同じであっても対象外です。
禁止されていること
- 授業期間の途中に教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
- 対象外の講座を受講中に教育訓練給付対象講座にコース変更すること
- コースの変更、追加、途中退校
- 修了した後で教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
教育訓練を探す方法
一般教育訓練の指定を受けている講座は、厚生労働省の「厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム」で検索することができます。
8.補足説明
特定一般教育訓練、専門実践教育訓練について
特定一般教育訓練、専門実践教育訓練は、公的職業資格(法令の規定に基づいて実施する資格または試験等)または修士、博士の学位等の取得などを訓練目標とする講座が対象となります。
TOEICは公的職業資格ではなく、民間機関が実施する検定試験なので、特定一般教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付金の対象外です。
TOEFLについて
TOEFL iBTテスト、TOEFLとTOEICの違いについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
TOEICはETSの登録商標です。当サイトは必ずしも商標表示(TM、(R)マーク)を付記しておりません。
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L&R means LISTENING AND READING. S&W means SPEAKING AND WRITING.