教育訓練給付については国庫負担はありません。教育訓練給付対象者は必要な報告、文書の提出または出頭を命じられることがあり罰則もあります。
1.雇用保険法と教育訓練給付
教育訓練給付は雇用保険事業(失業等給付)の一つであり、雇用保険法、雇用保険法施行規則その他雇用保険に関する法令が適用されます。特に、「失業等給付」全般に適用される規定は、当然、教育訓練給付にも適用されます。
雇用保険法には、第4章までの給付に関する規定のほか、第5章以降に費用の負担(国庫負担)、不服申立て及び訴訟、雑則、罰則があります。
- 第五章 費用の負担
- 第六章 不服申立て及び訴訟
- 第七章 雑則
- 第八章 罰則
2.国庫の負担
国庫は、求職者給付、雇用継続給付、育児休業給付、職業訓練受講給付金の支給に要する費用の一部を負担することとされており、教育訓練給付については国庫負担はありません。つまり、教育訓練給付の支給に要する費用(支給される給付金)はすべて、事業主と労働者が納める雇用保険料でまかなわれています。
したがって、保険料を支払っていない人が教育訓練給付の支給を受けることはありません。
ただし、国庫は、毎年度、予算の範囲内において雇用保険事業の事務の執行に要する経費を負担することとされており、教育訓練給付の事務(厚生労働省等の事務)の執行に要する経費は国庫負担となります。
3.不服申し立てと訴訟
教育訓練給付(未支給の教育訓練給付の請求も含む)に関する処分または不正受給処分に不服がある場合は、雇用保険審査官に対して審査請求をすることができます。さらに、雇用保険審査官の決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます(雇用保険法第69条)。
処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する雇用保険審査官の決定を経た後でなければ、提起することができません(雇用保険法第71条)。雇用保険審査官の決定に不服がある場合は、労働保険審査会に対する再審査請求をするか、裁判所に対する取消しの訴えをするかは自由に選択することができます。
審査請求、再審査請求について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
4.雑則
労働政策審議会
労働政策審議会は、厚生労働省に設置されている審議会の一つです(厚生労働省設置法第6条第1項)。
労働政策審議会は、厚生労働大臣が任命する30名の委員(公益代表委員・労働者代表委員・使用者代表委員の各10名)で組織されています。労働政策審議会には職業安定分科会が設置され、雇用保険事業を含め職業安定行政に係る重要事項について専門的立場で調査することとされています。
厚生労働大臣は、雇用保険法の施行に関する重要事項について決定しようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければなりません(雇用保険法第72条)。労働政策審議会の答申に法的拘束力はありませんが、厚生労働大臣はそれを尊重しなければなりません。
不利益取扱いの禁止
確認の請求または特例高年齢被保険者の申出をしたことを理由として、事業主は労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととされています(雇用保険法第73条)。労働者の正当な権利行使を理由として解雇その他不利益な取扱いをした場合にはその取扱いは無効であり、不利益取扱いを行った事業主に対しては罰則の適用があります。
不利益な取扱いとは、解雇のほかに配置転換、減給、賞与の減額、雇用契約の更新拒否などがあり、さらに、精神的な面において差別的待遇を行うなど労働者の権利行使の妨げとなる行為も含まれます。確認の請求または特例高年齢被保険者の申出を禁止する契約は無効であり、雇用契約のなかに禁止する条項が含まれている場合はその条項は無効です。
なお、教育訓練給付に関しては不利益取扱い禁止の規定はありません。
時効
教育訓練給付の支給を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅することとされており、申請期限にかかわらず2年間は支給申請できます(雇用保険法第74条)。
また、国(政府)が、不正受給処分により教育訓練給付の返還を受ける権利と、納付をすべきことを命ぜられた金額を徴収する権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅しますが、督促すれば更新されます。
時効について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
戸籍事項の無料証明
市町村長と特別区の区長は条例の定めるところにより求職者給付または就職促進給付の支給を受ける者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができることとされています(雇用保険法第75条)。これは戸籍謄本または戸籍抄本ではなく、戸籍法施行規則第14条で定める記載事項証明書(附録第17号書式)のことです。
なお、教育訓練給付に関しては戸籍事項の無料証明はありません。
書類の保管義務
事業主及び労働保険事務組合は、雇用保険に関する書類を2年間(被保険者に関する書類は4年間)保管しなければならないこととされていますが(雇用保険法施行規則第143条)、教育訓練給付に関しては書類の保管義務はありません。ただし、必要な書類が無ければ給付金の申請をすることができません。
5.行政庁の命令と立入検査
報告、文書の提出、出頭命令
行政庁(厚生労働大臣とその権限の一部を委任されている都道府県知事、都道府県労働局長、公共職業安定所長)は、教育訓練給付対象者を雇用し、または雇用していたと認められる事業主等、教育訓練を行う指定教育訓練実施者に対して、この法律の施行に関して必要な報告、文書の提出または出頭を命ずることができます。なお、この命令は文書によって行われます。
また、行政庁は、教育訓練給付対象者または未支給の失業等給付等の支給を請求する者に対して、この法律の施行に関して必要な報告、文書の提出または出頭を命ずることができます。命令違反には罰則もあります。
資料の提供等
行政庁は、関係行政機関または公私の団体に対して、この法律の施行に関して必要な資料の提供その他の協力を求めることができ、協力を求められた関係行政機関または公私の団体は、できるだけその求めに応じなければならないこととされていますが(雇用保険法第77条の2)、罰則はありません。
診断
求職者給付、傷病手当の支給を受け、若しくは受けようとする者に対して、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができますが(雇用保険法第78条)、この規定は、教育訓練支援給付金の「失業していることについての認定」に準用されています。
行政庁は、教育訓練支援給付金の「失業していることについての認定」を受け、若しくは受けようとする者に対して、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができます。なお、診断の命令に罰則はありません。
立入検査
行政庁は、教育訓練給付対象者を雇用し、または雇用していたと認められる事業主等の事務所に立ち入り、関係者に対して質問させ、帳簿書類の検査をすることができます。これは、教育訓練給付対象者や教育訓練実施者に対する検査ではありません。検査妨害は罰則があります。
6.罰則
教育訓練給付対象者に対する罰則
雇用保険法では、教育訓練給付対象者や、未支給の失業等給付の支給を請求する者、その他の関係者(立入検査において被保険者、受給資格者等または教育訓練給付対象者の雇用関係、賃金等について質問された関係者)が、必要な報告、文書の提出、出頭をせず、または立入検査を拒んだ場合、懲役刑または罰金刑(6か月以下の懲役または20万円以下の罰金)に処せられることがあります。
行政庁が教育訓練給付対象者に対して命令できるのは、不正受給処分、受診命令、文書提出命令などです。そのうち、教育訓練支援給付金の医師の診断を受ける命令だけ罰則がありません。
- 不正受給処分の返還、納付(詐欺罪の可能性あり)
- 医師の診断(罰則なし)
- 報告、文書の提出、出頭(罰則あり)
教育訓練施設に対する罰則
指定教育訓練実施者に対する必要な報告、文書の提出または出頭の命令(雇用保険法第76条第2項)については罰則はありません。
ただし、指定教育訓練実施者が偽りの届出、報告、証明をしたためその失業等給付が支給されたものであるときは、不正受給処分の連帯返還命令、連帯納付命令、詐欺罪等があります。また、教育訓練給付金対象講座の指定が取り消されることもあります。
7.補足説明
社労士過去問
国庫負担、雑則に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
行政庁の命令と罰則に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。