短期訓練受講費は雇用保険法上の給付ですが、教育訓練給付ではなく、就職促進給付(求職活動支援費)の一つです。ハローワークの職業指導を受け、短期訓練を修了すると訓練経費の20%が支給されます。
1.短期訓練受講費とは
概要
短期訓練受講費は、ハローワークの職業指導により再就職のために必要な職業に関する1か月未満の短期訓練を受講して修了した場合に、受講のために支払った費用の20%(上限10万円、下限なし)がハローワークから支給される制度です。
1か月未満の短期訓練には、大型特殊免許、フォークリフト運転技能講習、介護職員初任者研修などがあります。
短期訓練を申し込む際にいったん受講料を全額支払います。訓練終了後ハローワークに申請することによって短期訓練受講費が支給されます。
短期訓練受講費の手続きの流れ
講座を申し込んだだけでは支給されません。短期訓練受講費を申請するには修了証明書の提出が必要となります。申し込んだ短期訓練で定められた修了条件をクリアしなければ支給されません。
- Step1支給要件照会
・「短期訓練受講費支給要件照会票」に必要事項を記入する。
・「短期訓練受講費支給要件照会票」を教育訓練実施者へ提出し、証明を受ける。
・証明を受けた「短期訓練受講費支給要件照会票」をハローワークへ提出し、支給要件を満たしていることの確認を受ける。 - Step2受講指導
・ハローワークの受講指導を受ける。
- Step3短期訓練の受講と修了
・短期訓練の申込をする(いったん全額支払う)。
・短期訓練の受講
・受講修了(修了条件をクリアすること) - Step4申請手続き
・「教育訓練修了証明書」に必要事項を記入のうえ、教育訓練実施者へ提出し、証明を受ける。
・講習修了日の翌日から1か月以内に、ハローワークで支給申請を行う。
・支給決定後7日以内に口座振り込み(20%給付)
2.短期訓練とは
短期訓練とは、再就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練のことで、次の4つの条件を満たす講座のことです。短期訓練受講費は、雇用保険法上の給付ですが教育訓練給付ではありません。就職促進給付(求職活動支援費)の1つです。
なお、短期訓練を行う教育訓練施設が何らかの一般教育訓練指定講座を開講していればいいので、受講する短期訓練が一般教育訓練の指定を受けている必要はありません。
短期訓練の条件(平成28年12月27日厚生労働省告示第435号)
- 教育訓練実施者が一般教育訓練の講座を実施している
- 公的職業資格(国若しくは地方公共団体又は国から委託を受けた機関が法令の規定に基づいて実施する資格や試験)の取得を訓練目標としている
- 訓練期間1か月未満
- 教育訓練の開始時期、内容、対象となる者、目標及び修了基準が明確であり、教育訓練実施者が、当該教育訓練について、適切に受講されたことを確認し、修了させるもの
3.短期訓練受講費の支給を受けることができる人
短期訓練受講費の受給資格者
短期訓練受講費は求職活動を支援するための給付金の1つなので、支給を受けられるのは職を求めている失業者だけです。
雇用保険の基本手当、高年齢求職者給付金、特例一時金または日雇労働求職者給付金の支給を受けながら、ハローワークの職業指導により再就職をしようとしている人が対象となります。
短期訓練受講費の受給資格者
- 基本手当の受給資格者
- 受給資格決定日から、最後の認定日(支給終了日)または受給期間満了日のどちらか早い日まで
- 高年齢求職者給付金の受給資格者
- 高年齢求職者給付金受給者
- 高年齢求職者給付金の支給を受けた者のうち、当該高年齢求職者給付金の受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年を経過していないものに限る
- 特例一時金の受給資格者
- 特例一時金受給者
- 特例一時金の支給を受けた者のうち、当該特例一時金の受給資格に係る離職の日の翌日から起算して6か月を経過していないものに限る
- 雇用保険法第45条または第54条の規定による日雇労働求職者給付金の受給資格者
ただし、平成28年に高年齢求職者給付金の受給資格者となり、平成29年以降に高年齢求職者給付金、特例一時金または日雇労働求職者給付金の受給資格者となっていない場合は除きます。
短期訓練受講費対象講座を受講している場合も教育訓練給付金と同様、基本手当の求職活動実績として認められます。
基準は受講指導の日
短期訓練受講費を受給するには、短期訓練を受講する前にハローワークで短期訓練受講のための職業指導(これを「受講指導」という)を受けなければなりません。上記の短期訓練受講費の受給資格は、この「受講指導の日」が基準となります。ハローワークによる受講指導の日に短期訓練受講費の受給資格があればよいです。待期期間や給付制限期間中であるかどうかは関係ありません。
受講指導の日に受給資格があれば、短期訓練の受講中や修了後の支給申請の時に受給資格がなくてもかまいません。例えば、失業により基本手当の受給資格を得た場合、受講指導を受けた時点で短期訓練受講費の支給対象となるので、その後、訓練受講中に再就職しても短期訓練受講費の支給を受けることができます。
受講指導の日に就職等している場合は受給資格者には該当しないため、短期訓練受講費の支給対象とはなりません。
待期期間経過後に受講を開始すること
基本手当等には7日間の待期期間があります(雇用保険法第21条)。
待期期間とは、離職後はじめてハローワークに求職の申込みをしてから、失業している日が通算して7日に満たない期間のことであり、基本手当等の給付が制限されています。短期訓練受講費を受給するには、この待期期間の経過後に短期訓練の受講を開始しなければなりません(雇用保険法施行規則第100条の2)。
受講開始日が待期期間中の場合は短期訓練受講費の支給対象とはなりませんので注意が必要です。
何回でも受給可能
短期訓練受講費の回数制限はありません。
過去に短期訓練受講費を受給したことがあったとしても、新たに短期訓練を受講すれば再び支給を受けることができます。受講指導によってハローワークが必要と判断すれば、複数の短期訓練を受講してそれぞれ支給を受けることも可能です。
また、同時期に複数の短期訓練を受講してもかまいません。
4.一般教育訓練給付金との優先関係
短期訓練受講費は、教育訓練給付金の支給を受けることができないときに支給を受けることができます。
厚生労働大臣指定の一般教育訓練を受講する場合
厚生労働大臣指定の一般教育訓練を受講して、一般教育訓練給付金と短期訓練受講費の支給要件を両方満たす場合は、一般教育訓練給付金の手続きをしなければなりません。
受講開始日において一定の雇用保険の被保険期間等がない等の理由で、一般教育訓練給付の支給を受けることができない人については、厚生労働大臣指定の一般教育訓練を受講しても一般教育訓練給付金の対象ではないので短期訓練受講費の支給を受けることができます。
一般教育訓練の指定を受けていない講座を受講する場合
一般教育訓練の指定を受けていない講座を受講したときは、一般教育訓練給付の支給を受けることができないので、短期訓練受講費の支給を受けることができます。
受講指導後に支給要件を満たした場合
一般教育訓練指定講座を受講する場合でも、ハローワークによる受講指導のときに一般教育訓練給付の支給要件を満たさなければ受講指導を受けることが可能です。それは、一般教育訓練給付を受給できなければ、短期訓練受講費の支給対象となるからです。
しかし、その受講指導の後に就職等をして雇用保険の被保険者資格が変わり、一般教育訓練給付金の支給要件を満たした場合は、短期訓練受講費の支給対象とはなりません。この場合は教育訓練修了後、一般教育訓練給付金の申請をします。
5.短期訓練受講費の計算方法
短期訓練受講費の支給額は、教育訓練経費の20%です。教育訓練経費とは、受講した本人が教育訓練施設に支払った入学料(入学金または登録料)と受講料のことです。ただし、短期訓練受講費の上限は10万円です。下限はありません。
短期訓練受講費の支給金額の計算方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
6.申請手続きについて
支給要件照会
まず、「短期訓練受講費支給要件照会票」に必要事項を記入し、教育訓練実施者へ提出し、証明を受けます。次に、教育訓練実施者の証明を受けた短期訓練受講費支給要件照会票を、住所地を管轄するハローワークへ提出し、支給要件を満たしていることの確認と受講指導を受けます。
ハローワークで受講指導を受けると、短期訓練受講指導書(兼 短期訓練受講費支給要件回答書)が交付されます。
短期訓練受講費の支給要件照会について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
支給のための手続き
短期訓練の受講申し込みの際は受講料をいったん全額支払います。
短期訓練受講費の支給申請は講座が終了した後で、申請する本人がハローワークに行って「求職活動支援費(短期訓練受講費)支給申請書」を提出します。短期訓練受講費の支給申請については、原則として受講修了日の翌日から起算して1か月以内に手続きをしなければいけません。
短期訓練受講費の支給申請方法、支給申請書に添付する書類について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
申請期限と時効
短期訓練受講費の申請期限は原則1か月以内ですが、時効は2年なので、受講修了日の翌日から起算して2年以内であれば申請可能です。時効について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
短期訓練受講費の支給
ハローワークで支給が決定されたら、決定から7日以内に支給されます。短期訓練受講費は、支給決定を受けた本人の普通預(貯)金口座への口座振込みによって支給します。
7.補足
一般教育訓練給付金との共通点と違い
短期訓練受講費と一般教育訓練給付金の共通点と違いについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
法改正関係
短期訓練受講費は2017年(平成29年)1月1日から始まった制度です。短期訓練受講費は2017年(平成29年)以降に受講を開始した場合に支給されます。2016年(平成28年)までに受講を開始した場合は対象外です。
基準を満たさなくなった場合
受講を予定している短期訓練が、支給要件照会時に短期訓練受講費対象講座の基準(教育訓練実施者が一般教育訓練の講座を実施している等)を満たしていたが、支給要件照会時以降に短期訓練受講費対象講座の基準を満たさなくなった場合でも、当初の実施内容に沿った短期訓練が実施され、それを修了した場合には短期訓練受講費の支給対象となります。
未支給の短期訓練受講費
短期訓練受講費対象講座を受講して修了したにもかかわらず、短期訓練受講費の申請をする前に死亡した場合、死亡した本人の遺族が未支給失業等給付の請求をすることができます。未支給失業等給付を請求することのできる「遺族」の範囲は教育訓練給付と同じです。
死亡した日の翌日から起算して6か月以内に、死亡した本人の死亡当時の住所または居所を管轄するハローワークに「未支給失業等給付請求書」と求職活動支援費(短期訓練受講費)支給申請書その他の申請書類を提出します。
社労士過去問
短期訓練受講費に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。