フォークリフトは車の普通免許を持っているだけでは運転することができず、工場や倉庫で運転するときもフォークリフトの資格が必要です。フォークリフトの資格は複数あり、そのうち「フォークリフトの免許」に相当する資格だけが教育訓練給付制度の対象となっています。
1.フォークリフト免許のメリットと労働災害
フォークリフトの仕事と求人
フォークリフト(forklift)は、車体にフォーク(つめ)などの貨物を保持する装置をもち、重量物を持ち上げて運搬する特殊自動車です。大きい荷物は数トンから数十トンの貨物を運ぶことができ、また、小さい荷物はパレット(荷台)に載せて、パレットの2か所の穴にフォークを差し込んで大量に効率良く運搬することができます。
フォークリフトは工場、物流倉庫、市場、港湾、駅のほか、運送業、製造業、小売・卸売業、土木・建設業、工事現場・解体、産業廃棄物処理、鉄骨・鉄工業、木材業といった幅広い業種で広く用いられています。
フォークリフトを運転操作する人のことを「フォークリフト運転者」または「フォークリフトオペレーター」といいます。フォークリフトは需要の高い車両であり、求人も比較的多く、資格を持っていれば年齢や性別を問わず働くことができます。
フォークリフト作業の危険性
フォークリフトの運転は比較的簡単なため、誰でも操作できるように見えます。しかし、小さい車体で重い荷物を積載するのでアンバランスとなります。そのため、フォークリフト作業をするには荷役に関する装置の構造や運転に必要な力学の知識が必要となります。特に荷物を高く上げると車体全体の重心が高くなるので転倒の危険性があります。
最近、フォークリフトによる労働災害が多く発生しています。フォークリフトの作業は通常の自動車とは異なり危険を伴うことを理解しなければなりません。
フォークリフトによる事故の例
- 不安全な積み⽅や運転の未熟、無理な操作等による荷物の落下
- 荷物の積み過ぎや急旋回等による⾞体の転倒
- ⾞体の構造上からくる視界の限界等による接触事故
- 誤った使い方による下敷き事故、子供の死亡事故
2.フォークリフトの特別教育と技能講習の違い
労働災害の危険性のあるフォークリフトの業務は「労働安全衛生法」により規制されています。最大荷重(フォークリフトの構造及び材料に応じて基準荷重中心に負荷させることができる最大の荷重)によって、「フォークリフト運転特別教育」と「フォークリフト運転技能講習」があります。
特別教育は事業主の義務
もともと、事業主は雇用するすべての労働者に対して一般的な「安全衛生教育」を行う義務があります。労働安全衛生法上の教育を行うのは事業主の義務です。
さらに、知識の無い者にフォークリフトを運転させることは極めて危険な行為であるとして、労働安全衛生法ではフォークリフトの運転業務を「危険な業務」と位置付けています。道路上で運転するか、私有地のなかで運転するかを問わず、フォークリフトを扱うこと自体が労働災害のおそれのある行為とされています。
そこで、最大荷重が1トン未満のフォークリフトの運転をするには、事業主が「安全衛生特別教育」を行う義務があります。労働安全衛生法上の特別教育を行うのも事業主の義務です。特別教育を実施せず、無資格の作業者を就業させた場合に処罰されるのも事業主と職長であって、労働者ではありません(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)。
フォークリフト運転に関する特別教育は厚生労働省の告示で定められた内容で、学科6時間と実技6時間を行わなければなりませんが、試験はありません(単なる社内研修なので合格も不合格もない)。事業主は、特別教育の内容を記録し、実施記録を保存する義務があります。
この特別教育は、本来、その事業所内で十分な知識、経験を有する社員が行うべきですが、外部の研修施設のほうが機材や教材が豊富にあることから、外部機関や外部講師に委託(事業主の代わりに代行)しても良いことになっています。この場合、外部の研修機関に受講料(約15,000円)を支払い、受講を証明する修了証を交付します。この修了証は事業主が該当する社員に特別教育を行ったことの証拠となる書類です。
技能講習は個人の資格(免許)
1トン以上のフォークリフトは社内で教育するだけでは足りません。
道路上で運転するか、私有地のなかで運転するかを問わず、最大荷重が1トン以上のフォークリフトを運転するには、都道府県労働局長により登録された登録教習機関が実施する「フォークリフト運転技能講習」を修了しなければなりません。
フォークリフト運転技能講習は、事業主が行う教育ではなく、第三者機関である登録教習機関が自動車学校のような教習と試験を行います。学科試験及び実技試験に合格して修了すると免許証に相当する「フォークリフト運転技能講習修了証」が交付されます。実際に、フォークリフトを運転する業務に従事するときは修了証を携帯する義務があります。修了証を持っている場合、原則として特別教育は免除され、1トン未満のフォークリフトも運転できます。
技能講習を受けていない無資格の作業者が就業した場合、事業主と作業者が両方処罰されます。
3.フォークリフトの免許と教育訓練給付制度
特別教育は対象外
フォークリフト運転特別教育は、事業主が労働者に対する教育(いわゆる法定研修)にすぎません。教育にかかる費用は当然、事業主が全額負担すべきものです。外部の機関に特別教育を委託したとしてもその費用は事業主が負担しなければなりません。
そして、事業主が従業員に社内研修をしただけで修了証を発行する義務はなく、合否も無いので免許でも資格でもありません。転職した場合も、転職先の事業主が必要だと思えば、前職で特別教育修了済みであっても独自の特別教育をしても良いです。
このように、事業主が従業員に対して行う社員教育の特別版である「フォークリフト運転特別教育」は、教育訓練給付制度の対象外です。もし、教育訓練給付制度の対象としてしまうと、本来、事業主の義務である社員教育を雇用保険の予算で肩代わりすることになり、「労働者が自発的に教育訓練を受けた場合に支給される」という目的に反するからです。
技能講習は一般教育訓練給付金の対象
フォークリフト運転技能講習は、都道府県労働局長登録教習機関が教習を行い、検定試験に合格した場合に修了証が交付されます。労働安全衛生法で定められた厚生労働省管轄の国家資格です。
国家資格のうち業務独占資格(法令の規定により当該資格を有しない者による当該資格に係る業務への従事が禁止されている資格)の取得を訓練目標とする講座は、一般教育訓練の指定を受けることができます。フォークリフト運転特別教育は、労働安全衛生法第61条第2項の規定により資格を有しない者が1トン以上のフォークリフトを運転してはならないこととされているので業務独占資格に該当します。
一般教育訓練給付金の場合、フォークリフト運転技能講習にかかる費用の20%が給付されます。
教育訓練給付金の受給資格と支給申請手続き
教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
なお、特定一般教育訓練の対象でもありますが、通常は、特定ではない「一般教育訓練」の指定を受けます(後述)。
フォークリフト運転技能講習がおすすめ
パレット1枚に載せられる荷物の耐荷重は1トンです。1トン未満の小型フォークリフトは軽い荷物の多い場所で使われています。しかし、通常は2トン~3.5トンのフォークリフトが使われます。フォークリフトの職業を希望するなら重量制限のないフォークリフト運転技能講習の受講がおすすめです。
フォークリフト運転技能講習修了証は、自動車免許のような更新義務はありません。一度取得すれば一生使えます。
4.フォークリフトを道路上で走行するための免許
フォークリフトを道路で運転するには自動車登録をしてナンバープレートを取得するとともに、道路交通法上の運転免許を所持していなければなりません。最高速度が15km/h以下のフォークリフトは小型特殊免許、それ以上のフォークリフトは大型特殊免許が必要です。
労働安全衛生法に基づくフォークリフト運転技能講習は路上か否かを問わず「フォークリフトの荷役作業」を行う時に必要となるのに対し、道路交通法に基づく運転免許は「公道上の走行」を行う時に必要となります。例えば、フォークリフトの保管場所と作業場所の間の道路(公道)を横切る場合は、両方の免許を取得する必要があります。
- 労働安全衛生法:場所を問わずフォークリフトの業務を行う時に必要
- 道路交通法:路上を走行するときに必要
そのため、フォークリフト運転技能講習を受ける前に、自動車学校で大型特殊免許を取得する人もいるようです。大型特殊免許も一般教育訓練給付金の対象です。
5.18歳未満が作業不可であること
労働基準法では、一定の危険な業務を満18歳未満の労働者に就かせてはならないこととされています(労働基準法第62条第1項)。その危険な業務の一つに「動力により駆動される運搬機の運転の業務」があり、フォークリフトの運転業務はこれに該当します(年少者労働基準規則第8条第7号)。
つまり、フォークリフトの運転業務を18歳未満の者に行わせることは禁止されています。しかし、フォークリフト運転技能講習を受けるだけであれば18歳未満でもよく、修了証を取得したあとで、18歳以上になったら実際のフォークリフト作業を行うことができます。
なお、登録教習機関によっては入校を満18歳以上に制限している場合がありますが、これは法律上の制限ではなく登録教習機関による独自の制限(自粛)です。
6.短期訓練受講費
短期訓練受講費とは、雇用保険の受給資格者等(基本手当の受給資格者、高年齢受給資格者、特例受給資格者、日雇受給資格者)で、1か月未満の短期訓練を修了した場合に支払った教育訓練経費の20%(上限10万円、下限なし)が支給される制度です。
一般教育訓練指定講座を受講した場合で、一般教育訓練給付金の受給資格がある場合は「一般教育訓練給付金」を受給すればよいですが、一般教育訓練給付金の受給資格が無い場合はハローワークの職業指導を受けたうえで「短期訓練受講費」の支給を受けることができます。
短期訓練受講費について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
7.補足説明
給付金の支給申請手続きについて
教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
特定一般教育訓練について
特定一般教育訓練は、一般教育訓練のなかで特に「速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する」として厚生労働大臣が指定したもので、フォークリフトも対象となっています。一般教育訓練給付金は給付率が20%、特定一般教育訓練給付金は給付金が40%です。
特定一般教育訓練給付金は一般教育訓練給付金よりも多く給付されるため「お得」であるかのように見えますが、特定一般教育訓練給付金を受給するには訓練前キャリアコンサルティングを受ける必要があります。5日以内で終わるフォークリフトの教習のために、その1か月前にわざわざハローワークに行ってコンサルティングの予約を取るのは面倒なことです。そのため、ほとんどの教習所が特定ではない一般教育訓練の指定を受けています。
- 一般教育訓練:給付率20%、受講するだけ
- 特定一般教育訓練:給付率40%、キャリアコンサルティングと事前手続きが必須
2023年(令和5年)4月1日現在で、フォークリフト運転技能講習を含む特定一般教育訓練を1つ以上実施している教習所は次のとおりです。なお、この一覧表は当サイトが研究および分析のために独自に取得したデータであり、内容は一切保証しません。
人材開発支援助成金
事業主に対する助成金である「人材開発支援助成金・建設労働者技能実習コース(旧建設労働者確保育成助成金)」は、フォークリフト運転技能講習は対象外です。