特定一般教育訓練給付金は給付率が40%であり、一般教育訓練給付金よりも多く給付されるため「お得」であるかのように見えますが、給付率が高いのは意味があるのでそれを理解したうえで検討したほうがよいでしょう。
1.特定一般教育訓練給付金制度と運転免許
自動車運転免許のうち職業につながる車種については、雇用保険の教育訓練給付の支給を受けることができます。教育訓練給付はハローワークが支給するもので自動車学校の割引制度ではありません。はじめに自動車学校に入学金と受講料を全額支払い、修了が確認されたらハローワークから教育訓練給付が支給されます。
一般教育訓練と特定一般教育訓練
教育訓練給付の支給を受けるには、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練給付対象講座(各自動車学校が厚生労働省に対して指定の申請をする)を受講しなければなりません。厚生労働大臣の指定を受けていない教習を受けた場合、免許の取得はもちろん可能ですがハローワークからの給付は受けられません。その場合は教習費用は全額自己負担となります。
運転免許は教育訓練給付制度のうち、一般教育訓練給付金と特定一般教育訓練給付金の対象講座となっており、どちらの指定を受けるかは各自動車学校がどちらか一方を自由に選択することができます。また、自動車学校のなかには一般教育訓練と特定一般教育訓練の両方(例えば、普通二種は特定一般、それ以外の免許は一般)を実施している場合もあります。
特定一般教育訓練の指定を受けている講座は特定一般教育訓練給付金のみを受給することができ、一般教育訓練給付金を受給することはできません。
一般と特定一般でなぜ給付率が違うのか
一般教育訓練給付金は給付率が20%、特定一般教育訓練給付率は給付金が40%です。
もともと教育訓練給付制度は1998年(平成10年)12月1日に創設されました。そして、特定一般教育訓練給付金制度は一般教育訓練給付金制度を拡充する目的で、約20年後の2019年(令和元年)10月1日からスタートしました。
特定一般教育訓練は、一般教育訓練のなかで特に「速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する」として厚生労働大臣が指定したものであり、その受講を推奨するために給付率を40%に引き上げています。特定一般教育訓練の受講者として想定しているのは、「速やかな再就職及び早期のキャリア形成」を必要とする人であり、資格を取るだけでなく、資格を取った後の転職や再就職、キャリアアップについてハローワークで職業相談をすることがセットとなっているのです。
単に給付金を「もらえる」のではないということに留意しなければなりません。
そのため、特定一般教育訓練を受講するには、受講開始日の1か月前までにハローワークでキャリアコンサルティングを受けるとともに、ハローワークの職員が受給資格の確認を行う事前の手続きをしなければなりません。一般教育訓練の場合はこのような事前の手続きは不要です。
- 一般教育訓練:給付率20%、受講するだけ
- 特定一般教育訓練:給付率40%、キャリアコンサルティングと事前手続きが必須
受給資格と支給される条件
一般教育訓練給付金と特定一般教育訓練給付金で受給資格と支給される条件は同じです。教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.訓練前キャリアコンサルティング【一般との違い】
特定一般教育訓練の指定を受けている講座の場合、一般教育訓練とは異なる事前手続きが必要であり、これを怠ると給付金は1円も支給されません。特定一般教育訓練給付金は、特定一般教育訓練の手続きをする必要があり、一般教育訓練給付金に切り替えて受給するといったことも不可能です。
ジョブ・カードの作成
特定一般教育訓練給付金の支給を受けるには、まず、ジョブ・カード(正式には職務経歴等記録書)を作成します。ジョブ・カードは、訓練前キャリアコンサルティングの資料として必要となります。そして、受講する特定一般教育訓練(コース)を決めておきます。
コンサルティングを受ける
ある程度、ジョブ・カードが作成できたら、住居所管轄のハローワークに行って「訓練前キャリアコンサルティング」の予約をします。訓練前キャリアコンサルティングとは、通常のキャリアコンサルティングとは異なり、これまでの職務経歴や能力を踏まえて特定一般教育訓練の受講が可能かを判断するものです。
そのため、国家資格のキャリアコンサルタント試験に合格したコンサルタントのうち、さらに教育訓練受講予定者に対応した「訓練対応研修」を修了した「訓練対応」の資格を持つキャリアコンサルタントが実施します。
このとき、事前に作成したジョブ・カードの添削を受け、記述が不十分であれば、さらに記入するよう要求されます。簡単に言えばジョブ・カードのダメ出しを受けます。コンサルタントのアドバイスをもらいながらジョブ・カードを作成することも可能ですが、その時間内にジョブ・カードが完成しなければ「キャリアコンサルティングのやり直し」となり、別の日に予約を取る必要があります。
- 一般教育訓練:キャリアコンサルティング任意
- 特定一般教育訓練:訓練前キャリアコンサルティング必須
ちなみに、特定ではない一般教育訓練の場合、受講開始前1年以内に自主的にキャリアコンサルティング(訓練対応コンサルタントでなくてもよい)を受けた場合は、その費用を教育訓練経費に含めて給付金を申請することができ、その20%が一般教育訓練給付金として支給されます。
3.受講の許可と受給資格確認【一般との違い】
受給資格確認
訓練前キャリアコンサルティングが終了したら、担当キャリアコンサルタントが、ジョブ・カードの記入欄に今回の教育訓練に関するコメント(当該特定一般教育訓練受講予定者の就業に関する目標その他職業能力の開発及び向上に関する事項)を記入します。これにより受講が許可されたことになります。これがなければ特定一般教育訓練の受講はできません。
そして、ジョブ・カードと「受給資格確認票」をハローワークの窓口に提出します。ハローワークの職員は、本人の受給資格の有無と、担当コンサルタントのコメントの記載を確認します。
この受給資格確認の手続きの期限が受講開始日の1か月前までであるため、それより前に訓練前キャリアコンサルティングを受けておく必要があります。
受給資格確認通知書
受給資格があるものと確認された場合は、「教育訓練給付金(特定一般教育訓練)受給資格確認通知書」が交付されます。この確認通知書は自動車学校で受講申し込みの際に提出します。また、修了後に給付金の支給を申請するときに必要となりますから、修了まで大切に保管します。
ちなみに、受給資格がないと判断された場合は「否認通知書」が交付されますが、否認されたとしても何回でもこの事前手続きを行うことができます。
4.一般教育訓練との共通点
受給資格
特定一般教育訓練給付金の受給資格は、一般教育訓練給付金と同じです。
教育訓練給付対象者(在職者または離職1年以内)が、受講開始日の時点で支給要件期間3年以上(初回に限り1年以上)を満たした場合に受給資格があります。なお、年齢の上限はありません。
教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
給付の対象となる教育訓練経費
特定一般教育訓練給付金の給付の対象となる教育訓練経費の範囲は、一般教育訓練給付金と同じです。
給付の対象となるのは、入学金と標準的な教習費用とその消費税です。それ以外に検定料、仮免許申請料が必要であり、さらに最短時限を超えた場合は追加の費用が発生することがありますが、これらの費用は給付の対象外です。
そのため、実際に自動車学校に対して支払った総額のちょうど40%ではなく、それより若干少なめとなります。
特定一般教育訓練給付金=教育訓練経費(検定料等を除く)*40%
割引やキャンペーンが適用された場合は割引後の金額が教育訓練経費となります。
給付の対象となる免許の種類
特定一般教育訓練給付金の給付の対象となる免許の種類は、一般教育訓練給付金と同じです。
大型、中型、準中型の第一種と第二種の免許、けん引第一種免許、普通二種免許とこれらを組み合わせた同時教習コースです。ただし、これらのコースがすべて給付の対象となっているとは限りません。
各自動車学校が厚生労働省に指定の申請をし、厚生労働大臣の指定を受けたコースに限られます。
5.特定一般教育訓練のデメリット
特定一般教育訓練給付金は、給付率が一般教育訓練給付金の2倍であるため、かなり「お得」であるかのように見えます。
しかし、前述のように訓練前キャリアコンサルティングを受ける必要があります。自動車学校の教習は1か月~2か月程度で終わり、合宿なら最短2週間程度で終わる場合もあるのに、その1か月以上も前にわざわざハローワークに行ってコンサルティングの予約を取るのは面倒なことです。
さらに、ジョブ・カードを作成し、今までの学歴と職務経歴(過去の仕事全部)を赤の他人である担当コンサルタントに見せ、今回取得する運転免許を今後の職業にどのように生かすかを説明しなければなりません。単に、なんとなく上位の運転免許を取得したいだけの人にとっては精神的苦痛で、無駄な時間でしかありません。
また、本当にコンサルタントの職業相談を必要とする失業者は、公共職業訓練(無料)でジョブ・カードを作成して運転免許を取得するほうがより「お得」です。
すでに別の機会にジョブ・カードを作成したことがある場合はコンサルティングが1時間程度で終わりますから「お得」と言えますが、そうでなければ特定一般教育訓練を受講するメリットはあまりないと思われます。
6.特定一般教育訓練で免許を取得するまでの流れ
支給要件照会
支給要件照会とは、ハローワークに「支給要件照会票」を提出して受給資格の有無のほか、希望する自動車学校の講座が厚生労働大臣の指定を受けているかどうかも確認することです。支給要件照会は必須の手続きではありませんが、事前に行っておくことをおすすめします。
支給要件照会で確認できること
- 自分が受給資格があるか
- 希望するコースが厚生労働大臣の指定を受けているか
- その指定が「特定一般」か「一般」か
受給資格確認
前述のとおり、特定一般教育訓練の場合は、受講開始の1か月前までにジョブ・カードの作成、訓練前キャリアコンサルティング、受給資格確認の手続きを済ませておく必要があります。一般教育訓練の場合は不要です。
なお、車種によっては教習車両の台数に限りがあるため、受講できない場合が有りますのでご注意ください(自動車学校に事前に確認しておいたほうが良い)。
入校手続き
一般教育訓練の受講を申し込むときには、「教育訓練給付金支給要件回答書」の提出が必要となる場合が有りますが、特定一般教育訓練の場合は不要です。
特定一般教育訓練の場合、ハローワークですでに受給資格の確認をしており「教育訓練給付金(特定一般教育訓練)受給資格確認通知書」が交付されています。この確認通知書を提示すればよいです。
- 一般教育訓練:支給要件回答書(受講申し込みの際に必要となる場合がある)
- 特定一般教育訓練:受給資格確認通知書
支給申請
入校してから卒業するまでの教習は一般教育訓練の場合と同じです。
特定一般教育訓練給付金の支給申請手続きは、特定一般教育訓練の修了後1か月以内に本人の住所を管轄するハローワークに「教育訓練給付金支給申請書」を提出することによって行います。このとき「教育訓練給付金(特定一般教育訓練)受給資格確認通知書」を添付します。また、教習所が発行した「教育訓練修了証明書」「領収書」を添付します。
支給決定7日以内にハローワークから指定の口座に給付金が振り込まれます。
7.特定一般教育訓練を実施する教習所一覧
2023年(令和5年)4月1日現在で、大型自動車第一種免許、大型自動車第二種免許、大型特殊自動車免許、けん引免許、準中型自動車第一種免許、中型自動車第一種免許、中型自動車第二種免許、普通自動車第二種免許のうち1つ以上取得可能な特定一般教育訓練を1つ以上実施している自動車教習所は次のとおりです。
これらの自動車教習所のなかには一般教育訓練や一般の教習を行っているものも含まれています。全部で29校ありますが、特定一般教育訓練実施者のない都道府県もあります。
- 愛国自動車学校(北海道)
- 美しが丘自動車学校(北海道)
- 亀田自動車学校(北海道)
- 函館自動車学校(北海道)
- 美唄自動車学校(北海道)
- 一関第一自動車学校(岩手県)
- 紫波中央自動車学校(岩手県)
- 千厩自動車学校(岩手県)
- 花北モータースクール(岩手県)
- 気仙沼中央自動車学校(宮城県)
- 仙台北自動車学校(宮城県)
- 寒河江自動車学校(山形県)
- マツキドライビングスクール白鷹校(山形県)
- 行田自動車教習所(埼玉県)
- 足立自動車学校(東京都)
- トヨタドライビングスクール東京(東京都)
- 平和橋自動車教習所(東京都)
- 武蔵境自動車教習所(東京都)
- 柏崎自動車学校(新潟県)
- 新発田自動車学校(新潟県)
- 水原自動車学校(新潟県)
- 豊栄自動車学校(新潟県)
- 新潟自動車学校(新潟県)
- 山陽自動車学校(広島県)
- 広島県尾道自動車学校(広島県)
- 広島中央自動車学校(広島県)
- 備南自動車学校(広島県)
- 鳴門自動車教習所(徳島県)
- 日向自動車学校(宮崎県)
なお、この一覧表は当サイトが研究および分析のために独自に取得したデータであり、内容は一切保証しません。時季によっては教育訓練を実施していない場合もありますから、講座の詳細は各自動車学校へお問い合わせください。
8.補足説明
同時に複数の特定一般教育訓練を受講することはできません。また、事前の手続きが必要であるため、入校してから特定一般教育訓練に切り替えることは不可能です。