法令解説・雑記

教育訓練を受講すれば自己都合退職であっても基本手当の給付制限が無くなる

雇用保険の基本手当には、自己都合退職などの場合に原則1か月間の給付制限があります。しかし、離職後にハローワークの指導を受けて公共職業訓練や認定された教育訓練を受講すると、この給付制限が解除され、待機期間(7日間)経過後から基本手当を受け取ることが可能です。早期の生活支援を行いながら、再就職に必要なスキル習得を後押しする仕組みとなっています。

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1.基本手当の給付制限について

原則

雇用保険の被保険者が失業したときには、失業者の生活保障のため、ハローワークから基本手当(いわゆる失業保険金、失業手当と呼ばれるもの)が支給されます。

特に、賃金未払いや倒産など再就職の準備をする時間的余裕がないまま離職を余儀なくされた人(特定受給資格者)や、定年、契約期間満了などやむを得ない理由によって退職した人(特定理由離職者)は、受給資格決定後、待期期間7日を待つだけで支給されます。

待期7日+給付制限

失業が自己都合の場合は、7日間の待期期間満了後、さらに1か月または3か月間は支給されません。これを基本手当の「給付制限」といいます。

  • 自己都合退職:1か月【令和7年4月改正】
  • 過去5年間に2回以上自己都合退職:3か月
  • 本人に責任のある重大な理由による解雇(重責解雇):3か月

基本手当は受給資格決定後、待期7日+給付制限1か月または3か月間の経過後に支給されます。

2.給付制限の解除とは

概要

公共職業訓練や教育訓練の受講は再就職につながることから、再就職のために教育訓練を積極的に受講した場合には、受講開始日以降の給付制限(1か月または3か月間)が解除されて、基本手当が支給されます。

参考リンク

令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00045.html

対象となる給付制限

自己都合退職の場合は1か月の場合も3か月の場合も解除となりますが、重責解雇された場合は対象外です。

  • 自己都合退職:1か月→給付制限解除
  • 過去5年間に2回以上自己都合退職:3か月→給付制限解除
  • 本人に責任のある重大な理由による解雇(重責解雇):3か月→対象外×

対象となる教育訓練

これまで、ハローワークの指示による公共職業訓練等の受講により給付制限が解除されていました。

  • 公共職業訓練(離職者訓練)
  • 求職者支援訓練(求職者支援制度に基づく認定職業訓練、雇用保険受給手続き中でも受講可能)

2025年法改正により、厚生労働大臣指定の教育訓練等も対象となりました。ただし、給付制限解除の法改正は2025年(令和7年)4月1日に施行されたため、教育訓練については2025年(令和7年)4月1日以降に受講を開始した場合に限られます。

  • 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練(一般特定一般専門実践
  • 短期訓練受講費の支給対象となる教育訓練
  • 被保険者又は被保険者であった者が自発的に受講する訓練であって、その訓練の内容に照らして雇用の安定及び就職の促進に資するものとして職業安定局長が定めるもの

受講開始日が2025年3月までの場合、訓練修了が2025年4月以降であっても対象外です。

参考法令
雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年5月17日法律第26号)附則第2条

第一条の規定(前条第一号及び第二号に掲げる改正規定を除く。次条第一項において同じ。)による改正後の雇用保険法(以下「新雇用保険法」という。)第三十三条第一項第二号及び第三号(雇用保険法第三十七条の四第六項において準用する場合を含む。)の規定は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後に新雇用保険法第三十三条第一項第二号に規定する訓練を開始した受給資格者(雇用保険法第十五条第一項に規定する受給資格者をいう。次条第二項において同じ。)について適用する。

3.対象者と給付制限解除の期間

離職日前1年以内に訓練を受けた場合

基本手当の受給資格者が令和7年4月1日以降に教育訓練の受講を開始し、受給資格に係る離職日前1年以内にその訓練を受けていた場合は対象となります。この場合の基準日は「訓練修了日」です(受講開始日や支給決定日ではない)。

つまり、受講開始日が離職の1年以上前であっても、その訓練を離職日前1年以内に修了していれば対象となります。ただし、途中退校は対象外です。

離職日前1年以内に教育訓練を受け、すでに修了した場合は全ての期間が解除となります。つまり、受給資格決定後、待期期間7日を待つだけで支給されます。

離職日以後に訓練を受ける場合

離職日以後に教育訓練を受ける場合は、教育訓練を受ける期間及び当該訓練を受け終わった日後の期間について解除となります。

簡単に言えば、受講開始日以降だけが対象となります。

給付制限が解除されるのは受講開始日以降に限られますので、給付制限期間満了後に教育訓練の受講を開始した場合は対象外となります。したがって、少なくとも給付制限期間満了までには受講を開始する必要があります。

参考法令
雇用保険法 第33条第1項柱書

被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合には、第二十一条の規定による期間の満了後一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。ただし、次に掲げる受給資格者(第一号に掲げる者にあつては公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける期間及び当該公共職業訓練等を受け終わつた日後の期間に限り、第三号に掲げる者にあつては第二号に規定する訓練を受ける期間及び当該訓練を受け終わつた日後の期間に限る。)については、この限りでない。

4.申出が可能となる日

離職時にすでに教育訓練を開始または修了していたとしても、離職票がなければ離職理由が分からないので、給付制限解除の申出は離職票の提出(求職申込、受給資格決定日)と同時かそれ以降となります。

また、給付制限解除の申出は教育訓練を開始または修了している必要があるため、教育訓練を開始する前に申し出ることはできません。

5.申出の期限

受講開始が受給資格決定日より前の場合

離職時にすでに教育訓練を開始または修了していた場合、受給資格決定後の初回認定日までに申し出る必要があります。受給資格決定日や初回認定日当日でも良いです。

  • 受給資格決定日
  • 雇用保険説明会等の実施日
  • 受給資格決定後の初めての失業の認定日(初回認定日)

初回認定日に給付制限の解除の申出を行わなかった場合は、その次の認定日に申出をしたとしても給付制限は解除されません(詳しくは後述)。

受講開始が初回認定日より前の場合

教育訓練の受講開始が初回認定日より前の場合、受講開始日から初回認定日までの間に申し出る必要があります。初回認定日当日でも良いです。申出をすると、受講開始日以降について給付制限が解除となります(受講開始日より前は解除にならない)。

この場合も、初回認定日に給付制限の解除の申出を行わなかった場合は、その次の認定日に申出をしたとしても給付制限は解除されません。

受講開始が初回認定日以降の場合

給付制限が1か月で、受給資格決定後初めての失業認定日(初回認定日)以降の給付制限期間中に受講を開始した場合は、その受講開始直後の認定日までに申し出る必要があります。認定日当日でも良いです。

この場合も、受講開始日以降の給付制限が解除となります。

受講開始直後の認定日に給付制限の解除の申出を行わなかった場合は、その次の認定日に申出をしたとしても給付制限は解除されません(詳しくは後述)。

受講開始が給付制限期間中の場合

給付制限が2か月以上で、初回の失業認定日以後の給付制限期間中に教育訓練等の受講を開始する場合は、受講開始日直後の「失業認定日に相当する日」までに申出をする必要があります。

失業認定日に相当する日(認定日の相当日)は、当該訓練の受講開始日から給付制限が無かったと仮定した場合において失業認定日として指定される日(初回の失業認定日の4週間後等)のことです。

本来、初回認定日以降に給付制限期間中の認定日はありませんが、初回認定日と週型と曜日が同一の「失業認定日に相当する日」までに給付制限の解除を申し出て、「失業認定日に相当する日」の前日までの失業認定を受け、基本手当を受給することができます。

認定日に相当する日までに給付制限解除の申出をしなかった場合、その日までの給付制限は解除されません。

ただし、期限を過ぎたとしても申出自体は有効です。例えば、「失業認定日に相当する日」に申出をせず、給付制限満了後の初回支給認定日までに給付制限解除の申出を行った場合は、失業認定日に相当する日の翌日から給付制限が解除されます(詳しくは後述)。

受講開始が認定日の相当日以降の場合

受講開始が「失業認定日に相当する日」以降で、給付制限期間満了後の失業認定日前である場合は、「給付制限期間満了後の失業認定日」までに申し出をする必要があります。

給付制限期間満了後の失業認定日に給付制限の解除の申出を行わなかった場合は、その次の認定日に申出をしたとしても給付制限は解除されません。

6.求職活動実績

給付制限の解除を申し出て、失業認定を受ける場合、通常の失業認定と同様、認定日数に応じた職業相談等の求職活動実績が必要です。

教育訓練を受講していれば原則として求職活動実績として認められますが、失業認定期間中に教育訓練の受講を開始または修了した場合で、その失業認定期間のうち教育訓練を受けていない期間が14日以上ある場合は、教育訓練以外の求職活動実績が必要となります。

7.必要書類

申出の期限に必要書類が間に合わない可能性がある場合は、申出の期限までにハローワークに連絡しておいたほうが良いです。

すでに訓練を修了している場合

すでに訓練を修了している場合、訓練修了日を確認することができる書類を提出します。

  • 訓練修了日が記載された受講証明書または修了証明書
  • 訓練実施施設による訓練修了日の証明書

ただし、教育訓練給付金の申請時にこれらの書類を提出済みの場合など、ハローワークのシステムや既に提出している書類から訓練修了日を把握できる場合は提出不要です(「書類の提出を省略して差し支えない」とされています)。その旨を申し出るだけで良いです。

受講中の場合

受給資格決定以降に受講を開始する場合または受給資格決定時に受講中の場合、訓練開始日を確認することができる書類を提出します。

  • 訓練開始日が記載された教育訓練経費に係る領収書
  • 訓練実施施設による訓練開始日の証明書(「給付制限解除に係る証明書」)

ただし、既にハローワークのシステムや既に提出している書類から訓練開始日を把握できる場合は提出不要です(「書類の提出を省略して差し支えない」とされています)。その旨を申し出るだけで良いです。

参考法令
雇用保険法施行規則 第48条の3

受給資格者は、法第三十三条第一項ただし書(同項第二号及び第三号に係る部分に限る。)に該当する場合には、失業の認定又は求職の申込みの際に、前条に定める訓練を開始した日及び修了した日を確認することができる書類その他職業安定局長が定める書類を管轄公共職業安定所の長に提出して、その旨を申し出るものとする。
2 前項の受給資格者は、同項の規定にかかわらず、職業安定局長が定めるところにより、前条に定める訓練を開始した日及び修了した日を確認することができる書類を提出しないことができる。

「給付制限解除に係る証明書」は教育訓練施設が発行するものであり、受講者本人が記入するものではありません。

8.申出の方法

離職票を提出したハローワーク(受給資格決定、失業認定を行うハローワークの窓口)に出頭して職員に対して口頭で申告します。「申出書」のような書類はありません。なお、認定日ではない日に出頭した場合は、本人確認のため被保険者証や本人確認書類が必要な場合があります。

電子申請、郵送による手続きは不可です。

9.補足

給付制限期間の改正

2025年(令和7年)4月1日の雇用保険法改正により、自己都合退職による基本手当の給付制限期間が2か月から1か月に短縮されました。

この改正は2025年4月1日以降に退職した人に適用されます。それ以前の離職者は2か月です。

基本手当と教育訓練給付金

雇用保険の基本手当と教育訓練給付金は目的が異なるため、併用することが可能です。つまり、基本手当を受給しながら、教育訓練給付金(一般、特定一般、専門実践)や短期訓練受講費を受給することが可能です。

ただし、教育訓練「支援」給付金との併給はできません。基本手当の方が優先され、基本手当の支給が終わってから教育訓練支援給付金が支給されます。

申出の期限の理由について

申出の期限があるのは28日以上の遡及を認めないためです。簡単に言えば、失業認定のやり直しを避け、基本手当を28日分以上給付しないようにするための制限です。

受講開始直後の認定日

前述のとおり、給付制限の解除の申出の期限は、受講開始直後の認定日であり、それ以降に給付制限の解除の申出を行ったとしても、給付制限は解除されません。

それは、申出が無いまま1度失業認定をすると、それを前提として基本手当が計算されて支給されるので、そのあとに申出を認めてしまうと、遡及して失業認定を行う(教育訓練開始にさかのぼって認定しなおす)必要があるからです。

認定日に相当する日

給付制限が2か月または3か月の受給資格者で、教育訓練受講開始から給付制限満了後の認定日までに「認定日に相当する日」がある場合、給付制限の申出の期限は受講開始直後の「認定日に相当する日」です。

それは、教育訓練開始にさかのぼって給付制限の解除を認めてしまうと、「認定日に相当する日」が正規の失業認定日となり、その日にハローワークに出頭していない(失業状態を確認していない)にもかかわらず、失業認定をすることになるからです。

しかし、「認定日に相当する日」から給付制限満了後の支給失業日までの期間(4週間)については、それを前提として失業認定を行うことができるので、その期間だけは給付制限解除が認められます。

参考法令
雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)52205-2ホ

給付制限後の失業認定日に認定を受けて基本手当が支給された後、当該失業認定日の次の失業認定日等に給付制限期間前や給付制限期間中にイに掲げる訓練を受けたものとして給付制限の解除の申出があったとしても、遡及して失業認定を行うことはできない。
また、給付制限が2か月又は3か月の受給資格者でニに掲げる認定日として指定されるべき日までに給付制限の解除を申し出なかった場合に、当該失業認定日の次の失業認定日等にイに掲げる訓練を受けたものとして給付制限の解除の申出があったとしても、二に掲げる認定日として指定されるべき日以前について、遡及して失業認定を行うことはできない

教育訓練の修了について

離職日より前に訓練を修了した場合は、離職前1年以内に修了したことを確認するため、訓練修了日を確認することができる書類を提出します。「修了」の証明が必要なので途中退校は不可です。

しかし、離職後に受講を開始して受講中の場合、訓練開始日=給付制限解除日なので、訓練開始日を確認することができる書類を提出します。訓練の「開始」を証明した場合は、その修了を証明する必要はありません。つまり、その後に途中退校してもOKです。

ただし、途中退校の場合は教育訓練給付金の支給対象とはなりません。

参考法令
雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)52205-2ヘ

給付制限の解除を受けようとする者は、訓練開始日若しくは訓練修了日を確認することができる書類(訓練開始日が記載された教育訓練経費に係る領収書、訓練修了日が記載された受講証明書や修了証明書)又は訓練実施施設による訓練開始日若しくは訓練修了日の証明書を提出しなければならない。なお、教育訓練給付金を受給しているなどシステムや既に提出している書類から訓練開始日や訓練修了日が把握できる場合には、その旨を申し出ることで、訓練開始日又は訓練修了日を確認することができる書類の提出を省略して差し支えない。