行政書士は官公署への許認可に関する書類や法律関係の書類を作成し、手続きを代行する国家資格であり、教育訓練制度が適用される公的職業資格です。行政書士試験対策講座は一般教育訓練給付制度または特定一般教育訓練給付制度の対象とされています。
1.行政書士について
行政書士( Certified Administrative Procedures Legal Specialist )は、他人の依頼を受け報酬を得て、業として官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成する資格です。
行政書士の資格の無かった時代には、専門知識が無いにもかかわらず独学で法律を勉強して片手間で書類作成を代行する業者が現れ、自己の利益を図るために必要のない訴訟の提起をすすめたり、手間のかかる訴訟を安価で買い取って利益を得ることが横行していました。さらに、高額な料金を請求したり、依頼者から預かった実印を悪用するなどの悪徳業者が現れ、各地方自治体が条例によって取り締まっていました。
その後、1951年(昭和26年)に行政書士法が制定され、行政書士の制度が創設されました。
2.行政書士の業務
行政書士の独占業務
行政書士が独占的に行うことができる業務は、官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類の作成(書類には電磁的記録を含む)と手続きの代行です。これらの書類作成は行政書士の資格が無ければ行うことができません。
行政書士の独占業務(例)
- 官公署に提出する書類:許認可申請、営業許可関係、電子申請、届出書類、自動車関連
- 権利義務に関する書類:契約書、遺言書、遺産分割協議書、内容証明、公正証書、示談書、告訴状
- 事実証明に関する書類:会計帳簿、財務諸表、議事録
その他独占業務に付随する業務
その他、依頼者から書類の作成についての相談を受け、書類作成のための現地調査や資料収集などの付随業務があります(行政書士法第1条の3)。さらに、許認可に関して申請者の聴聞または弁明の必要がある場合、申請者に代わって行政書士が行うことも可能です。
行政書士の業務(例)
- 意見陳述:行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法第2条第3号に規定する許認可等及び当該書類の受理)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為について代理すること(ただし、弁護士法第72条に該当するものを除く)
- 代理:行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること
- 相談:行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること
職務上請求
行政書士は法律系資格でいわゆる「士業」の一つとされ、そのなかでも、受任している事務に関する業務を遂行するために必要がある場合に、戸籍や住民票などの交付の請求をする権限が認められている「8士業」の一つです。行政書士は8士業のなかで最も難易度が低く、学習期間1年以内に合格することも可能です。
特定事務受任者(8士業)
- 弁護士
- 司法書士
- 土地家屋調査士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 弁理士
- 海事代理士
- 行政書士
3.行政書士試験の概要
試験実施機関(総務大臣指定試験機関)
行政書士試験は行政書士法で定められた国家試験です。行政書士となるには、行政書士試験に合格し日本行政書士会連合会に備える行政書士名簿に登録を受けなければなりません。
行政書士試験は法律上、各都道府県知事が実施することになっていますが、2000年度(平成12年度)の試験から、総務大臣が指定した指定試験機関である一般財団法人行政書士試験研究センターがすべての都道府県知事の委任を受けて実施しています。
そのため、試験の申し込みは行政書士試験研究センターに対して行い、すべての都道府県に1つ以上の試験会場を設置して実施します。住所に関係なく、全国の試験場で受験できます。
受験資格、試験形式
受験資格は特にありません。年齢、学歴等に関係なく、誰でも受験できます。行政書士試験は年1回、通常は11月第2日曜日に実施されます。60問300点満点、試験時間は13時~16時の3時間です。
出題の形式は「行政書士の業務に関し必要な法令等」が5肢択一式または40字程度の記述式、「行政書士の業務に関連する一般知識等」が5肢択一式です。
行政書士試験の出題分野
- 法令等(46問):憲法、民法、行政法、商法、会社法、基礎法学
- 一般知識等(14問):政治・経済・社会、情報通信技術、個人情報保護法、文章理解
法令等が50%以上の得点率、一般知識等が40%以上の得点率、全体で60%以上の得点率をすべて満たした場合に合格となります。
合格基準点
- 法令等:得点率50%(244点満点中122点以上)
- 一般知識等:得点率40%(56点満点中24点以上)
- 合計点:得点率60%(300点満点中180点以上)
4.行政書士と教育訓練給付制度
業務独占資格、名称独占資格
前述のとおり、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類の作成業務は行政書士の独占業務であり、他の法律に別段の定めがある場合等を除いて、行政書士でない者が業として行うことはできません(罰則:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)。行政書士の資格は国家資格のうち業務独占資格に該当します。
また、行政書士試験に合格し日本行政書士会連合会に備える行政書士名簿に登録された行政書士でない者は、行政書士またはこれに紛らわしい名称を用いることができません(罰則:100万円以下の罰金)。行政書士は名称独占資格(法令の規定により当該資格を有しない者の当該資格の名称の使用が禁止されている資格)に該当します。
一般教育訓練、特定一般教育訓練の対象となる
教育訓練給付金は、厚生労働省の指定基準に従って、「厚生労働大臣が教育訓練給付対象講座として指定した講座」を修了した場合に支給されます(雇用保険法第60条の2)。
厚生労働大臣が指定する教育訓練には、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3種類があり、公的職業資格のうち業務独占資格や名称独占資格の取得を訓練目標とする講座で、かつ、訓練期間が1年未満の講座は一般教育訓練または特定一般教育訓練の対象となります。
なお、国家試験等の受験対策のみを目的とした教育訓練については、専門実践教育訓練の対象とはなりません。
教育訓練給付金の受給資格と支給申請手続き
教育訓練給付金の受給資格と支給される条件、具体的な給付金の支給申請手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
5.厚生労働大臣の指定を受けた講座に限られる
行政書士試験対策講座がすべて教育訓練給付制度の対象となるわけではありません。
厚生労働大臣指定講座
教育訓練給付金は、「厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合」に支給されます。具体的には、雇用保険法施行規則第101条の2の2の規定により教育訓練施設があらかじめ厚生労働省に対して「教育訓練給付対象講座の指定」を申請し、厚生労働大臣が教育訓練施設に対して「講座指定通知書」を交付することによって指定を受けた講座に限られます。
さらに、教育訓練給付金を受給できるのは「最初に教育訓練給付制度を利用することを申し出て、講習を申し込んだ人」だけです。それ以外の人はすべて給付の対象外です。
禁止されていること
- 講習の途中に教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
- 卒業した後で教育訓練給付制度の適用を申し込むこと
教育訓練を探す方法
教育訓練給付対象講座の指定を受けている行政書士試験対策講座は、厚生労働省の「厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム」で検索することができます。
6.教育訓練修了証明書と行政書士証票
試験に合格しなくても教育訓練給付金はもらえる
教育訓練給付金は、「厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合」に支給されます。この場合の「修了」とは、教育訓練給付対象講座の指定を受けている行政書士試験対策講座を適切に受講して、教育訓練施設が独自に定める修了認定基準(修了試験やレポートなど)によって修了が認定されることをいいます。
行政書士試験対策講座を途中でやめた場合は支給対象外ですが、対策講座が修了すれば教育訓練給付金の支給を申請することができます(修了した時点で支給を受ける権利が発生する)。
その後の行政書士試験に合格しなくてもかまいませんし、合格したかどうかをハローワークに報告する義務もありません。また、不合格だったからといって給付金を返還しなくてもよいですし、受験しなかったとしても給付金の支給を受ける権利はあります。
教育訓練給付金の支給とは無関係(支給を受けられます)
- 行政書士試験に合格しなかった
- 行政書士試験を受験しなかった
- 行政書士試験を受験する前に申請するのもOK
- 行政書士試験の合格発表の前に申請するのもOK
教育訓練修了証明書
行政書士試験の対策講座を修了したとしても試験対策の講座が終わっただけなので、行政書士になる資格や行政書士試験は得られません。そのため、通常は「修了証明書」のような書類が交付されることはありませんし、仮に交付されたとしても何の効果もありません。
しかし、教育訓練給付対象講座の指定を受けている行政書士試験対策講座を修了すると、「教育訓練修了証明書」が交付されます。この教育訓練修了証明書をハローワークに提出すると教育訓練給付金の支給を受けることができます。
行政書士証票、行政書士登録証
行政書士試験に合格し、登録を受けて交付される行政書士証票や行政書士登録証は行政書士の資格を証明するものであり、教育訓練給付対象講座を受講したことの証明にはなりません。ハローワークや教育訓練給付制度とは無関係の書類です。
7.特定行政書士、申請取次行政書士
特定行政書士
行政書士が作成した許認可申請が認められなかった場合に、不服申立ての手続きを行うことは弁護士の独占業務であるため、通常の行政書士が行うことはできません。しかし、特定行政書士の資格を持つ行政書士は、許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、その手続について官公署に提出する書類を作成することができます。
特定行政書士は、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」の課程を修了した行政書士です。なお、特定行政書士法定研修は教育訓練給付制度の対象外です。
申請取次行政書士
外国人を雇用する場合や日本に在留を希望する外国人は出入国在留管理局へ在留期間更新許可申請等や在留カードの手続を行う必要があります。この際、原則として自ら地方出入国在留管理局へ出頭しなければなりませんが、その例外として申請取次行政書士に依頼することによって申請等の取次ぎを行うことができます(申請等取次制度)。申請取次行政書士に申請をすると、外国人本人は出入国在留管理局への出頭が免除されます。
申請取次行政書士は、日本行政書士会連合会の申請取次関係研修(出入国管理に関する研修)を修了した行政書士で、所属する行政書士会を経由して地方出入国在留管理局長に届出をした行政書士です。なお、行政書士申請取次関係研修は教育訓練給付制度の対象外です。
8.補足説明
教育訓練給付金以外の制度について
ハローワークでは失業者(求職者)向けの職業訓練を実施しています。テキスト代とその他実費は自己負担ですが、受講料は無料となります。
また、雇用保険に加入したことが無く、または無職の期間が長かったために教育訓練給付金の受給資格がない場合、求職者支援制度により月10万円の職業訓練受講手当や通所手当、寄宿手当が支給される場合があります。
ひとり親家庭(母子家庭の母または父子家庭の父)の場合、事前に都道府県または市区町村役場(福祉事務所、福祉担当部署)の窓口で相談をしてから受講し修了した場合、教育訓練経費の60%が支給されることがあります。