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雇用保険の加入は事業主の義務、拒否することはできない、適用除外の人が加入することもできない _ pr
雇用保険の被保険者

雇用保険の加入は事業主の義務、拒否することはできない、適用除外の人が加入することもできない

雇用保険は条件を満たした労働者は加入義務があり、その手続きは事業主の義務です。法律で被保険者の範囲を定めているので本人が拒否することはできません。また、失業のリスクのない人が加入することもできません。

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1.強制保険の理由

いっぱんに保険とは、多数の者が参加して保険料を出しあい、集まった資金によって偶発的事故に遭った者に対して保険金を給付する制度です。その加入方法には、被保険者が保険会社に申し込んで加入する任意保険の方式と、当事者の意思のいかんにかかわらず一定の状態にあれば法律上当然に保険関係が成立し、加入または届出の義務がある強制保険の方式があります。

  • 任意保険:希望者が申し込んで加入する
  • 強制保険:法律上当然に成立する、加入または届出の義務がある

雇用保険は、労働者が解雇などにより失業すると生活できなくなる恐れがあることから、事前に保険料を支払うことによって失業時に給付を受ける制度です。

失業中の生活保障は、日本国憲法が保障する生存権、労働権を確保するためのものであり、また、失業者増加による社会不安(生活水準の低下、犯罪や暴動など)を抑えることは国家の施策としても重要です。国民が任意に参加すれば良いというものではありません。

そのため、雇用保険は政府管掌の強制保険とされ、適用事業に雇用される労働者は一定の例外を除き、本人の意思または事業主の意思のいかんにかかわらず法律上当然に被保険者となります。そして、離職したときも法律上当然に被保険者資格を喪失します。

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2.雇用保険と教育訓練給付

雇用保険は失業者に対する給付だけでなく、失業を防ぐための給付も行います。現在雇用保険に加入している人も職業を安定させるために教育訓練を受けた場合は給付を受けることができます。

教育訓練給付は、現在雇用保険に加入しているかまたは1年以内に雇用保険に加入したことのある人が、一定期間雇用保険に加入したことを条件として受けることができます。要件を満たしていない人が教育訓練給付を受けることはできません。

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3.事業主の義務

雇用保険の加入は事業主の義務

上記のとおり、雇用保険の被保険者となることまたは被保険者でなくなることは、本人または事業主の申出を待つまでもなく法律上当然に行われます。しかし、就職や離職があったことを継続的に把握しておかなければ被保険者が失業した場合に迅速な保護をすることができませんが、実際には、ハローワークが個人の就職や離職を完全に把握するのは困難です。

そのため、事業主の届出、労働者からの請求または職権によりその事実を把握する(確認する)ことになっており、事業主は雇用する労働者について、雇用保険の「被保険者となったこと」「被保険者でなくなったこと」をハローワークに届け出る義務があります。

本人が拒否しても、事業主は雇用保険の加入手続きを行う義務があります。加入手続きをしなければ事業主が処罰されるのです。

参考法令
雇用保険法 第7条前段  事業主(徴収法第八条第一項又は第二項の規定により元請負人が事業主とされる場合にあつては、当該事業に係る労働者のうち元請負人が雇用する労働者以外の労働者については、当該労働者を雇用する下請負人。以下同じ。)は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する労働者に関し、当該事業主の行う適用事業(同条第一項又は第二項の規定により数次の請負によつて行われる事業が一の事業とみなされる場合にあつては、当該事業に係る労働者のうち元請負人が雇用する労働者以外の労働者については、当該請負に係るそれぞれの事業。以下同じ。)に係る被保険者となつたこと、当該事業主の行う適用事業に係る被保険者でなくなつたことその他厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

雇用保険の適用条件を満たした労働者は法律上当然に適用されるため、本人の希望で拒否できるわけではありません。また、雇用保険料は事業主と労働者の双方が負担する義務があります。これも拒否することはできません。

どうしても拒否したい場合

雇用保険は1週間の所定労働時間が20時間未満であれば適用除外となります。雇用保険にどうしても加入したくない場合は1週間の所定労働時間が20時間未満となるように労働時間を減らしましょう。

なお、2つ以上のアルバイトを掛け持ちして、その所定労働時間の合計が週20時間以上になったとしても、それぞれが週20時間未満であれば加入義務がありません。週20時間未満のアルバイトを掛け持ちすれば、少なくとも雇用保険については加入義務を避けることができます。

雇用保険への任意加入

雇用保険は、失業のリスクのある人が集まって保険料を支払い、互いの失業のリスクを減らすことを目的としているので、失業のリスクのない人が参加することはできません。逆に、法律上の条件を満たさなければ本人が希望しても加入できません。

自ら事業を行っている個人事業主本人は、雇用保険には加入できないこととなっています。雇用されている労働者でなければ、仮に本人が希望しても雇用保険に加入することはできません。

4.事業主の手続

資格取得の手続き

適用事業の事業主は、その雇用する労働者が被保険者資格を取得した日の属する月の翌月10日までに、「雇用保険被保険者資格取得届」(資格取得届)をその事業所の所在地を管轄するハローワークに提出しなければなりません(雇用保険法施行規則第6条第1項)。

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被保険者証

資格取得届が受理され、雇用保険法第9条の規定により被保険者となったことが確認されたときは、「雇用保険被保険者証」とあわせて「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」が交付されます(雇用保険法施行規則第10条第1項)。

実際には、事業主通知用、被保険者通知用、被保険者証の3つが1枚の用紙で印刷されています。

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資格取得等確認通知書(被保険者通知用)及び被保険者証については、当該確認に係る被保険者に対して速やかに交付しなければならないものですので、事業主は速やかに下半分を切り取って被保険者=労働者に渡さなければなりません。

少なくとも、被保険者通知用(用紙の左下の部分)は、雇用保険の加入手続等がなされたことを被保険者本人が確認するためのものであり、不服がある場合には速やかに申し立て(審査請求)ができることを確保するためのものですから、必ず被保険者本人に渡さなければなりません。

5.確認照会

自分が雇用保険の適用条件を満たしているはずなのに加入していない、または被保険者証の記載内容に誤りがある場合、ハローワークで加入履歴の問い合わせ(確認照会)をすることができます。

6.遅延しても2年以内なら何とかなる

手続きを忘れていたとしても、一定期間遡って雇用保険に加入できますからできるだけ早く加入手続きをするべきです。雇用保険関係の時効は2年なので、2年以内なら何とかなります。ただし、後述のように罰則もあるのでできるだけ適正に手続きをしましょう

手続きが遅延した場合のために、ハローワークには「遅延理由書」という書類が用意されています。「以後、気を付けます」みたいな簡単な反省文のようなものですね(笑)

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7.未加入の罰則、督促と滞納処分

保険料の納付義務

保険料は労働者と事業主の双方が負担しますが、そのうち労働者分については給与から天引きします。天引きした保険料は事業主分と合わせて事業主が納付しなければなりません(労働保険徴収法)。

罰則

雇用保険に加入しなければならない労働者を雇用したにもかかわらず、未加入の場合は事業主が処罰されます。事業主が故意に雇用保険の届出をせず、または偽りの届出をした場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。

参考法令
雇用保険法 第83条第1号  第八十三条 事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 一 第七条の規定に違反して届出をせず、又は偽りの届出をした場合

労働局・ハローワークの職員が、事前予告なしに事業所を訪問して調査することがあります。そして、雇用保険の適用条件を満たす労働者を雇用していたと認められる事業主に対して、必要な報告、文書の提出または出頭を命ずることができます(雇用保険法第76条)。

さらに必要があれば立入検査命令書が発せられ、身分証明書を携行した職員が事業所に立ち入り検査を行うことがあります。立ち入り検査において当該職員の質問に答弁をせず、または偽りの陳述をし、検査を拒み、妨げ、忌避した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります(雇用保険法第79条、第83条第5号)。

督促と滞納処分

労働者がハローワークに確認照会をすれば、雇用保険の加入手続きを怠っていることはすぐにばれます。

事業主が納期限を過ぎても雇用保険料を納付しない場合、「督促状」が送付されます。督促状記載の指定の期限までに、雇用保険料を納付しないときは、国税滞納処分の例によって滞納処分を受けます(財産調査と差し押さえ)。

8.補足説明

任意適用事業

当分の間、農林水産業等の事業については任意適用事業とされ、当該事業の事業主が雇用保険の任意加入の申請をし、厚生労働大臣の認可があった日に保険関係が成立します。

参考法令
雇用保険法 附則第2条第1項  次の各号に掲げる事業(国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業及び法人である事業主の事業(事務所に限る。)を除く。)であつて、政令で定めるものは、当分の間、第五条第一項の規定にかかわらず、任意適用事業とする。  一 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業  二 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業(船員が雇用される事業を除く。)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律 附則第2条第1項  雇用保険法附則第二条第一項の任意適用事業(以下この条及び次条において「雇用保険暫定任意適用事業」という。)の事業主については、その者が雇用保険の加入の申請をし、厚生労働大臣の認可があつた日に、その事業につき第四条に規定する雇用保険に係る保険関係が成立する。

強制保険と届出制

厚生労働大臣(ハローワーク)は、事業主の届出、労働者からの請求または職権により労働者が被保険者となったことまたは被保険者でなくなったことの確認を行うこととなっており、その確認を受けていなければ雇用保険の給付を受けることはできません。

被保険者資格の得喪が法律上当然に行われることと矛盾しているようにも思われますが、厚生労働大臣が被保険者となったことまたは被保険者でなくなったことの確認を裁量で行うのではなく、必ず確認を行う義務があります。また、被保険者または被保険者であった者は、いつでも厚生労働大臣に対して確認を請求することができます。

このことは雇用保険が強制適用であることが前提となっており、(本当は被保険者のはずなのに)加入していなかった人に対して保険給付を行わないことと、強制保険であることは矛盾しません。