教育訓練給付金の支給要件期間は、雇用保険の被保険者資格を持っていた期間で計算しますが、雇用保険加入の届け出をしていなかった場合はさかのぼって資格取得の確認を受けることができます。
1.被保険者資格の遡及確認とは
事業主の届出
雇用保険の被保険者となる従業員を雇用したことにより被保険者資格を取得し、または離職したことにより被保険者資格を喪失したときは、事業主がハローワークに届出をする義務があります。そして、ハローワークでは、その事業主の届出によって雇用保険の被保険者資格の得喪を確認しています。
遡及確認
事業主が届出を怠ったり、何らかの理由でこの届出をしていなかった場合には、本人の確認請求または厚生労働大臣の職権により、過去にさかのぼって被保険者資格の得喪の確認を受けることができます。さかのぼることを「遡及(そきゅう)」といい、さかのぼって確認を受けることを「遡及確認」または遡及適用といいます。
資格得喪の確認は在職中はもちろんのこと、離職した後でも、いつでも請求することができます。
ハローワークは、雇用契約書、労働者名簿、賃金台帳等の確認書類により被保険者となったこと(被保険者でなくなったこと)の事実を確認して、被保険者資格の確認を行います。
2.確認が行われた日
ハローワークにおいて労働者が被保険者となったことを確認したときは、ハローワークが資格取得確認通知書と被保険者証を本人に交付するとともに、被保険者になっていたことが確認された事業主にも通知します。
また、被保険者でなくなったことを確認したときは、ハローワークが資格喪失確認通知書により本人に通知するとともに雇用していた事業主にも通知します。
この場合、被保険者資格の得喪の確認が行われた日とは、この確認通知を実際に外部に表示した日であり、通知書を郵送した場合はその発信の日です。
3.雇用保険料の納付が不明の場合
原則として最大2年まで
本来、長い期間にわたって雇用保険料を納付していない労働者をさかのぼって雇用保険の被保険者とすることは、納付した労働者との間で不公平となります。納付されていない場合、国が事業主に対してその保険料を徴収できる権利は2年で時効となり消滅します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第41条第1項)。
そのため、資格取得日が不明の場合や、資格取得日が分かっていても後述のように雇用保険料が給与から天引きされていたことを書類で証明することができない場合は、確認の日から最大で2年前の日まで遡及確認します。この場合は、労働契約書などにより雇用関係の存在だけを証明すればよく、実際に雇用保険料を支払ったかどうかを証明する必要はありません。
資格取得日が確認の日から2年以内の場合
被保険者となった日を確認することができない場合や、確認の日から2年以内に被保険者資格を取得したことが分かっている場合は、雇用関係の存在を確認することができる最も過去の日までさかのぼって、その日を資格取得日とします。
資格取得日が2年以上前の場合
被保険者資格を取得したと思われる日(さかのぼることのできる最も過去の日)がその確認が行われた日の2年前の日より前であるときは、当該2年前の日に被保険者資格を取得したものとみなされます。
4.雇用保険料の天引きを証明できる場合
2年超遡及適用
上記のように、原則として2年前より過去にさかのぼって確認することはありませんが、雇用保険料が給与から天引きされていたことを証明できる場合は2年前より過去にさかのぼって資格取得日とすることがあります。
つまり、給与明細等の書類によって、被保険者資格の取得の確認が行われた日の2年前の日より前に、雇用保険料(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第32条第1項の規定により被保険者の負担すべき労働保険料に相当する額)が、本人に支払われた賃金から控除されていたことが確認できる場合は、雇用保険料の天引きがあったことが確認できる最も古い日を資格取得日とすることができます。
天引きの証明となる給与明細等の書類とは次のようなものです。
給与明細等の書類
- 給与明細、賃金台帳その他の賃金の一部が労働保険料として控除されていることが証明される書類
- 所得税法第226条第1項に規定する源泉徴収票または法人税法施行規則第67条第1項に定める書類のうち賃金の一部が労働保険料として控除されていることが証明されるもの
なお、被保険者資格の取得日とみなそうとする日が当該者の直前の被保険者でなくなった日よりも前にあるときは、当該直前の被保険者でなくなった日(離職日の翌日)を資格取得日とみなします。
最も古い日の例
賃金計算期間が明らかである場合
給与明細等の書類により、給与支払対象月の賃金計算期間が明らかである場合には、当該賃金計算期間の初日が資格取得日となります。
例えば、平成23年10月分の給与明細で賃金締切日が毎月25日、賃金計算期間が9月26日~10月25日の場合、平成23年9月26日が資格取得日となります。
賃金計算期間が分からない場合
給与明細等の書類の対象年月は確認できるが、日にちや期間を特定できない場合は、雇用保険料の天引きがあったことを確認できる最も古い月の初日が資格取得日となります。
例えば、平成23年10月分の給与明細で賃金計算期間が分からない場合は、平成23年10月が「雇用保険料の天引きがあったことが確認できる最も古い月」となり、その初日である平成23年10月1日が資格取得日となります。
源泉徴収票の場合
所得税源泉徴収票の対象となっている年の途中に就職している場合には、源泉徴収票に就職年月日が記載されているため、その年月日が資格取得日となります。
例えば、源泉徴収票が平成23年分で、中途就職欄に平成23年3月3日と記載されている場合、平成23年3月3日が資格取得日となります。中途就職欄に記載がない場合は平成23年1月が「雇用保険料の天引きがあったことが確認できる最も古い月」となり、その初日である平成23年1月1日が資格取得日となります。
5.支給要件期間と遡及適用
支給要件期間
教育訓練給付金の支給要件期間は、教育訓練の受講開始日までに雇用保険に加入していた期間のことです。一般、特定一般、専門実践教育訓練給付金が受給するには、原則として支給要件期間が3年以上必要です(初回の場合に限り1年以上または2年以上)。
教育訓練給付金の支給要件期間の算定を行う場合も、上記の考え方と同様に、さかのぼることのできる最も古い日に被保険者資格を取得したものとみなします。
雇用保険料の納付が不明の場合
支給要件期間の算定を行う場合も、雇用関係の存在を証明できる書類によって、さかのぼることのできる最も過去の日に被保険者資格を新規取得したものとみなします。ただし、確認の日の2年前の日より前の期間は支給要件期間に算入しません。
例えば、被保険者資格の取得が確認された日(本人に通知した日)が2018年(平成30年)年4月1日で、その2年前の日にあたる2016年(平成28年)4月1日よりも前に被保険者資格を取得したものと確認された場合は、2016年(平成28年)4月1日に被保険者資格を新規取得したものとみなして支給要件期間の算定を行います。
雇用保険料の天引きを証明できる場合
確認の日の2年以上前の日に雇用保険料が天引きされたことを証明できる場合は、さかのぼることのできる最も古い日に被保険者資格を取得したものとみなします。
支給要件期間の対象外の期間
雇用保険料の天引きがあったことの確認を行うことによる遡及確認は、教育訓練給付金の支給要件期間の対象とならない期間については行われません(遡及確認をしても支給要件期間に影響がないから)。
- 1年超の離職期間(被保険者でなかった期間)があるときはそれより前の期間
- 教育訓練給付金の支給を受けたことがあるときはその支給決定日より前の期間
6.支給要件期間の計算の例
(例)A事業所で一般被保険者として2年9か月20日勤務して退職し、離職後1年以内にB事業所に就職した。B事業所で2年超勤務したが、雇用保険の一般被保険者に該当するにもかかわらず、雇用保険に加入していないことに気がついたため、ハローワークに確認請求を行った。ハローワークによる調査の結果、職権により、確認があった日の2年前に被保険者となったものとみなされた(雇用保険料は未納)。その後、さらに一般被保険者として2年5か月7日勤務してB事業所を退職した。
前述のとおり、雇用開始から雇用保険料の天引きがあったかどうかが不明である場合、被保険者となったことの確認が行われた日から2年間さかのぼって被保険者資格を取得したとみなされます。支給要件期間の計算の際には当該2年前の日に被保険者資格を新規取得したものとみなします。「新規取得」なので、それより前は被保険者ではなかった(離職中と同じ)ものと考えます。
そのため、被保険者資格を新規取得したものとみなされる当該2年前の日(雇用開始の日ではない)が、A事業所を離職してから1年以内の場合に支給要件期間を通算することができます。この場合の支給要件期間は、A事業所、B事業所でそれぞれ被保険者であった期間に、遡及適用される2年間を合計して7年2か月27日となります。
これに対して、当該2年前の日が、A事業所を離職してから1年超経過している場合、離職期間が1年超となるためそれより前は支給要件期間の対象外となります。したがって、A事業所で被保険者であった期間は通算されないので、支給要件期間は、B事業所で被保険者であった4年5か月7日(遡及適用の2年を含む)となります。
いずれの場合も、もし確認請求をしていなかったら2年間の遡及適用はなく、支給要件期間は2年5か月7日(3年未満)しかなかったのですが、遡及適用されたことによって支給要件期間3年以上の要件を満たすことになります。
7.確認に関する主な注意点
確認を行う日の2年前の日をまたぐ場合
確認を行う日の2年前の日をまたぐ期間について確認を行う場合、確認を行う日の2年前の日以降の期間については雇用契約書、労働者名簿、賃金台帳等の確認書類により被保険者となったこと(被保険者でなくなったこと)を確認することにより被保険者資格の確認を行います。
また、確認を行う日の2年前の日よりも前の期間については給与明細等の確認書類により雇用保険料の天引きがあったことを確認することにより被保険者資格の確認を行います。
- 2年以内(通常の遡及)・・・雇用契約の存在の有無で確認
- 2年前より過去(2年超遡及)・・・雇用保険料の天引きの有無で確認
保険料の天引きと被保険者資格の継続について
同一の事業主による雇用保険料の天引きがあったことが確認できる書類が複数ある場合には、その最も古い書類と直近の書類から雇用保険料の天引きがあったことを確認することにより、その間の被保険者資格は継続しているものとみなして取り扱います。
すでに被保険者資格の取得が確認された日があって、それが確認を行う日の2年前の日以降である場合には、確認を行う日の2年前の日の前日に雇用保険料の天引きがあったことを確認する必要があります。雇用関係の存在の証明があっても継続とはみなされません。
また、すでに被保険者資格の取得が確認された日が確認の2年前の日より前である場合、当初確認された資格取得日の前日において、雇用保険料の天引きがあったことを確認する必要があります。継続とはみなされません。
離職の確認
被保険者資格の確認が行われた日の2年前の日よりも前の期間について、被保険者でなくなったことの確認を行う場合には、給与明細等の確認書類により雇用保険料の天引きがあったことが確認できる時期の直近の日を離職日とみなします。
なお、給与明細等の書類の対象年月は確認できるが、日にちや期間を特定できない場合は、雇用保険料の天引きがあったことが確認できる直近の月の末日とします。
離職日とみなそうとする日が当該者の直後の被保険者となった日以降にあるときは、当該直後の被保険者となった日の前日をその者の離職日とみなします。
8.補足説明
社労士過去問
被保険者資格の得喪の確認、確認の請求に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。