事業主と同居している親族は、解雇や倒産による失業のリスクが低いことから雇用保険の対象とはなりません。ただし、親族以外の労働者と同じ雇用関係があれば被保険者となる場合があります。
1.同居の親族
同居の親族とは
同居の親族は、社長夫人や社長令嬢のような事業主または役員の家族のことです。
労働基準法には「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」とする規定があります。それは、事業主と同居している親族は事業主の利益を共有しており、通常の労働者と同様の労働関係として取り扱うのが適切ではないからです。
しかし、雇用保険法にはこのような規定はありません。同居の親族のみを使用する事業という理由だけで直ちに適用事業から除外されることはありません。ただし、同居の親族を「雇用保険の被保険者」として扱うかどうかについては雇用の実態によって判断することになります。
親族とは
同居の親族の「親族」とは、事業主と生計を一にする民法第725条に規定する親族、すなわち6親等以内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族をいいます。
下の図の太枠が3親等以内の親族、破線が4~6親等の血族です。配偶者には、婚姻の届出をしていないが、事実上その者と婚姻関係と同様の事情にある者(事実婚)も含まれます(雇用保険法施行規則第6条第5項)。
2.同居の親族の労働者性と雇用保険
労働者性の判断
雇用保険に加入できるのは雇用されている労働者だけです。
実態として労働者として勤務していると認められる場合は労働者として扱われます。これを「労働者性がある」といいます。雇用されていることが明確でない人については、個別に労働者性を判断します。
個人事業主の場合
個人事業主本人は雇用される労働者ではないので被保険者ではありません。また、個人事業主と同居している親族も、原則として被保険者とはなりません。
また、形式的には法人であっても、実質的には法人としての活動が行われておらず代表者の個人事業と同様と認められる場合も、代表者と同居の親族は原則として被保険者とはなりません。
個人事業と同様と認められる例
- 個人事業が税金対策等のためにのみ法人としている場合
- 株式や出資の全部または大部分を当該代表者やその親族のみで保有して取締役会や株主総会等がほとんど開催されていないような状況にある場合
法人の場合
法人の代表者と同居している親族がその法人の取締役等になっている場合は被保険者とはなりません。
法人の代表者と同居している親族が法人に雇用される労働者である場合、雇用関係が明確であれば被保険者となる場合があります(後述)。
3.同居の親族が被保険者となる条件
同居の親族であっても、就業の実態が「雇用」であることを事業主が証明すれば被保険者となる場合があります。具体的には次の条件をすべて満たす場合に被保険者となります。
同居の親族が被保険者となる条件
- 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
- 就業の実態が当該事業所における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等、賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。 - 事業主と利益を一にする地位(取締役等)にないこと。
4.農林水産業の場合
農事組合法人等農林水産業を行う団体が事業主である場合、その団体の構成員及びその同居の親族については、通常は事業主との間に雇用関係が認められないので被保険者とはなりません。また、農林水産業を行う個人事業主と、その個人事業主により生計を維持されている同居の親族も被保険者とはなりません。
ただし、就労実態、賃金支払の実態等から明確に雇用関係があると認められる場合は、被保険者となる場合があります。
5.「同居の親族」雇用実態証明書
事業主と同居している親族が雇用保険に加入するには、事業主が「「同居の親族」雇用実態証明書」を作成してハローワークに提出しなければなりません。その他、登記事項証明書、当該事業所で雇用されている他の労働者の出勤簿等を提出します。雇用保険に入れるかどうかはハローワークが提出書類の内容を見て判断します。
なお、この書類は事業主が作成して提出する義務があります。親族本人が記入・提出することはありません。
6.同居の特例高年齢被保険者
65歳以上の労働者が、2つの事業主の適用事業における週の所定労働時間の合計が20時間以上である場合、厚生労働大臣に申し出ることによって特例高年齢被保険者(マルチジョブホルダー高年齢被保険者)となることができます。
この場合も、申出に係る事業主が同居の親族(婚姻の届出をしていないが、事実上その者と婚姻関係と同様の事情にある者を含む)に該当する場合は、「同居の親族」雇用実態証明書、登記事項証明書、当該事業所で雇用されている他の労働者の出勤簿等を提出します。
7.補足説明
教育訓練給付について
教育訓練給付を受けられるのは雇用保険に加入している労働者(被保険者)もしくは加入したことがある人だけです。労働者性が認められれば教育訓練給付対象者となります。
ただし、現在労働者でない場合であっても過去1年以内に労働者だった人は雇用保険に加入した可能性があるので教育訓練給付を受けられることがあります。