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協同組合や組合法人等の団体の組合員の雇用保険、教育訓練給付 _ pr
雇用保険の被保険者

協同組合や組合法人等の団体の組合員の雇用保険、教育訓練給付

組合とは、複数の組合員が出資をして共同事業を営むために設立された団体のことです。いっぱんに組合員は出資しているだけなので労働をしていませんが、労働者性があれば教育訓練給付の対象となります。

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1.組合と組合員について

会社との違い

会社は、不特定多数の出資者(株主)から資金を得て、株主ではない不特定多数の顧客や得意先に対して事業活動をすることで利益を得る組織です。会社の従業員は、会社が利益を得るために雇用される労働者です。

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これに対して、組合は、個人レベルでは解決できない共通の目的をもっている出資者(組合員)がお金を出し合って共同事業をし、出資者(組合員)自身がサービスを利用することによって自身の生活や事業を向上させる(支援する)ための組織です。共同事業を円滑に運営するために従業員を雇用することはありますが、組合員とは無関係です。

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共同事業の目的

組合員の「共通の目的」には様々なものがあります。個人で活動するよりも組織化することによって信用が得られ、融資や補助金を受けやすいといったメリットもあります。

組合の目的

  • 共同購入:まとめて仕入れることで仕入コストを削減できる
  • 共同販売:ブランド化、展示会、宣伝、ネット販売により販路を拡大する
  • 共同受注:大口の注文や公共事業を受けることができる
  • 共同生産:共同利用施設や高額な設備を導入して生産の効率化を図る
  • 共同研究:研修会によって新しい情報を得る、新製品を開発する
  • 共同管理:労務管理、福利厚生、安全衛生などの管理部門を集約する
  • 金融事業:事業資金の貸し付け、債務の保証、経営相談
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2.組合と労働者性

雇用保険に加入できるのは「雇用される労働者」です。実態として労働者として勤務していると認められる場合は労働者として扱われます。これを「労働者性がある」といいます。

組合の組合員は出資者であり、共同事業によって得られるサービスの提供を受ける利用者です。組合に雇用される労働者ではありません。したがって、原則として雇用保険の被保険者にはなりません。

ただし、組合員が組合の従業員を兼ねる場合、労働の対価として賃金が支払われていれば、組合に雇用される労働者として被保険者になることもあります。勤務実態で判断して雇用関係が明らかであれば被保険者となります。

参考法令
雇用保険法 第4条第1項  この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者であつて、第六条各号に掲げる者以外のものをいう。
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3.組合役員

農業協同組合(JA)、漁業協同組合(JF)等の組合の役員は、株式会社などと同様、雇用関係が明らかでない限り被保険者となりません。また、特定非営利活動法人(NPO法人)その他の法人または法人格のない社団・財団の役員は、雇用関係が明らかでない限り被保険者となりません。

なお、これらの協同組合その他の法人や社団・財団で働く従業員は被保険者となります。

4.企業組合の組合員

中小企業等協同組合法に基づく企業組合は、4人以上で設立できる「簡易な会社」のような組合です。個人事業者や定年退職した勤労者、農業者、主婦、高齢者などが集まって事業をする組合です。

他の組合とは異なり、組合員は原則として企業組合の事業に専念します。企業組合の事業に従事して受け取る所得は、税務上、給与所得とすることができます。会社と異なる点は、行政庁の認可法人であることと、参加する組合員全員が経営者兼従業員となるため立場が平等で上下関係が無いことです。

参考法令
中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第9条の10  企業組合は、商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行うものとする。

企業組合の組合員というだけでは雇用保険の被保険者とはなりませんが、企業組合と組合員との間において組合関係とは別に、組合に属する従業員としての雇用関係も存在することが明らかに認められる場合は、被保険者となります。

企業組合の組合員が被保険者となる条件

  • 使用従属関係
    企業組合と組合員との間に使用従属の関係があること。すなわち、組合員が組合の行う事業に従事し、組合に労働を提供する場合に、他の従業員(非組合員)と同様に組合の支配に服し、その規律の下に労働を提供していること。
  • 賃金支払の実態
    企業組合との使用従属関係に基づく労働の提供に対し、その対償として賃金が支払われていること。

5.有限責任事業組合(LLP)の組合員

有限責任事業組合LLPLimited Liability Partnership)は、2名以上で設立できる「法人格のない会社」のような組合です。個人や法人が共同して事業を営むことを目的とした組合であり、各組合員の長所を生かすための共同事業体です。会社と異なる点は法人格(権利能力)がないことであり、法人税がかかりません。

LLPの組合員は他の組合と同様、出資者であって従業員ではないため、雇用保険の被保険者とはなりません。

また、LLPは法人格がないため、直接雇用契約を結ぶことができません。しかし、LLPの業務執行者の肩書き付き名義(例:~~有限責任事業組合 組合員 山田一郎)で、雇用契約を締結し、従業員を雇用することが可能です。肩書き付き名義でLLPに雇用されている従業員については、雇用保険の被保険者となります。

参考法令
有限責任事業組合契約に関する法律(平成17年法律第40号)第3条第1項  有限責任事業組合契約(以下「組合契約」という。)は、個人又は法人が出資して、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約し、各当事者がそれぞれの出資に係る払込み又は給付の全部を履行することによって、その効力を生ずる。

6.農事組合法人等の団体の構成員、家族等

雇用関係の有無の判断基準

農事組合法人は、農業に係る共同利用施設の設置または農作業の共同化に関する事業などを行う組合であり、他の組合と同様、組合員は出資者であって従業員ではありません。

農事組合法人等農林水産業を行う団体が事業主である場合における当該団体の構成員及びその同居の親族については、当該事業主との間に雇用関係を認められないので、雇用保険の被保険者とはなりません。

参考法令
農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第72条の4  農事組合法人は、その組合員の農業生産についての協業を図ることによりその共同の利益を増進することを目的とする。

また、当該事業を行う個人が事業主である場合における当該事業主の同居の親族についても、当該事業主との間に雇用関係を認められないので、雇用保険の被保険者とはなりません。

ただし、就労実態、賃金支払の実態等から明確に雇用関係があると認められる場合は、被保険者となります。雇用関係の有無は次の7点から判断されます。

雇用関係の有無の判断基準

  • その属する団体の行う事業の経営(事業の計画、実施方法、予算、決算等)が、各構成員ごとにばらばらに行われるのではなく、当該団体の統一ある方針の下で、当該団体の事業として、一体的に行われているかどうか。
  • その属する団体の主要な各種施設、機械器具等の管理及び使用が当該団体を単位として行われているものであるかどうか。
  • 従来、農地等の生産手段を所有し、または使用収益していた者については、その所有権または使用収益権(地上権、永小作権、使用貸借権)の大部分を当該団体に移転した者であるかどうか。
  • 当該団体の一体的な指揮監督を受けて当該団体の事業に常時従事する者であるかどうか。
  • 明確な賃金が支給される者であって、当該団体に労働者名簿、賃金台帳等が整備され、また、給与所得に係る所得税の源泉徴収が行われているかどうか。
  • 他の社会保険の被保険者資格の取得状況はどうか。
  • 法人税法第61条の適用を受ける農事組合法人または漁業組合の組合員でないかどうか。

同居の親族

同居の親族であって主として当該団体の構成員又は個人事業主により生計を維持されている者は、通常は雇用関係が認められないので慎重に判断されます。

同居の親族の「親族」とは、民法第725条に規定する親族、すなわち6親等以内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族をいいます。

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7.森林組合に雇用される者

森林組合は、森林の所有者が森林の保全や林業に関わる事業を共同で行うために設ける協同組合です。森林組合は、組合員の委託を受けて森林の施業、経営、鳥獣害の防止の事業を行うことができます。

参考法令
森林組合法(昭和53年法律第36号)第9条第1項  森林組合(以下この章において「組合」という。)は、次に掲げる事業の全部又は一部を行うものとする。 一 組合員のためにする森林の経営に関する指導 二 組合員の委託を受けて行う森林の施業又は経営 三 組合員の所有する森林の経営を目的とする信託の引受け 四 鳥獣害の防止、病害虫の防除その他組合員の森林の保護に関する事業 五 前各号の事業に附帯する事業

森林組合が、組合員から施業委託を受けた事業を行うため、労働者と直接雇用契約を締結し、他の社会保険においても、労働者と直接雇用関係が成立しているものとして処理されている場合、次の5つの条件をすべて満たせば、その森林組合は適用事業となり、労働者は原則として雇用保険の被保険者となります。

森林組合が適用事業となる条件

  • 当該森林組合の事業経営(事業計画、施行、予算、決算等)、労働者の配置が事業として統一ある方針のもとに一体的に行われていること。
  • 当該森林組合が構成事業主から施業委託を受け、当該契約に基づいて事業を行っていること。
  • 当事者間に直接文書による雇用契約が締結されていること。
  • 労働者が当該森林組合の一体的な指揮監督を受けて専ら当該森林組合の事業に従事していること。
  • 当該森林組合に就業規則、労働者名簿、賃金台帳等が整備され、また、当該森林組合に雇用される労働者として給与所得に係る所得税の源泉徴収が行われていること。

8.補足説明

教育訓練給付について

教育訓練給付を受けられるのは雇用保険に加入している労働者(被保険者)もしくは加入したことがある人だけです。労働者性が認められれば教育訓練給付対象者となります。

ただし、現在労働者でない場合であっても過去1年以内に労働者だった人は雇用保険に加入した可能性があるので教育訓練給付を受けられることがあります。

社労士過去問

会社役員、団体役員の労働者性に関する社労士試験の過去問について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。