社会保険労務士試験・雇用保険法の過去問の解説です。テーマは「教育訓練給付対象者と適用対象期間」です。
1.社労士過去問分析
当サイト内の解説記事
重要論点チェックテスト
「教育訓練給付対象者と適用対象期間」については、次の論点を押さえておくとよいでしょう。それぞれの質問をクリック(タップ)すると回答を見ることができます。
- Q教育訓練給付対象者とは何ですか?
- A
教育訓練給付対象者は、当該教育訓練の受講開始日における在職者(一般被保険者または高年齢被保険者)と、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内に受講を開始する離職者です。「給付対象者」の定義は一般、特定一般、専門実践教育訓練で共通です。
- Q教育訓練給付対象者と受給資格者は同じですか?
- A
いいえ。給付対象者は受講開始日における雇用保険の加入状況のことであり、それだけでは受給資格を得られません。さらに支給要件期間、受給制限、訓練前コンサルティングなどの要件を満たしたときに受給資格者となります。「受給資格」は一般、特定一般、専門実践で異なります。
- Q適用対象期間の延長が認められるのはどのような場合ですか?
- A
離職後1年以内(一般被保険者または高年齢被保険者でなくなってから1年以内)にやむを得ない事由により、連続して30日以上教育訓練を開始することができない期間がある場合は、適用対象期間の延長が最大20年まで認められます。
- Q適用対象期間の延長が認められた場合、教育訓練支援給付金も必ず支給されますか?
- A
いいえ。適用対象期間の延長は最大20年まで認められますが、教育訓練支援給付金については4年以内に受講を開始しなければなりません。
- Q基本手当や傷病手当を受けていても適用対象期間の延長が認められますか?
- A
はい。基本手当や傷病手当の受給と適用対象期間の延長は無関係です。
- Q適用対象期間の延長の申請は、当該教育訓練の受講を開始した後に行いますか?
- A
いいえ。適用対象期間の延長はやむを得ない事由が止んだ後、延長が認められた場合の延長期間内であればいつでも申請できます。教育訓練の受講申し込みをしている必要はなく、どの教育訓練を受けるかを決める必要もありません。
社労士試験について
社会保険労務士試験について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.令和5年択一問7選択肢A
令和5年(2023年実施、第55回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問7の選択肢Aです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Aのみ抜粋) 〔問 7〕教育訓練給付金の支給申請手続に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 A 特定一般教育訓練期間中に被保険者資格を喪失した場合であっても、対象特定一般教育訓練開始日において支給要件期間を満たす者については、対象特定一般教育訓練に係る修了の要件を満たす限り、特定一般教育訓練給付金の支給対象となる。
正解
選択肢Aの記述は正しいです。
解説
教育訓練給付対象者とは
教育訓練給付対象者は、一般被保険者または高年齢被保険者である者(在職者)と、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内にある者(1年以内の離職者)です。
このことは一般、特定一般、専門実践の教育訓練給付金において共通です。
「教育訓練給付対象者」の基準日は当該教育訓練を開始した日です。教育訓練受講開始日において一般被保険者または高年齢被保険者(在職者)であった場合、その後、被保険者資格を喪失しても「教育訓練給付対象者」であることに変わりはありません。
支給要件期間の基準日
支給要件期間は、基準日(教育訓練受講開始日)までの間に同一の事業主の適用事業に引き続いて被保険者として雇用された期間です。当該教育訓練の受講開始日において支給要件期間を満たす者が支給の対象となります。
正解と法的根拠
受講開始日において教育訓練給付対象者に該当し、かつ支給要件期間を満たしたうえで、教育訓練を修了すれば支給対象となります。
以上のことは、雇用保険法第60条の2に規定されています。したがって、選択肢Aの記述は正しいです。
3.令和3年択一問6選択肢E
令和3年(2021年実施、第53回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問6の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 6〕教育訓練給付に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 なお、本問において、「教育訓練」とは、雇用保険法第60条の2第1項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する教育訓練のことをいう。 E 一般被保険者でなくなって1年を経過しない者が負傷により30日以上教育訓練を開始することができない場合であって、傷病手当の支給を受けているときは、教育訓練給付適用対象期間延長の対象とならない。
正解
選択肢Eの記述は誤りです。
解説
適用対象期間とは
教育訓練給付金の対象者は、教育訓練の受講開始日において一般被保険者または高年齢被保険者である者(在職者)と、受講開始日が一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内にある者(1年以内の離職者)です。
直前に一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から受講開始日までの教育訓練給付の対象となりうる期間、つまり、離職してから受講を開始するまでの期間(通常は1年以内)のことを「適用対象期間」といいます。
適用対象期間の延長とは
離職して1年以内に教育訓練を開始しなければなりませんが、その1年以内に教育訓練を開始できない事情がある場合にその期間を最大20年まで延長することができます。離職して1年以内に特別な事由が生じたために「1年以内」の期間を延長することを「適用対象期間の延長」といいます。
適用対象期間を延長するには、延長する事由がやんだ日の翌日から、延長後の適用対象期間の最後の日までの間に、教育訓練給付適用対象期間延長申請書と証明書類をハローワークに提出して申請します。
延長が認められた場合は、教育訓練給付適用対象期間延長通知書が交付されます。この延長通知書は、給付金の支給申請時や受給資格確認時に添付書類として提出します。
延長が認められる事由
適用対象期間の延長が認められるのは、離職して1年以内に妊娠、出産、育児、疾病、負傷その他管轄公共職業安定所の長がやむを得ないと認める事由があって、連続して30日以上教育訓練を開始することができない場合です。連続29日以内の場合は認められません。
傷病手当は無関係
雇用保険(基本手当)の受給資格者が、離職後求職申し込みをしたあと疾病や負傷のため引き続き15日以上職業に就くことができなくなった場合には、基本手当の支給を受けることはできません。
雇用保険の傷病手当は、基本手当の支給を受けることができない間の生活を支援するために基本手当に代えて支給される手当です。原則として基本手当と同額の傷病手当が支給されます。なお、14日以内の疾病や負傷の場合は、基本手当の支給を受けることができます。
基本手当も傷病手当も、教育訓練給付金とは支給目的が異なるので、支給を受けても教育訓練給付金の支給に影響はありません。したがって、傷病手当の支給を受けるか受けないかにかかわらず、適用対象期間の延長は認められます。
正解と法的根拠
以上のことは、雇用保険に関する業務取扱要領58022ニ(58121、58221準用)に規定されています。したがって、選択肢Eの記述は誤りです。
4.平成21年択一問6選択肢D
平成21年(2009年実施、第41回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問6の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 6〕教育訓練給付に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 なお、この問において「教育訓練」とは雇用保険法第60条の2第1項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する教育訓練とし、「教育訓練の受講のために支払った費用」とは雇用保険法第60条の2第4項に規定する厚生労働省令で定める範囲内のものとする。 D 一般被保険者であった者が教育訓練給付金を受給する場合、当該教育訓練の開始日は、原則として、その直前の一般被保険者でなくなった日から1年以内でなければならない。
正解
選択肢Dの記述は正しいです。
解説
教育訓練給付金(一般、特定一般、専門実践)は、支給要件期間3年以上の「教育訓練給付対象者」が教育訓練を修了した場合に支給されます。
教育訓練給付対象者とは、教育訓練の受講を開始した日に一般被保険者または高年齢被保険者である場合(在職者)または、一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内に受講を開始した場合(離職後1年以内)です。
一般被保険者であった者は教育訓練の受講開始日が原則として、その直前の一般被保険者でなくなった日から1年以内でなければなりません。このことは雇用保険法第60条の2第1項、雇用保険法施行規則第101条の2の5第1項に規定されており、選択肢Dの記述は正しいです。
5.平成16年択一問6選択肢E
平成16年(2004年実施、第36回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問6の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 6〕教育訓練給付に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 なお、本問において一般被保険者とは、高年齢継続被保険者、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除いた被保険者をいう。 E 離職により一般被保険者資格を喪失した者が、離職日から1か月後に病気になり、対象教育訓練の受講を開始できない状態にあった場合でも、そのような期間が引き続き30日以上にならなければ、教育訓練給付金を受給するための受講開始日を、離職の翌日から1年より後に延ばすことはできない。
正解
選択肢Eの記述は正しいです。
解説
上記の、雇用保険法施行規則第101条の2の5第1項に定められているとおり、適用対象期間の延長が認められるのは、離職して1年以内に妊娠、出産、育児、疾病、負傷その他管轄公共職業安定所の長がやむを得ないと認める事由により、連続して30日以上教育訓練を開始することができない場合です。
離職1か月後に病気になり、教育訓練を開始することができない期間が連続して30日以上でなければ、適用対象期間の延長(受講開始日を離職後1年以内より延長すること)が認められません。したがって、選択肢Eの記述は正しいと言えます。
6.平成13年択一問6選択肢A
平成13年(2001年実施、第33回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問6の選択肢Aです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Aのみ抜粋) 〔問 6〕教育訓練給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 A 被保険者であった者が教育訓練給付金を受給する場合、教育訓練の開始日は、一般被保険者資格を喪失した日から180日以内でなければならない。
正解
選択肢Aの記述は誤りです。
解説
上記の、雇用保険法施行規則第101条の2の5第1項に規定されているとおり、受講開始日が、一般被保険者資格を喪失した日から1年以内でなければならないので、選択肢Aの記述は誤りです。
7.補足説明
併給可能
基本手当の支給を受けながら教育訓練給付金(教育訓練支援給付金を除く)の支給を受けることは可能です。また、傷病手当の支給を受けながら教育訓練給付金の支給を受けることも可能です。
教育訓練支援給付金は4年以内
専門実践教育訓練給付金について適用対象期間の延長が認められて支給対象となる場合、教育訓練支援給付金についても支給対象となります。
しかし、教育訓練支援給付金は適用対象期間が4年を超える場合は支給されません。専門実践教育訓練給付金について適用対象期間の延長(最大20年)が認められたとしても、離職して4年以内に受講を開始しないと教育訓練支援給付金は支給されません。