教育訓練休暇給付金は、在職中に無給の教育訓練休暇を取得した場合に支給される給付であり、同一期間について傷病手当金や育児休業給付など、趣旨が重なる給付との併給も制限されます。特に雇用保険の基本手当(失業給付)は失業状態にあることが支給要件であるため、在職中に受給する教育訓練休暇給付金とは同時に受給できません。
教育訓練休暇給付金
教育訓練休暇給付金とは、労働者が在職中に、スキル向上や資格取得などを目的とした教育訓練のために無給の休暇(教育訓練休暇)を取得した場合に、生活費の一部を補填するため雇用保険から支給される給付金です。離職せずに学び直しや能力開発に取り組める環境を整えることを目的としており、一定の雇用保険の被保険者期間などの要件を満たす必要があります。
失業時に支給される基本手当とは異なり、就業関係を維持したまま受給できる点が特徴です。
基本手当(失業給付)との併用と影響
雇用保険の基本手当(失業給付)は、雇用保険の被保険者が離職し「失業状態」にある場合に、生活の安定と早期再就職を支援するため支給される給付です。支給には求職活動を行うことが要件となり、離職理由や被保険者期間に応じて所定給付日数や給付額が決まります。
併用は不可
基本手当(失業給付)と教育訓練休暇給付金が制度の目的と前提となる状態が異なるため併用できません。
基本手当は離職し、就労意思と能力がありながら就職できない「失業状態」にあることが支給要件です。一方、教育訓練休暇給付金は在職中に雇用関係を維持したまま、無給の教育訓練休暇を取得する場合に支給されます。
被保険者期間
被保険者期間は、直近2年間のうち被保険者であった期間のことです。
基本手当の被保険者期間
基本手当の被保険者期間は、原則として離職の前日から遡って2年の間における「雇用保険の被保険者であった期間」です。
過去に教育訓練休暇給付金の支給を受けたことがある場合には、休暇開始日前の期間は「被保険者であった期間」に含まれません(雇用保険法第14条第2項)。つまり、教育訓練休暇給付金の支給を受けた場合の新たな被保険者期間は、教育訓練休暇開始日から起算します。このため、一定期間、基本手当等を受給することができなくなります。
なお、教育訓練休暇給付金の受給資格の決定後、教育訓練休暇取得の認定を受けず教育訓練休暇を終了した場合(=教育訓練休暇給付金の支給を受けなかった場合)は無関係です。
教育訓練休暇給付金のみなし被保険者期間
教育訓練休暇給付金のみなし被保険者期間は、教育訓練休暇開始日の前日から遡って2年の間における「雇用保険の被保険者であった期間」であり、2年間で通算して12か月以上必要です。
過去に教育訓練休暇給付金の支給を受けたことがある場合、対象教育訓練休暇を開始した日前の被保険者であった期間は、新たに教育訓練休暇給付金の支給を受けようとする場合の、みなし被保険者期間に含まれません。つまり、新たに教育訓練休暇給付金の支給を受けようとする場合の新たなみなし被保険者期間は、教育訓練休暇開始日から起算します。このため、一定期間、教育訓練休暇給付金を受給することができなくなります。
算定基礎期間
基本手当の算定基礎期間は、離職日前における「雇用保険の被保険者であった期間」であり、所定給付日数の計算の基礎となります。
また、教育訓練休暇給付金の算定基礎期間は、教育訓練休暇開始日の前日における「雇用保険の被保険者であった期間」であり、教育訓練休暇給付金の場合は5年以上必要です。
休暇開始日前の被保険者であった期間と教育訓練休暇の期間は「算定基礎期間」には含まれません。
- 基本手当の所定給付日数を決定する際に用いる算定基礎期間
- 高年齢求職者給付金の給付日数を決定する際に用いる算定基礎期間
- 新たに教育訓練休暇給付金の支給を受けようとする場合の算定基礎期間
特定教育訓練休暇給付金受給者
教育訓練休暇給付金は労働者本人が離職しないことを前提として、本人の意思により基本手当の代わりに支給を受けるものであり、離職を想定していません。しかし、教育訓練休暇給付金の支給を受けた後に、倒産・解雇等、被保険者自らの意思によらない離職が生じた場合は、本人が想定していない離職なのに失業時の生活保障が受けられないのは本来の雇用保険の目的に反しています。
そのため、教育訓練休暇を終了した日(2回以上の教育訓練休暇を取得した場合は最後の教育訓練休暇を終了した日)から起算して6か月以内に倒産・解雇等により離職した者(特定受給資格者)は、「特定教育訓練休暇給付金受給者」として特例的に基本手当の支給を受けることができます(雇用保険法第60条の4)。
また、期間の定めのある労働契約の期間が満了し、その者が更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合は、離職日が2027年(令和9年)3月31日までの場合の暫定措置として、特定教育訓練休暇給付金受給者とみなされ、一定の要件を満たす場合には基本手当の支給を受けることができます(雇用保険法附則第11条の3、附則第4条)。
特定教育訓練休暇給付金受給者となった場合は、教育訓練休暇開始日前の期間も被保険者期間として通算可能となります。特定教育訓練休暇給付金受給者となった場合の基本手当の所定給付日数は、算定基礎期間にかかわらず90日(就職困難者は150日)となります。
離職票、離職証明書の記載
事業主は、教育訓練休暇を取得したことのある被保険者が離職によって被保険者資格を喪失した場合は、離職理由にかかわらず離職証明書の「賃金に関する特記事項」欄に、「教育訓練休暇期間 ○年○月○日~○年○月○日」と記載します。なお、教育訓練休暇中に離職した場合、当該離職日を教育訓練休暇期間の末日(終了日)とします。
他の休暇制度との関係
基本的に、他の休暇制度が優先となります。
休暇の重複不可
教育訓練休暇給付金の支給に係る対象教育訓練休暇と病気休暇・有給休暇等を重複して取得することはできません。つまり、他の要因による休暇を取得した時はそれが優先となり、その期間は雇用保険法上の教育訓練休暇とはなりません。
したがって、対象教育訓練休暇の期間内に病気休暇や有給休暇を取得した場合、その日については、傷病手当金や給与の有無によらず、教育訓練休暇給付金は支給されません。
給付金の併用不可
他の休暇または休業を前提とした給付金の給付を受けている場合はそれが優先となり、教育訓練休暇給付金は支給されません。
他の給付金との関係
教育訓練給付金
教育訓練給付金と教育訓練休暇給付金は無関係です。教育訓練給付金の給付は、教育訓練休暇給付金に影響しません。また、教育訓練休暇給付金の給付は、教育訓練給付金の給付に影響しません。
教育訓練休暇の期間中、教育訓練給付金に係る教育訓練を受講した場合、教育訓練休暇給付金と教育訓練給付金の支給を受けることができます。
育児休業給付金、介護休業給付金
教育訓練休暇開始日前の被保険者であった期間は育児休業給付金及び介護休業給付金の受給資格の要件となるみなし被保険者期間に含まれます。教育訓練休暇期間も含まれます。
教育訓練休暇の期間中に介護休業、育児休業を取得した場合は、教育訓練休暇として認定されません。したがって、教育訓練休暇の期間内の介護休業、育児休業又は出生時育児休業を取得している日については、介護休業給付金又は育児休業等給付や当該休業中の給与の支給の有無にかかわらず、教育訓練休暇給付金は支給されません。
産前産後休業
労働基準法第65条第1項に規定する産前休業又は同条第2項に規定する産後休業を取得している場合、出産手当金や給与の有無によらず、教育訓練休暇給付金は支給されません。また、産前休業・産後休業を中断するなどして教育訓練休暇を開始することはできません。
育児時短就業給付金
育児時短就業給付金を受けている期間については、収入を伴う就労を行っているため、教育訓練休暇給付金は支給されません。
高年齢雇用継続給付
休暇開始日前の被保険者であった期間と教育訓練休暇の期間は、高年齢雇用継続給付の受給資格の要件となる被保険者であった期間に含まれません。
教育訓練休暇取得の認定を受けた日が1日でもある暦月は、高年齢雇用継続給付の支給対象月とはならないため、当該各暦月については、高年齢雇用継続給付は支給されません。


