社会保険労務士試験・雇用保険法の過去問の解説です。テーマは「消滅時効」です。この分野からは過去に令和4年択一問7選択肢B、令和2年択一問6選択肢C、平成28年択一問7選択肢オ、平成25年択一問7選択肢E、平成20年択一問7選択肢D、平成11年択一問1選択肢Bで出題されています。
1.社労士過去問分析
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「消滅時効」の論点
「消滅時効」については、次の論点を押さえておくとよいでしょう。それぞれの質問をクリック(タップ)すると回答を見ることができます。
- Q失業等給付を受給する権利は受給できることを知った日から2年で時効となりますか?
- A
いいえ。失業等給付等の支給を受ける権利は行使することができる時から2年を経過したときに時効消滅します。権利を行使することができる時(客観的起算点)であって、行使できることを本人が知った時(主観的起算点)ではありません。
- Q未支給失業等給付の請求権は遺族が死亡を知った日の翌日から2年で時効となりますか?
- A
いいえ。未支給失業等給付の請求権の起算点は、行使することができる時=本人が死亡した日の翌日(客観的起算点)であって、死亡したことを知った日(主観的起算点)ではありません。
- Q特定一般教育訓練給付金を受給する権利は修了の翌日から2年で時効となりますか?
- A
はい。教育訓練給付の支給を受ける権利の時効の起算点は、支給申請期限の起算点と同じ(修了日の翌日、または支給単位期間の末日の翌日)。
- Q失業等給付の返還を受ける権利は行使できるときから2年で時効となりますか?
- A
はい。政府が返還命令、納付命令によって徴収できる権利は、それを行使できるときから2年です。ただし、督促によって時効は更新(リセット)されます。
社労士試験について
社会保険労務士試験について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.令和4年択一問7選択肢B
令和4年(2022年実施、第54回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問7の選択肢Bです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Bのみ抜粋) 〔問 7〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 B 偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合に政府が納付をすべきことを命じた金額を徴収する権利は、これを行使することができる時から2年を経過したときは時効によって消滅する。
正解
選択肢Bの記述は正しいです。
解説
政府が納付をすべきことを命じた金額を徴収する権利
偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合、政府(国)はその者に対して支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずる(返還命令)ことができます。
さらに悪質な場合には、偽りその他不正の行為により受け取った失業等給付の額の2倍以下に相当する金額の納付を命ずる(納付命令)ことができます(雇用保険法第10条の4第1項)。これを不正受給処分ということがあります。
納付命令の時効
政府(国)が、不正受給者に対して返還命令や納付命令によって金銭を徴収する権利は、行使することができる時から2年を経過したときに時効によって消滅します。
このことは、雇用保険法第10条の4第1項、第74条第1項に規定されており、選択肢Bの記述は正しいと言えます。
3.令和2年択一問6選択肢C
令和2年(2020年実施、第52回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問6の選択肢Cです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Cのみ抜粋) 〔問 6〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 C 失業等給付の支給を受け、又はその返還を受ける権利及び雇用保険法第10条の4に規定する不正受給による失業等給付の返還命令又は納付命令により納付をすべきことを命ぜられた金額を徴収する権利は、この権利を行使することができることを知った時から2年を経過したときは、時効によって消滅する。
正解
選択肢Cの記述は誤りです。
解説
消滅時効の起算点
令和2年(2020年)4月1日の民法の改正により時効の制度が大きく変わりました。そのうち、消滅時効の起算点は、主観的起算点と客観的起算点の2種類となりました。
- 主観的起算点:権利を行使することができることを知った時
- 客観的起算点:権利を行使することができる時
民法の改正に伴い、雇用保険法第74条第1項も改正され、客観的起算点が採用されました。本人が権利を行使できることを知っているか否かにかかわらず時効が成立します。
本問は、この法改正を前提とした出題です。
返還命令または納付命令の時効
政府が返還命令または納付命令によって徴収できる権利は、それを行使することができるとき(客観的起算点)から2年を経過したときに時効消滅します。行使することができるときから2年であって、知った時から2年ではありません。
このことは、雇用保険法第74条第1項に規定されており、選択肢Cの「この権利を行使することができることを知った時から2年」とする記述は誤りです。
4.平成28年択一問7選択肢オ
平成28年(2016年実施、第48回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問7の選択肢オです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢オのみ抜粋) 〔問 7〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、誤っているものの組み合わせはどれか。 オ 失業等給付を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。
正解
選択肢オの記述は正しいです。
解説
失業等給付等(失業等給付及び育児休業給付)の支給を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときに時効消滅します。このことは、雇用保険法第74条第1項に規定されており、選択肢オの記述は正しいです。
5.平成25年択一問7選択肢E
平成25年(2013年実施、第45回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問7の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 7〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 E 失業等給付の支給を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。
正解
選択肢Eの記述は正しいです。
解説
失業等給付等(失業等給付及び育児休業給付)の支給を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときに時効消滅します。このことは、雇用保険法第74条第1項に規定されており、選択肢Eの記述は正しいです。
6.平成20年択一問7選択肢D
平成20年(2008年実施、第40回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問7の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 7〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 D 失業等給付の支給を受ける権利は、2年を経過したときは時効によって消滅するが、失業等給付の不正受給が行われたときに政府がその返還を受ける権利は、会計法の規定に従って、5年間これを行わないときに、時効により消滅する。
正解
選択肢Dの記述は誤りです。
解説
会計法第30条
「会計法の規定」とは、会計法第30条のことです。
会計法第30条によると、「金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、これを行使することができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する」とされています。国の持つ金銭債権と国に対する金銭債権は原則として5年で時効消滅します。
ただし、「他の法律に規定がないものは」という文言のとおり、この規定は一般的な条文であり、会計法以外の他の法律に特別な規定があればその規定が優先的に適用されます。
会計法の適用除外
失業等給付の不正受給が行われたときの政府の権利は雇用保険法第74条第1項に規定されているため、会計法第30条は適用されません。
失業等給付の不正受給が行われたときに政府がその返還を受ける権利は、2年を経過したときに時効消滅します。したがって、選択肢Eの「会計法の規定に従って、5年間これを行わないときに、時効により消滅する」とする記述は誤りです。
7.平成11年択一問1選択肢B
平成11年(1999年実施、第31回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Bです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Bのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険制度に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 B 失業等給付の支給を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。
正解
選択肢Bの記述は正しいです。
解説
失業等給付等(失業等給付及び育児休業給付)の支給を受け、又はその返還を受ける権利は、2年を経過したときに時効消滅します。このことは、雇用保険法第74条第1項に規定されており、選択肢Eの記述は正しいです。
8.補足説明
基本的に時効は2年
失業等給付、育児休業給付の支給を受ける権利、未支給の失業等給付等の支給を受ける権利、返還を受ける権利、不正受給によって支給を受けた給付の返還を受ける権利、国が納付命令によって納付金を徴収する権利の消滅時効はすべて2年です。
ちなみに、雇用保険料の徴収や還付の時効も2年です。ただし告知または督促があれば時効が更新されます。滞納したときに頻繁に督促状が来るのもこのためです。