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宗教活動や政治活動を目的とする事業であっても雇用保険の対象となる _ pr
雇用保険の被保険者

宗教活動や政治活動を目的とする事業であっても雇用保険の対象となる

宗教活動や政治活動を目的とする事業であっても雇用保険法が適用されます。賃金を受けていれば宗教活動も政治活動も「労働」です。修行、奉仕、研修など名称のいかんを問わず「労働」です。

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1.思想信条と雇用保険

思想信条と雇用保険は無関係

日本国憲法第19条には思想・良心の自由(思想・信条の自由)が規定されています。

思想・良心の自由は、信教の自由、学問の自由、表現の自由、集会結社の自由にもつながる極めて重要な人権であり、特定の思想・信条を有することまたは有しないことを理由として異なる取り扱いをすることは、法の下の平等(日本国憲法第14条第1項)にも反します。

参考法令
日本国憲法 第19条  思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

特定の思想・信条をもって組織された団体で、団体内部の自治がある程度認められるからといって、それを理由として「雇用保険の対象外」と主張することは許されません。どのような団体であっても雇用される労働者は雇用保険の対象です。

また、労働者自身の思想・信条を理由として雇用保険の加入を拒否することはできません。なぜなら、もし思想・信条によって雇用保険法の適用関係が異なるのであれば、国が当該団体または当該労働者の思想・信条を調査することになり、重大な人権侵害につながるおそれがあるからです。

ただし、反社会的勢力や破壊的団体などは例外です。

社会保険との違い

社会保険(健康保険、厚生年金)は、法人事業所は業種を問わず全て強制適用となりますが、個人事業所は業種や従業員の人数によって適用されない場合があります。

これに対して、労働保険(労災、雇用保険)は、法人・個人を問わず、また業種を問わず、労働者を雇用する事業であれば原則として強制適用となります。思想・信条にかかわる事業であっても、雇用保険は全て強制適用です。

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2.宗教者、宗教団体に雇用される労働者

営利を目的としない宗教活動も労働者を雇用すれば、雇用保険法の「事業」にあたります。事業主が特定の宗教活動を行う者であったとしても、原則として、通常の会社や団体と同じように雇用保険法が適用されます。

宗教的な信念は尊重されるべきではありますが、労働ではなく「修行だから適用されない」などといった主張は絶対に認められません。

宗教者について

宗教者とは、名称のいかんを問わず、宗教の教義をひろめ、宗教上の儀式や行事を行い、その他宗教上の行為を行う人たちのことです。宗教法人だけでなく、個人の宗教指導者や宗教団体も含まれます。

この宗教者のなかには、その宗教施設の管理人または責任者のような人もいれば、その管理人の指揮監督のもとで労務を提供する代わりに報酬を受け取っている人もいます。また、宗教施設で生活し、ただひたすら奉仕するだけの修行者もいます。

管理者は労働者ではない

宗教者のうち、当該宗教施設を現場で管理している人は、一般的な会社では経営者にあたります。したがって、雇用保険法の被保険者とはなりません。

管理者:当該宗教施設を管理する人(住職、神主、牧師など)

修行者は労働者ではない

また、住み込みで生活をしながら修行をしたり、宗教の勉強をしているだけの人は雇用されていませんので被保険者とはなりません。宗教施設内で掃除をしたり、家事をしたりすることがあったとしても、家事使用人にあたると言えますから被保険者とはなりません。

修行者:住み込みで生活し、ただひたすら修行している人(修行者や出家信者など)

報酬を得ている人は労働者にあたる

名称のいかんにかかわらず、管理者の指揮監督のもとで宗教施設の運営のために労務を提供し、その対価を受け取っている場合は労働者にあたります。

宗教施設の管理権限のない人が、施設内で何らかの作業をして定期的に賃金を受け取って生活しているのであれば「労働者」に該当するものと考えて差し支えありません。

労働者:宗教施設の運営のために労務を提供し、報酬を得ている人(僧侶や巫女など)

なお、作業内容が、宗教上の奉仕または修行であるか否かは問いません。前述のとおり、ハローワーク(国)が労働者の宗教的な信念を詮索して、宗教活動か否かで異なる取り扱いをするのは許されないからです。

労働者に該当するかどうかは個々の事例について実情に即して判断します。

ちなみに、過去の行政通達や判例では、具体的な勤務条件、報酬の額や支給方法等が一般企業の労働者と比較して同等のものであれば「労働者」に該当し、極端に少ない報酬しか受け取っていなければ労働者ではないと判断しているようです(労働条件が悪くなるほど労働法で保護されないというのもいかがなものかと思いますが、純粋な修行者と区別するにはこうするしかないのでしょう)。

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3.政治家、政治団体に雇用される労働者

政治活動を行う個人や団体も労働者を雇用すれば、雇用保険法の「事業」にあたります。政治家や政治団体も、原則として、通常の会社や団体と同じように雇用保険法が適用されます。

労働ではなく「政治活動の一環だから適用されない」などといった主張は絶対に認められません。

政治家または政治団体の指揮監督のもとで、業務指示を受けて業務を行い、その対価として報酬を受けているのであれば、「労働者として雇用されている」と言えます。業務の内容が政治的な活動を行うことであったとしても「労働者」です。また、政治家になるための修行であったとしても「労働者」です。

4.教育訓練給付との関係

教育訓練給付対象者

教育訓練給付を受けられるのは雇用保険に加入している労働者(被保険者)もしくは加入したことがある人だけです。労働者性が認められれば教育訓練給付対象者となります。宗教活動や政治活動を目的とする事業に雇用される労働者は教育訓練給付の対象です。

ただし、現在労働者でない場合であっても過去1年以内に労働者だった人は雇用保険に加入した可能性があるので教育訓練給付を受けられることがあります。

特定の宗教または政治に関する教育訓練

厚生労働大臣が指定する教育訓練給付対象講座の指定基準には、特定の宗教または政治的思想を排除する規定はありません

特定の宗教または思想・信条を教育する教育訓練講座が、厚生労働大臣の指定を受ける場合もあります。実際に、仏教系の大学院が実施する「仏教学専攻」の教育訓練が指定されている例があります(現在も指定されています)。

政治学や宗教学、死生学のように特定の思想・信条に限定しない学問が、教育訓練給付対象講座として指定されることもあります。大学院の政治学専攻、人間科学研究科といった名称で、政治や宗教の授業が行われることがあります。

また、教育訓練給付対象講座のカリキュラムのなかで、特定の宗教または思想・信条を扱う講義や課外活動が行われる場合もあります。例えば、ミッション系の学校が介護福祉士などの公的資格の取得を目標とする教育訓練の一部として、キリスト教の世界観を教える授業(キリスト教社会福祉学、キリスト教人間学など)をする例があります(現在も指定されています)。