社会保険労務士試験・雇用保険法(択一式試験)の過去問の解説です。テーマは「外国会社、在日外国人、在外邦人」です。
1.重要論点チェックテスト
「外国会社、在日外国人、在外邦人」については、次の論点を押さえておくとよいでしょう。それぞれの質問をクリック(タップ)すると回答を見ることができます。
- Q外国の事業主が日本国内で行う事業に雇用される者は被保険者となりますか?
- A
はい。外国籍又は無国籍の事業主、外国の機関、外国会社が日本国内において行う事業は、労働者が雇用される事業である限り、国籍を問わず適用事業であり、これらの事業に雇用される者は適用除外でない限り雇用保険の被保険者となります。
- Q駐留軍関係労務者は被保険者となりますか?
- A
はい。駐留軍関係労務者も家事使用人を除き雇用保険の被保険者となります。
- Q被保険者が日本国外に出張すると被保険者資格を喪失しますか?
- A
いいえ。日本国内で雇用されている雇用保険の被保険者が、その事業主の命により、日本国外に出張する場合、元の事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者の資格は継続します。
- Q被保険者が、その事業主の日本国外の支社に転勤すると被保険者資格を喪失しますか?
- A
いいえ。日本国内で雇用されている雇用保険の被保険者が、その事業主の命により、日本国外にある元の事業主の支店や出張所等に転勤(異動)する場合、元の事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者の資格は継続します。
- Q被保険者が、日本国外の他の事業主に出向すると必ず被保険者資格を喪失しますか?
- A
いいえ。日本国内で雇用されている雇用保険の被保険者が、その事業主の命により、日本国外の他の事業主に出向する場合であっても、元の事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者の資格は継続します。
- Q日本国外で採用された日本国民は被保険者となりますか?
- A
いいえ。日本国外で採用された者は、国籍のいかんにかかわらず雇用保険の被保険者となりません。日本法人の海外支社に採用される日本国民であっても、現地で採用された者は対象外です。
- Q日本国内の事業に雇用される外国人は被保険者となりますか?
- A
はい。日本国内の事業に雇用される在日外国人は国籍(無国籍を含む。)のいかんを問わず雇用保険の被保険者となります。
- Q日本在住の外国公務員は被保険者となりますか?
- A
いいえ。在日外国人は雇用保険の被保険者となりますが、外国公務員(外交官など)及び外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除きます。
- Qワーキング・ホリデー制度による入国者は、被保険者となりますか?
- A
いいえ。ワーキング・ホリデー制度による入国者は、雇用保険の被保険者となりません。
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当サイト解説記事
社労士試験について
社会保険労務士試験について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3.過去問解説
令和5年択一問1選択肢D
令和5年(2023年実施、第55回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険の被保険者に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 D ワーキング・ホリデー制度による入国者は、旅行資金を補うための就労が認められるものであることから、被保険者とならない。
解答
選択肢Dの記述は正しいです。
解説
被保険者とは、適用事業に雇用される労働者であって、法第6条各号に掲げる者以外のものをいいます。「労働者」とは、事業主に雇用され、事業主から支給される賃金によって生活している者をいいます。
ワーキング・ホリデー制度とは、2国間の協定に基づいて相手国での生活を体験しながら、その間の滞在資金を補うために一定の就労(アルバイト)をすることが許可される制度です。
ワーキング・ホリデー制度による入国者は、あくまで観光が第一目的であり、就労を第一目的とすることは禁じられています。主として休暇を過ごすことを目的として入国し、日本での生活を体験しながら、その休暇の付随的な活動として旅行資金を補うための就労が認められている「観光客」にすぎません。
生活のための就労を主目的とする「労働者」には該当しないので、雇用保険の被保険者とはなりません。このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352ヘに記載されており、選択肢Dの記述は正しいです。
令和5年択一問1選択肢E
令和5年(2023年実施、第55回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険の被保険者に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 E 日本の民間企業等に技能実習生(在留資格「技能実習1号イ」、「技能実習1号ロ」、「技能実習2号イ」及び「技能実習2号ロ」の活動に従事する者)として受け入れられ、講習を経て技能等の修得をする活動を行う者は被保険者とならない。
解答
選択肢Eの記述は誤りです。
解説
被保険者とは、適用事業に雇用される労働者であって、法第6条各号に掲げる者以外のものをいいます。「労働者」とは、事業主に雇用され、事業主から支給される賃金によって生活している者をいいます。
技能実習とは、外国人が技能等を修得するため、出入国管理及び難民認定法の在留資格をもって入国し、雇用契約に基づいて報酬を受けながら実習をする制度をいいます。
入国1年目は、在留資格「技能実習1号イ」または「技能実習1号ロ」をもって入国し、最初に座学または見学による講習を原則2か月間実施します。この講習は雇用契約を締結しないので、講習期間中に技能実習生に業務を行わせることは一切できません。そのため、この講習期間は雇用保険法の適用を受けず、雇用保険の被保険者とはなりません。
ただし、企業が受け入れをする場合(技能実習1号イ)で、入国当初から受入先の事業主と雇用契約を結び、雇用契約に基づいて事業主の事業所内で講習を実施する場合は雇用保険の被保険者となります。
入国当初の講習を終了したうえで、技能等の修得をする活動(実習)を行う場合には、受入先の事業主との雇用契約に基づいて国内の事業所において当該技能等に係る業務に従事することとなるため、雇用保険の被保険者となります。また、実習期間中に実施する、工場の生産ライン等商品を生産するための施設における機械操作教育や安全衛生教育についても雇用保険の適用があります。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352チに記載されており、選択肢Eの「講習を経て技能等の修得をする活動を行う者は被保険者とならない」とする記述は誤りです。
補足(第3号技能実習について)
なお、技能実習制度については、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)が2017年(平成29年)11月1日に施行され、在留資格「技能実習3号イ」、「技能実習3号ロ」が新設されました。
第3号技能実習の新設後も、厚生労働省労働基準局長通知(通達)により技能実習生に対して通常の労働者と同様に雇用保険法が適用されることとなっています。そのため、1号~3号の区分に関係なく入国当初の講習期間を除いて、技能実習生は雇用保険の被保険者となります。
令和4年択一問2選択肢D
令和4年(2022年実施、第54回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問2の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 2〕適用事業に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 D 日本国内において事業を行う外国会社(日本法に準拠してその要求する組織を具備して法人格を与えられた会社以外の会社)は、労働者が雇用される事業である限り適用事業となる。
解答
選択肢Dの記述は正しいです。
解説
外国会社とは、日本法に準拠して、その要求する組織を具備して法人格を与えられた会社以外の会社をいいます。つまり、外国で設立された会社で、日本法人を設立しないで日本国内で活動する事業のことです。雇用保険法第5条第1項では、「この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする」と規定されています。
外国会社が日本国内において行う事業は、日本人以外の事業主が日本国内において行う事業と同様、雇用保険法第5条に該当する限り、国籍のいかん及び有無を問わず、適用事業となります。つまり、労働者が雇用される事業に該当すれば適用事業となります。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20051に記載されており、選択肢Dの記述は正しいです。
平成25年択一問1選択肢D
平成25年(2013年実施、第45回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険の適用事業及び被保険者に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 D 日本国に在住する外国人が、期間の定めのない雇用として、適用事業に週に30時間雇用されている場合には、外国公務員又は外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除き、国籍(無国籍を含む。)のいかんを問わず被保険者となる。
解答
選択肢Dの記述は正しいです。
解説
日本国に在住する外国人(在日外国人)は、国籍(無国籍を含む。)のいかんを問わず被保険者となります。ただし、外国公務員及び外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除きます。
選択肢Dのように、期間の定めのない雇用として、週の所定労働時間が30時間であれば適用除外とはならないので被保険者となります。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352に記載されており、選択肢Dの記述は正しいです。
平成24年択一問1選択肢D
平成24年(2012年実施、第44回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険の適用事業及び被保険者に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 D 適用事業で雇用される被保険者が、事業主の命を受けて取引先である中国企業の北京支店に出向した場合、当該出向元事業主との雇用関係が継続している場合であっても、当該出向期間が4年を超えると、被保険者たる資格を失う。
解答
選択肢Dの記述は誤りです。
解説
適用事業に雇用される労働者が事業主の命により、日本国の領域外にある他の事業主の事業に出向し、雇用された場合でも、国内の出向元事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者となります。
雇用関係が継続しているかどうかはその契約内容によって判断し、継続している場合は特段の事務処理は必要なく、従前の適用事業(出向元事業主)に雇用されているものとみなします。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352に記載されており、選択肢Dの「当該出向期間が4年を超えると、被保険者たる資格を失う」とする記述は誤りです。
平成21年択一問1選択肢B
平成21年(2009年実施、第41回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Bです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Bのみ抜粋) 〔問 1〕雇用保険の被保険者に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 B 日本に在住する外国人が、いわゆる常用型の派遣労働者として特定労働者派遣事業者である適用事業に週に40時間雇用されている場合には、外国公務員又は外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除き、国籍(無国籍を含む。)のいかんを問わず被保険者となる。
解答
選択肢Bの記述は正しいです。
解説
日本国に在住する外国人(在日外国人)は、国籍(無国籍を含む。)のいかんを問わず被保険者となります。ただし、外国公務員及び外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者を除きます。
選択肢Dのように、常用型派遣労働者として、週の所定労働時間が40時間であれば適用除外とはならないので被保険者となります。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352に記載されており、選択肢Dの記述は正しいです。
平成19年択一問1選択肢C
平成19年(2007年実施、第39回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問1の選択肢Cです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Cのみ抜粋) 〔問 1〕被保険者に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 C 適用事業で雇用される被保険者が、事業主の命を受けて、取引先である米国企業のサンフランシスコ支店に3年間の予定で出向する場合、当該出向元事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者たる資格を失わない。
解答
選択肢Cの記述は正しいです。
解説
適用事業に雇用される労働者が事業主の命により、日本国の領域外にある他の事業主の事業に出向し、雇用された場合でも、国内の出向元事業主との雇用関係が継続している限り、被保険者となります。
雇用関係が継続しているかどうかはその契約内容によって判断し、継続している場合は特段の事務処理は必要なく、従前の適用事業(出向元事業主)に雇用されているものとみなします。
このことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)20352に記載されており、選択肢Cの記述は正しいです。