社会保険労務士試験・雇用保険法の過去問の解説です。テーマは「未支給の失業等給付の請求手続き」です。この分野からは過去に令和3年択一問2選択肢B,C,D,Eで出題されています。
1.社労士過去問分析
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重要論点チェックテスト
「未支給の失業等給付の請求手続き」については、次の論点を押さえておくとよいでしょう。それぞれの質問をクリック(タップ)すると回答を見ることができます。
- Q未支給の失業等給付を請求する期限はいつまでですか?
- A
未支給の失業等給付は、死亡の翌日から起算して6か月以内に請求しなければなりません。遺族がその死亡を知った日ではなく、本人が死亡した日の翌日から6か月以内です。ただし、時効は2年なので実際には2年以内ならば請求可能です。
- Q未支給の失業等給付は、死亡した本人に代わって本人の名で請求しますか?
- A
いいえ。未支給の失業等給付を請求する遺族は、自己の名(遺族の名義)で請求します。「未支給失業等給付請求書」の請求者の欄には遺族の氏名を記入して請求します。振込先口座も遺族の名義です。
- Q未支給失業等給付請求書に添付する書類の名義も、遺族の名義に変える必要がありますか?
- A
いいえ。未支給失業等給付請求書に添付する書類(支給申請書、修了証明書、領収書など、もともと本人が死亡しなければ支給されるはずだった給付金に関連する書類)は、教育訓練を実際に受けた本人(死亡した本人)の名義でよいです。
- Q基本手当を支給しないこととされている期間について、遺族が未支給の教育訓練支援給付金を請求できますか?
- A
いいえ。法律上、基本手当や教育訓練支援給付金を支給しないことと定められている期間については、本人が生存していたとしても教育訓練支援給付金は支給されないので、遺族も請求できません。
- Q本人が失業認定を受ける前に死亡した場合、遺族が未支給の教育訓練支援給付金を請求できますか?
- A
はい。教育訓練支援給付金など、失業認定を必要とする給付金で、本人がハローワークに出頭して失業認定を受ける前に死亡した場合、遺族はハローワークに対して「死亡した本人についての失業認定」を受けたうえで、自己の名で給付金を請求することができます。
未支給失業等給付の遺族の過去問
未支給失業等給付の遺族の順位についてはこちらの記事をご覧ください。
社労士試験について
社会保険労務士試験について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.令和3年択一問2選択肢B
令和3年(2021年実施、第53回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問2の選択肢Bです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Bのみ抜粋) 〔問 2〕未支給の失業等給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 B 失業等給付の支給を受けることができる者が死亡した場合において、未支給の失業等給付の支給を受けるべき順位にあるその者の遺族は、死亡した者の名でその未支給の失業等給付の支給を請求することができる。
正解
選択肢Bの記述は誤りです。
解説
未支給の失業等給付
「未支給の失業等給付」とは、失業等給付を受給するはずだった受給資格者が支給される前に死亡したか、または失踪宣告を受けて死亡の認定を受けた場合に、死亡した前日までで未支給となっている失業等給付の支給を遺族が受けることができることをいいます。
雇用保険法の失業等給付は失業等給付は受給資格者の権利ですが、第三者に譲渡することのできない一身専属権であるため、死亡した時点でその権利は消滅します。また、相続をすることができません。
しかし、生計を同じくしていた遺族が生活の支援のために受けることができたはずの失業等給付が支給されないことになってしまいますので、雇用保険法上特別に遺族の権利として認めたものです。
請求権者は死亡した本人ではなく遺族です。
未支給失業等給付請求書
未支給失業等給付請求書は「雇用保険法施行規則様式第10号の4」を使用します。「1.死亡した者」の欄には死亡した受給資格者の情報を記入し、「2.請求者」の欄には遺族の情報を記入するとともに死亡した者との続柄を記入します。
最後に、請求者氏名、つまり遺族の署名を記すことによって遺族自身の名で請求している体裁となっています。
正解と法的根拠
雇用保険法第10条の3第1項に規定しているとおり、死亡した者ではなく遺族自身の名で未支給失業等給付を請求します。したがって、選択肢Bの「死亡した者の名で」とする記述は誤りです。
3.令和3年択一問2選択肢C
令和3年(2021年実施、第53回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問2の選択肢Cです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Cのみ抜粋) 〔問 2〕未支給の失業等給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 C 正当な理由がなく自己の都合によって退職したことにより基本手当を支給しないこととされた期間がある受給資格者が死亡した場合、死亡した受給資格者の遺族の請求により、当該基本手当を支給しないこととされた期間中の日に係る未支給の基本手当が支給される。
正解
選択肢Cの記述は誤りです。
解説
本来支給されない給付
未支給失業等給付の請求権は、本来死亡した本人が死亡していなかった場合に支給を受けられるはずの給付を、遺族が請求するものです。したがって、仮に死亡していなかった場合に支給要件を満たしていない給付は、遺族も請求できません。
基本手当は、7日間の待期(雇用保険法第21条)は支給されません。また、被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され、または正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合(雇用保険法第33条第1項)、待期の満了の日の翌日から起算して1か月~3か月の間、支給されません。
このように、雇用保険法上基本手当を支給しないこととされている期間は、死亡した後、遺族も請求することができません。また、基本手当以外の給付についても、本人が生存していた場合に支給要件を満たしていない給付は、支給することができない(遺族が請求できない)こととされています。
教育訓練支援給付金の場合
ちなみに、教育訓練支援給付金についても、本来死亡した本人が死亡していなくても教育訓練支援給付金が支給されないとされている期間については、死亡した後、遺族も請求することができません。
また、基本手当が支給されないとされている期間についても教育訓練支援給付金は支給されないので、死亡した後、遺族も請求することができません。
正解と法的根拠
以上のことは、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)53103イに規定されており、選択肢Cの「当該基本手当を支給しないこととされた期間中の日に係る未支給の基本手当が支給される」とする記述は誤りです。
4.令和3年択一問2選択肢D
令和3年(2021年実施、第53回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問2の選択肢Dです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Dのみ抜粋) 〔問 2〕未支給の失業等給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 D 死亡した受給資格者が、死亡したため所定の認定日に公共職業安定所に出頭し失業の認定を受けることができなかった場合、未支給の基本手当の支給を請求する者は、当該受給資格者について失業の認定を受けたとしても、死亡直前に係る失業認定日から死亡日までの基本手当を受けることができない。
正解
選択肢Dの記述は誤りです。
解説
失業認定が支給要件となっている給付
失業等給付のうちハローワークに出頭して失業の認定を受けることが支給要件となっている給付について、本人が失業認定を受ける前に死亡した場合、遺族はハローワークに対して「死亡した本人についての失業認定」を求めます。
ハローワークでは、失業認定の際に次回の失業認定日(出頭日)を必ず指示します。
死亡したため指示された失業認定日にハローワークに出頭することができず、失業の認定を受けることができなかった基本手当は、遺族が、本人についての失業の認定を求めます(雇用保険法第31条第1項)。つまり、死亡直前の失業認定日だけでなく、死亡した後の失業認定日(出頭できなかった認定日)についても死亡日までの失業認定を受けることによって支給されます。
さらに、死亡した日(当日)についても失業認定が可能であれば、当日についても支給します。
ハローワークが本人についての失業を認定した場合、認定された日について遺族の名で給付金を請求することができます。
教育訓練支援給付金の場合
ちなみに、教育訓練支援給付金も失業認定を要する給付であり、上記の雇用保険法第31条第1項が準用されています。
正解と法的根拠
以上のことは、雇用保険法第31条第1項、雇用保険に関する業務取扱要領(行政手引)53103イに規定されています。したがって、選択肢Dの「失業の認定を受けたとしても、死亡直前に係る失業認定日から死亡日までの基本手当を受けることができない」とする記述は誤りです。
5.令和3年択一問2選択肢E
令和3年(2021年実施、第53回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問2の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 2〕未支給の失業等給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 E 受給資格者の死亡により未支給の失業等給付の支給を請求しようとする者は、当該受給資格者の死亡の翌日から起算して3か月以内に請求しなければならない。
正解
選択肢Eの記述は誤りです。
また、以下の説明において、教育訓練給付の場合は「受給資格者」を「教育訓練給付の支給を受けることができる者」と読み替えるものとします(読み替えても同じ)。
解説
申請期限は6か月
雇用保険法の申請期限は給付によって異なりますが、未支給の失業等給付は、死亡した受給資格者等(教育訓練給付の支給を受けることができる者も含まれる)が死亡した日の翌日から起算して6か月以内に請求しなければなりません。
消滅時効は2年
未支給の失業等給付の支給を受ける権利は、雇用保険法第74条の時効の規定により、行使することができる時から2年を経過したときに時効が完成して消滅します。
未支給の失業等給付の場合、「行使することができる時」とは受給資格者等が死亡した日の翌日のことであり、受給資格者等が死亡した日の翌日から起算して2年間を経過する日に時効が完成します。
申請期限の「6か月以内」はあくまでも迅速な給付を行うための原則であり、時間が経過してしまうと給付金の再計算が発生する可能性があって面倒なことになるので「できるだけ早く申請してほしい」という意味です。
やむを得ない理由があるか否かにかかわらず、時効が完成するまでの期間内(2年以内)であれば法律上、未支給の失業等給付を請求することが可能です。
正解と法的根拠
以上のことは、雇用保険法施行規則第17条の2第1項に規定されています。したがって、選択肢Eの「3か月以内に請求しなければならない」とする記述は誤りです。