民法第30条の規定により家庭裁判所が利害関係人の請求により失踪宣告を行った場合は、民法第31条の規定により死亡したものと扱われます。教育訓練給付の手続においても死亡したものとみなされます。
1.遺族の未支給教育訓練給付の請求
未支給の教育訓練給付
教育訓練給付の支給を受ける資格のある人(受給資格者)が死亡した場合において、死亡者本人に支給されていない給付があるときは、死亡者本人の遺族がその未支給の教育訓練給付を請求することができます。
死亡とは
「死亡」とは、官公署または医師によって死亡の証明がなされたものをいいます。死亡が確認されていない行方不明や心肺停止状態は含まれません。
ただし、生死が不明であることを理由として、民法第30条の規定に基づく手続きを経て、失踪宣告を受けた場合は死亡したものと扱われます。
2.失踪宣告とは
失踪宣告(しっそうせんこく)とは、不在者、生死不明の者、死体が確認できていない者などを死亡したものとみなし、その者にかかわる法律関係をいったん確定させるための制度です(民法第30条)。
家庭裁判所は、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、財産管理人、受遺者など)の請求により、家事審判によって失踪宣告を行います(家事事件手続法第39条)。
家庭裁判所により失踪宣告を受けた者は、民法第31条の規定により死亡したものとみなされ、戸籍に記載されます。未支給の教育訓練給付においても死亡したものとみなされます。
3.失踪宣告の種類
失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。
普通失踪は、不在者の生死が明らかでなくなってから7年間経過した場合をいいます。失踪宣告があった場合は、失踪の期間にかかわらず、失踪から7年を経過した時点で死亡したものとみなされます。
特別失踪は、戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、1年間生死が明らかでない場合をいいます。失踪宣告があった場合は、危難が去った時点で死亡したものとみなされます。
4.失踪宣告と未支給の教育訓練給付
普通失踪の場合は請求できない
普通失踪の場合は、失踪してから7年間経過したときに死亡したものとみなされます。そして、失踪してから7年経過するまでは生存していたものと推定されます。
教育訓練給付金(一般教育訓練給付金、特定一般教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付金)については2年で時効となります。7年間生存していて請求権を行使しなかったのですから給付金を受け取る権利が消滅しています。したがって、遺族が未支給の教育訓練給付金を請求することはできません。
また、教育訓練支援給付金についても、7年間行方不明なので専門実践教育訓練を受講していないことは明らかであり、仮に死亡していなくても教育訓練支援給付金の支給決定を受けることができないものと考えられます。したがって、遺族が未支給の教育訓練支援給付金の支給を受けることはできません。
ちなみに、未支給給付金の支給を請求できる遺族は、死亡当時(=失踪してから7年経過した日)に生計を同じくしていた者であり、7年間行方不明の者と生計を同じくすることは不可能なので、やはり請求することはできません。
特別失踪の場合は請求できる可能性がある
特別失踪の場合は、「危難が去った時」に死亡したものとみなされる(1年経過時ではなく危難が去った時点)ため、未支給の教育訓練給付の支給対象となる可能性があります。また、教育訓練支援給付金についても失業の認定は可能です。
未支給給付金の支給を請求できる遺族は、死亡当時(=危難が去った日)に生計を同じくしていた者ですが、危難が発生してから去るまでの期間が短期間であるため、危難が去った日の時点で生計を同じくしていたことを証明できる書類を提出すればよいです。
5.認定死亡の場合
認定死亡(にんていしぼう)は、事故や災害などで死亡した蓋然性が極めて高いが、死体が確認できない場合に、取調をした官庁または公署が死亡を認定し、これを受けて戸籍に死亡の記載がなされる制度です(戸籍法第89条)。
この場合は通常の死亡と同様に、遺族がその未支給の教育訓練給付を請求することができます。
6.申請期限と時効について
未支給の教育訓練給付は、死亡した日の翌日から起算して6か月以内に請求しなければなりません(雇用保険法施行規則第17条の2)。また、請求権の時効は死亡した日の翌日から起算して2年以内です。「死亡した日」とは、失踪宣告の場合は死亡とみなされた日(失踪から7年経過した日または危難が去った日)です。