社会保険労務士試験・雇用保険法の過去問の解説です。テーマは「教育訓練給付金と未支給失業等給付に関する事務の管轄」です。この分野からは過去に令和元年択一問4選択肢C,Eで出題されています。
1.社労士過去問分析
重要論点チェックテスト
「事務の管轄」については、次の論点を押さえておくとよいでしょう。それぞれの質問をクリック(タップ)すると回答を見ることができます。
- Q教育訓練給付対象者について行う教育訓練給付に関する事務は誰が行いますか?
- A
教育訓練給付対象者について行う教育訓練給付に関する事務(教育訓練給付の申請先)は、教育訓練給付対象者の住居所管轄の公共職業安定所の長が行います。ただし、事務の委嘱があったときは委嘱先の公共職業安定所の長が行います。
- Q教育訓練給付対象講座の指定を受けるには教育訓練実施者の所在地を管轄するハローワークに申請するのですか?
- A
いいえ。雇用保険に関する事務のうち、教育訓練給付対象者に対する給付の事務は公共職業安定所長が行いますが、教育訓練実施者については公共職業安定所長が事務を行うものとされていないため、厚生労働省が委託した機関(中央職業能力開発協会)が申請を受けつけています。
- Q未支給失業等給付は、請求者である遺族の住居所管轄のハローワークに請求するのですか?
- A
いいえ。未支給失業等給付の請求者について行う当該未支給失業等給付に関する事務(未支給失業等給付の請求先)は、死亡者本人の死亡の当時の住居所管轄の公共職業安定所の長が行います。ただし、事務の委嘱があったときは委嘱先の公共職業安定所の長が行います。
社労士試験について
社会保険労務士試験について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2.令和元年択一問4選択肢C
令和元年(2019年実施、第51回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問4の選択肢Cです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Cのみ抜粋) 〔問 4〕雇用保険事務に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 C 教育訓練給付金に関する事務は、教育訓練給付対象者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所長が行う。
正解
選択肢Cの記述は正しいです。
解説
教育訓練給付対象者
教育訓練給付対象者とは、雇用保険法第60条の2第1項の各号のいずれかに該当する者のことで、具体的には、一般被保険者または高年齢被保険者である人(在職者)と一般被保険者または高年齢被保険者でなくなった日から1年以内の人(1年以内の離職者)のことです。
実際には、ハローワークでは支給要件照会や受講相談など「教育訓練給付対象者」に該当しない人の相談も受け付けてくれますが、法律上は「教育訓練給付対象者」についての事務を行っています。本問もそれを前提として回答すればよいです。
事務の管轄
この問題は雇用保険施行規則第1条に規定されている「事務の管轄」に関する出題であると考えられます。
法令上、公共職業安定所長が教育訓練給付対象者について行うものと定められている教育訓練給付に関する事務については、その者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所の長が行うこととなっています。このことは雇用保険法施行規則第1条第5項第1号で定められています。
事務の委嘱を考慮すると選択肢Cの記述は誤りとなります。しかし、事務の委嘱を考えるとすべての選択肢が誤りとなるため、本問については無視できるものと考えられます。
したがって、選択肢Cの記述は正しいといえます。
2.令和元年択一問4選択肢E
令和元年(2019年実施、第51回)社労士試験、択一式試験・雇用保険法問4の選択肢Eです。
問題
択一式試験・雇用保険法(選択肢Eのみ抜粋) 〔問 4〕雇用保険事務に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。 E 未支給の失業等給付の請求を行う者についての当該未支給の失業等給付に関する事務は、受給資格者等の死亡の当時の住所又は居所を管轄する公共職業安定所長が行う。
正解
選択肢Eの記述は正しいです。
解説
未支給の失業等給付とは、受給資格者等(教育訓練給付金の支給を受けることができる者も含まれる)が死亡したときに、遺族が支給されていない給付金を請求することができる給付金です。
法令上、公共職業安定所長が行うものと定められている事務のうち未支給の失業等給付に関する事務については、遺族の住居所ではなく、死亡した本人の死亡当時の住所又は居所を管轄する公共職業安定所の長が行うこととなっています。このことは雇用保険法施行規則第1条第5項第5号で定められています。
未支給の失業等給付も事務の委嘱ができることが定められています(雇用保険法施行規則第17条の4)。この場合も雇用保険法施行規則第1条第5項第5号の適用が排除されていますが、本問では無視してよいと思われます。
したがって、選択肢Eの記述は正しいといえます。
4.補足説明
事務の委嘱
雇用保険法施行規則第54条では事務の委嘱について定められています。
本人の申し出によって管轄公共職業安定所長が必要と認めた場合は、管轄外の公共職業安定所長に事務を委嘱することができます。委嘱が行われた場合は、上記の雇用保険法施行規則第1条第5項第1号の規定を適用せず、委嘱を受けた公共職業安定所長が事務を行うこととなっています。
この規定は雇用保険法施行規則第101条の2の15によって教育訓練給付金の支給についても準用されています。
未支給の失業等給付も事務の委嘱ができることが定められています(雇用保険法施行規則第17条の4)。委嘱が行われた場合は、上記の雇用保険法施行規則第1条第5項第5号の規定を適用せず、委嘱を受けた公共職業安定所長が事務を行うこととなっています。
教育訓練給付金に関する事務?
厳密にいえば、選択肢Cの「教育訓練給付金に関する事務は、~」という言い方は正しくありません。
厚生労働省組織規則によると、教育訓練給付に関する事務は原則として、厚生労働省職業安定局、都道府県労働局、公共職業安定所(安定所若しくはその長)が行います。公共職業安定所長だけではなく上位の機関も事務を行います。また、中央職業能力開発協会など厚生労働省外の組織が行うこともあります。
ところで、事務の管轄を定めている雇用保険法施行規則第1条第5項の規定は、「公共職業安定所長が行う事務は、~を管轄する公共職業安定所の長が行う。」という文言となっています。これは、法令で公共職業安定所長が行うと定められている事務に限定して、その管轄(地域管轄)を定めているだけであって、公共職業安定所長だけが教育訓練給付に関する事務をすべて行うと解釈してはいけません。
雇用保険法施行規則の文言のとおり「公共職業安定所長が教育訓練給付対象者について行う教育訓練給付に関する事務は、その者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所の長が行う。」が正しいです。
船員に関する特例
雇用保険の被保険者または被保険者であった者が、雇用保険法第6条第5号に規定する船員となった場合は、未支給の失業等給付の事務(第17条の2~第17条の4)について「公共職業安定所又は地方運輸局(運輸監理部並びに厚生労働大臣が国土交通大臣に協議して指定する運輸支局及び地方運輸局、運輸監理部又は運輸支局の事務所を含む。)の長」と読み替えることになっています(雇用保険法施行規則第144条の2)。
このように、未支給の失業等給付の事務を公共職業安定所以外の機関が行うこともあります。